月の表面に堆積した細かい砂はレゴリスと呼ばれ、月面における貴重な酸素の抽出源やコンクリートの材料として注目されています。そんなレゴリスを用いて「太陽電池」を作る方法をドイツの研究チームが考案しました。
Moon photovoltaics utilizing lunar regolith and halide perovskites: Device
https://www.cell.com/device/fulltext/S2666-9986(25)00060-2
Solar cells made of moon dust could power future space exploration | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1078443
Moon dust may help astronauts power sustainable lunar cities. Here’s how. | Space
https://www.space.com/the-universe/moon/moon-dust-may-help-astronauts-power-sustainable-lunar-cities-heres-how
月で長期的な探査を行ったり、月面基地を建設したりする上で避けては通れないのが、さまざまな機器や活動に必要なエネルギー供給の問題です。これまで、月面におけるエネルギーのほとんどが地球から運ばれた太陽電池によって生成されていますが、大規模な探査活動や入植活動を維持できるほどの太陽電池を輸送するにはコストがかかりすぎます。
ポツダム大学で宇宙太陽光発電の研究を行っているフェリックス・ラング博士は、「現在宇宙で使用されている太陽電池は驚くべきもので、効率は30~40%に達しますが、その効率性には代償が伴います。これらの太陽電池は非常に高価で、ガラスや厚い箔(はく)をカバーとして使用するため、比較的重くなります。これらの太陽電池をすべて宇宙空間に輸送するのを正当化することは困難です」とい述べています。
そこでラング氏らの研究チームは、地球から太陽電池を運ぶのではなく、「月のレゴリスを材料として太陽電池モジュールを現地製造する」という方法を考案しました。具体的には、ペロブスカイト構造という結晶構造を利用したペロブスカイト太陽電池と、それを保護するガラスで構成される太陽電池モジュールのうち、ガラスを月のレゴリスから作った「ムーンガラス」に置き換えるというものです。
ペロブスカイト太陽電池そのものは軽量で柔軟性があり、太陽光を高い効率で電気に変換することができますが、それ単体だと月面の強い放射線や微小隕石(いんせき)から保護されません。そのため、月面でプロブスカイト太陽電池を運用するには、ガラスなどで表面を保護する必要があります。
「月のレゴリスから太陽電池モジュールのガラスを作る」というアイデアを実証するため、研究チームはレゴリスを模倣した物質を使用して実験を行いました。レゴリスからムーンガラスを作る際に複雑な精製工程は必要なく、太陽光を集束させて高温にするだけでレゴリスを解かし、ガラスにすることが可能だとのこと。研究チームはこうして作られたムーンガラスを用いて、ペロブスカイト太陽電池モジュールの製造に成功したと報告しています。
以下のうち、Aは月の高地地形に見られる重金属酸化物の含有量が低いレゴリスを再現した「TUBS-T(上)」と、低地地形に見られる重金属酸化物の含有量が多いレゴリスを再現した「TUBS-M(下)」で、Bはそれらを原料にして作ったムーンガラスです。今回の研究では、より色が薄く光を通しやすい「TUBS-T」から作られたムーンガラスが、太陽電池モジュールの製造に用いられました。
地球で作られた通常のガラスは、月面に配置されると強力な宇宙線によって次第に茶色っぽくなるため、次第に太陽光の透過率が下がって太陽電池の効率が低下します。一方、ムーンガラスはレゴリスに含まれる不純物によって最初から茶色いため、それ以上に茶色っぽくなりにくく、宇宙線への耐性も高いとのことです。
ムーンガラスで作られたペロブスカイト太陽電池モジュールは、ガラスの厚さと太陽電池の組成を微調整することで10%の変換効率を達成できました。これは地球で作られた太陽電池よりも大幅に低い効率ですが、ムーンガラスを月面で製造することで太陽電池の製造に必要な打ち上げ重量が99.4%減り、輸送コストも99%削減することができます。結果として、地球から宇宙に打ち上げる重量1gあたりの発電量は、最大で100倍に達すると研究チームは主張しています。
ラング氏は、「重量を99%削減するのであれば、発電効率が30%という超高効率な太陽電池は必要ありません。ただ月面でたくさん作ればいいだけの話です。さらに、他の太陽電池は時間と共に劣化してしまいますが、私たちの太陽電池は放射線に対してより安定しています」と述べました。
今回の研究結果は有望ですが、「地球とは違う低重力環境下でも同様にレゴリスからムーンガラスを作ることができるのかは不明」「ペロブスカイトの加工に使用される溶剤が真空にさらされると劣化する可能性がある」「月の昼と夜の極端な寒暖差によって材料が収縮と膨張を繰り返し、太陽電池の安定性に影響が及ぶかもしれない」など、さまざまな不確実性が残されています。そこで研究チームは、実際に月面で太陽電池の製造をテストしたいと考えているとのこと。
ラング氏は、「燃料用の水の抽出から月のレンガで家を建てることまで、科学者たちは月の砂を利用する方法を見つけてきました。今ではそれを太陽電池に変えることもできます。これにより、将来の月の都市が必要とするエネルギーを提供できる可能性があります」と述べました。
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