2026年10月、OpenAIが社内の最先端AIモデルを使って生成した722件に及ぶ「数学的成果」を発表しました。これに対し、世界各国の数学者らにより構成されているThe Association for Human Mathematics(人間のための数学協会)が、「一度に700以上の成果を公開することは学術的な成果を示すものではなく、権力の誇示に過ぎない」と批判しています。
Statements — AHM
https://www.ahmath.org/statements
OpenAI’s math solutions aren’t meeting the field’s standards yet | TechCrunch
https://techcrunch.com/2026/10/08/openais-math-solutions-arent-meeting-the-fields-standards-yet/
近年はAIモデルがさまざまな研究に利用されるようになっていますが、数学者の中には数学研究においてAIを使うことが証明の信頼性や研究の自律性を損なうとして、潜在的な脅威になり得ると主張する声もあります。また、AI開発企業はAIモデルのベンチマークとして数学的問題解決を用いることがありますが、AIによる論文には数学者が一般的に提供する説明が含まれていない点も問題視されています。
AIベンチマークに数学を使うのは有害だとして数学者たちが反発 – GIGAZINE
そんな中でOpenAIは2026年10月6日、社内AIモデルによって得られた722件の数学的成果を発表しました。これらは数学分野ごとに分類されており、数学的証明をコンピュータで検証できるプログラミング言語であるLeanを用いて証明が形式化されたものもあります。
OpenAIが社内AIモデルで722本の未解決問題に関する数学的成果を発表、新たな数学的ブレークスルーへ – GIGAZINE
このOpenAIの発表について、人間のための数学協会は声明を発表しました。声明では「数学者たちはこのような作業を求めていたわけではありません。OpenAIが正当性の根拠としている数学と人工知能に関する諮問グループは、最初の勧告声明の中で、最先端のAI企業は高度な数学的問題を社内モデルで検証すべきではないと述べています」と述べ、OpenAIが諮問グループを無視することで数学研究の信頼性や倫理、科学研究の規範を軽視したと非難しています。
人間のための数学協会が言及している諮問グループとは、プリンストン大学高等研究所が主催する「Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence(AGMAI)」のことです。OpenAIはAGMAIと協議を重ね、2026年9月29日にAGMAIが公開した「AIが生成した数学的情報の責任ある公開」という提言に基づいて数学的成果を発表したと主張しています。
しかし、AGMAIは提言の冒頭で「現在、一部の最先端AI研究機関は、一般の科学コミュニティにはアクセスできない独自のモデルを用いて高度な数学的問題を検証しています。私たちの提言は、こうした実情を踏まえて策定されています。しかし理想的には、そのような行為は避けるべきです。私たちはこの行為を容認するものではなく、独自のモデルを用いた高度な数学的問題の検証を中止するよう、最初から明確に述べておきたいと思います」と述べており、AI開発企業による数学研究の中止を求めています。
人間のための数学協会は、OpenAIによる数学的成果の公開はこうしたAGMAIの提言を無視するものだと指摘しているわけです。人間のための数学協会は今回の声明で、「数学者には歴史や分野特有の考察に基づいた、独自の進歩観があります。私たちは、今回の発表が数学の進歩に貢献するというOpenAIの主張を否定し、数学者および一般の方々に対し、この発表モデルの価値を適切な懐疑心をもって評価するよう強く求めます。一度に700以上のファイルを公開することは、学術的な成果を示すものではなく、権力の誇示に過ぎません」と述べ、OpenAIとの共同研究を中止するよう数学者らに呼びかけました。
テクノロジー系メディアのTechCrunchは、OpenAIが公開した719件(3件は発表後に撤回済み)の成果のうち、AIモデルの思考過程を公開していたのはわずか10件だったと指摘。また、ケンブリッジ大学などの数学者らが10月に発表した(PDFファイル)論文では、Leanによる数学証明の形式化に問題が含まれていることが指摘されていると述べました。
さらに海外メディアのThe Independentは、AIモデルが高度な数学問題を解けるようになることで、インターネットのセキュリティを維持する暗号化が危機にさらされていると報じています。
AI is causing a ‘mathocalypse’ that could break the internet | The Independent
https://www.the-independent.com/tech/ai-mathematics-openai-cryptography-internet-b3063456.html
The Independentは「数十年にわたり、インターネットのセキュリティは機密データを暗号化し、公共ネットワークを介して送信される際にプライバシーが保護されるようにするための暗号化技術に依存してきました。この技術は、現状では効率的に解くのが非常に難しい数学的問題に依存しています。しかしAIの急速な進歩により、これらの問題を解くことができる新たなアルゴリズムが開発される可能性が出てきます」と警告しています。
また、ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨の中核でもある暗号技術も、AIモデルの高性能化に伴って危機にさらされています。イーサリアム研究者のジャスティン・ドレイク氏は、「OpenAIの発表は、数学的超知能が現実のものとなりつつあることを明確に示しました。何十年分もの進歩が数週間で起こるという話がありますが、私たちは今、何世紀分もの数学的進歩が数週間で起こる時代を生きようとしているのです」と述べました。
理論計算機科学者のスコット・アーロンソン氏は自身のブログで、数学者である妻が長年にわたり取り組んできた数学的問題のひとつが、OpenAIが発表した成果の中に含まれていたと報告しました。このブログはソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも話題になっており、あるユーザーは「AIモデルが1つの数学的未解決問題を解くのにかかるコストはわずか810ドル(約13万円)ほどであり、コスト的には非常に安価である」とコメントしています。
The Mathocalypse | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=49997718
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