これまで、気候変動に伴う地球温暖化が世界経済に及ぼす影響についてさまざまな研究が行われてきましたが、従来の研究には「国民経済がその国の天候にのみ影響を受けると仮定する」という根本的な誤りがあったとのこと。気候変動の世界的な影響をモデル化した新たな研究では、2100年までに地球温暖化がセ氏3度以上進行すると、世界の国内総生産(GDP)が40%も失われることが判明しました。
Reconsidering the macroeconomic damage of severe warming – IOPscience
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/adbd58
Global warming of more than 3°C this century may wipe 40% off the world’s economy, new analysis reveals
https://theconversation.com/global-warming-of-more-than-3-c-this-century-may-wipe-40-off-the-worlds-economy-new-analysis-reveals-253032
Average person will be 40% poorer if world warms by 4C, new research shows | Climate crisis | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2025/apr/01/average-person-will-be-40-poorer-if-world-warms-by-4c-new-research-shows
気候変動はさまざまな形で経済に影響を及ぼします。最も明らかなのは異常気象による干ばつや洪水、山火事などであり、これらの災害は人々の住居を破壊したり、農作物の生産に打撃を及ぼしたりします。2024年の研究では、地球温暖化によって食料品価格が年間3.2%も上昇する可能性があると報告されました。
また、暑さは労働者の認知機能や生産性を低下させ、人間の健康状態を悪化させるため、大量の移民や紛争を引き起こす可能性もあるとのこと。これらのさまざまな要因により、気候変動が世界経済に打撃を与えるであろうことは多くの研究者が認めています。
従来の多くの研究では、2100年までに産業革命前から4度という極端な気温上昇が起きたとしても、2100年までに世界経済に及ぶ悪影響は7%~23%のGDP減少に過ぎないと予測されてきました。研究チームはその理由について、これらのモデリングの多くが「過去の異常気象の影響」に基づいているためだと指摘しています。
これまでに起きた多くの異常気象は地理的に限定されており、他の場所の状況によってバランスが取られています。たとえば、南アメリカで深刻な干ばつが起きたとしても、世界の他の地域でそれなりの降雨があれば、南アメリカ諸国は輸入によって国内の食糧供給を維持できるというわけです。
しかし、将来の気候変動は国をまたいで同時に起き、長期的に異常気象が発生するリスクを高めると予想されています。これにより、商品の生産や配送のネットワークが混乱し、各国が貿易で助け合う能力が制限されてしまうとのこと。
そこで研究チームは、ある国の将来的な経済成長が「世界の他の地域の気象条件」によってどのように影響を受けるのかを推定し、気候変動がGDPに及ぼす影響を研究しました。研究では3つの主要なモデルを修正し、気候変動が起きた場合に推定される世界全体のGDPを全人口で割り、1人当たりGDPを算出したそうです。
以前のモデルでは、2100年までに地球が3度以上温暖化すると、1人当たりのGDPは平均11%減少すると推定されていました。しかし今回の分析では、同じ条件の温暖化によって1人当たりのGDP減少率は40%に達することが示されました。このレベルの被害が発生すると、世界中の多くの人々が生活に壊滅的な打撃を被ることとなります。
なお、従来のモデルでは、ロシアや北欧などの寒冷地では地球温暖化による恩恵があるとされてきました。しかし研究チームは、世界経済は貿易によって密接に結ばれているため、寒冷地も結果として気候変動による打撃を受けるだろうと主張しています。
温室効果ガス排出量を削減する取り組みは、短期的には経済的なコストをもたらす可能性があるため、危険な気候変動を回避することの長期的なメリットとバランスを取る必要があります。2023年の研究では、産業革命前からの気温上昇を「2.7度」にとどめる程度がちょうどいいバランスとされていましたが、今回のモデリングでは最適な気温上昇は「1.7度」であることが示されました。これは、パリ協定の最も野心的な目標とも一致するとのこと。
論文の筆頭著者であり、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学気候リスク対応研究所に所属するティモシー・ニール博士は、「私たちの新しい研究は、温暖化が世界経済に与える影響についての以前の予測が、あまりにも楽観的であったことを示しています」「現在の地球の温室効果ガス排出ペースは、明らかに私たちと子どもたちの未来を危険にさらしています。深刻な気候変動の先で待っている惨事を早く把握できれば、人類はそれを避けるために進路を変えられるようになります」と述べました。
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