地理的条件ではなく政治的な取り組みの差が「誰が麻疹(はしか)にかかるのか」を決定づけた1970年アメリカの事例とは? – GIGAZINE


近年は先進国において麻疹(はしか)が流行する兆しが見えており、アメリカのテキサス州では2025年2月に国内で15年ぶりとなるはしかの死者が発生し、2025年は3月4日までに159件の症例が確認されています。そんな中、科学系メディアのLive Scienceが、地理的条件ではなく政治的な取り組みの差が「はしかにかかるかどうか」を左右した1970年の事例について解説しています。

‘A political division, not a physical one, determined who got measles and who didn’t’: Lessons from Texarkana’s 1970 outbreak | Live Science
https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/a-political-division-not-a-physical-one-determined-who-got-measles-and-who-didnt-lessons-from-texarkanas-1970-outbreak


小児科医で感染症の専門家であるアダム・ラトナー博士の著書「Booster Shots(ブースター接種)」では、1970年にアメリカの「テクサーカナ」という都市の事例から、地理的条件ではなく政治的な取り組みが感染症の流行に影響することを解説しています。

テクサーカナはアメリカ南部のテキサス州とアーカンソー州にまたがる都市であり、テキサス州側のテクサーカナアーカンソー州側のテクサーカナが1つの都市を形成しています。テクサーカナではテキサス州の住人もアーカンソー州の住人も混ざり合って暮らしており、同じ地元企業に勤め、教会に行き、地域のイベントに参加していました。

しかし、1つの通りで隔てられているテキサス州側とアーカンソー州側のどちらに住んでいるのかで、公立学校や公衆衛生部門を運営する州は異なっていました。そのため、地理的条件ではなく政策が住人の健康に及ぼす影響を理解するのにうってつけの環境になっています。

by Steve Snodgrass

1970年6月下旬、テクサーカナに住む6歳の男の子がはしかと診断されました。これは、半年以上続いたテクサーカナにおけるはしか流行の最初の症例として知られており、この流行期間中にテクサーカナでは子どもを中心に600人以上がはしかを発症しました。

テクサーカナが他の都市と異なっていたのは、1つの通りで隔てられたテキサス州側とアーカンソー州側で、はしかの予防接種に対するアプローチが違ったという点です。

テキサス州側では、子どもたちは入学前にはしかの予防接種を受ける必要はなく、集団予防接種キャンペーンも行われていませんでした。1~9歳の子どものうち、ワクチン接種や既往歴などによってはしかの免疫を持っていた割合は60%未満だったとのこと。

一方、アーカンソー州側では学校におけるはしかの予防接種を義務化し、1968年からは就学前および学齢期の子どもを対象にした集団予防接種キャンペーンを実施していました。これにより、1~9歳の子どものうち95%がはしかの免疫を持っていたと推定されています。


テクサーカナにおけるはしかの流行は、これらの予防接種に対するアプローチの差に強い影響を受けていました。テクサーカナで発生したはしかの症例633件のうち、全体の約96%に相当する606件はテキサス州側に住む人々で発生し、アーカンソー州側ではしかにかかった住人はわずかでした。

この発症率の格差は、双方の住民間で大きな相互作用があったにもかかわらず発生していました。つまり、アーカンソー州によるワクチン接種への積極的なアプローチが、たまたまアーカンソー州側に住んでいた人々を保護したというわけです。

この事例は、単にワクチン接種が感染症の発症を防ぐだけでなく、公衆衛生部門への資金提供や学校での予防接種の義務化など、無数の政治的決定が人々の健康に現実的な影響を及ぼすことを示しています。

なお、テクサーカナでは国民皆保険制度を目指して2014年に導入されたオバマケア(ペイシェントプロテクション・アンド・アフォーダブルケア法)についても、テキサス州側とアーカンソー州側で取り組みが異なっています。オバマケアを受け入れたアーカンソー州側では、受け入れを拒否したテキサス州側と比較して無保険率が低く、糖尿病の合併症による入院患者が少ないことなどが報告されています

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