海底ケーブルの切断事件はなぜ世界中で起き続けているのか? – GIGAZINE


メモ


インターネットは世界中の海底に張り巡らされているケーブルによって支えられていますが、海底ケーブルが船のいかりで傷付いたり他国の工作員によって傷付けられたりして、インターネットに混乱が生じることも頻繁に起きています。世界中で発生している海底ケーブル切断事件に見られる陰謀や重要なインフラを守るための方法について、イギリスの大手誌であるThe Guardianがわかりやすいビジュアル形式で解説しています。

‘Shadow fleets’ and subaquatic sabotage: are Europe’s undersea internet cables under attack? | Europe | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/ng-interactive/2025/mar/05/shadow-fleets-subaquatic-sabotage-europe-undersea-internet-cables-under-attack

海底ケーブルの切断事件は世界中で発生しています。2023年にアフリカで発生した原因不明のケーブル破損では、インターネットが大混乱に陥りました。台湾では2018年から2022年にかけて5年で27回の海底ケーブル切断事案が発生しており、一部の専門家は「中国による意図的な破壊工作である可能性は否定できない」という見解を示しています。

台湾では海底ケーブルの切断事案が5年で27回発生している – GIGAZINE


海底ケーブルの切断を反国家・反政府戦略として行うケースも複数見られており、2024年2月にはヨーロッパとアジアをつなぐ海底通信ケーブルが武装勢力・フーシ派によって切断されたり、ノルウェー本土とスヴァールバル諸島を結ぶケーブルが大きな損傷を受けた事件ではロシアの漁船がケーブルの上を140回も往復していたことがわかったりと、軍事的な理由でケーブルが切断された事例も報告されています。

2024年12月25日には、フィンランドとエストニアを結ぶ重要な海底送電ケーブル「Estlink 2」で大規模な障害が発生し、送電能力が65%低下しました。フィンランド警察は、ウクライナ侵攻から原油の輸出制限という制裁を受けているロシアが石油取引に利用する闇タンカー「影の船団」に関連するタンカーが原因である可能性を指摘しました。

フィンランドが海底送電ケーブルの損傷についてロシアの「影の船団」の犯行を疑い捜査中 – GIGAZINE

by GRID-Arendal

以下の画像で、青い線で描かれているのが光ファイバー、赤い線が電気を届けるEstlink 2のケーブルです。


フィンランド当局によると、バルト海を航行していた貨物船「イーグルS」がEstlink 2と交錯する位置を通過しており、切断されたタイミングで明らかに減速していたとのこと。また、イーグルSが4本の光ファイバーのうち3本が損傷したのと近い時刻に海上を通過していたため、当局はイーグルSを影の船団に関与したタンカーとして捜査対象にしました。


海底ケーブルは普段の生活から大規模な金融取引まで、現代に欠かせないものになっています。そのため、欧州の各国政府の間では海底ケーブル切断事件への懸念が高まっており、多くの当局者は「ロシアなどの敵対勢力による妨害行為」と指摘していますが、ロシア政府はこの主張を繰り返し否定しています。実際に、アメリカとヨーロッパ6カ国の安全保障機関が関与した調査では、船舶が故意に海底ケーブルを切断させた証拠は見つかっておらず、海底ケーブルの切断は「整備が不十分な船舶に乗船した経験の浅い乗組員が引き起こした事故」であることが示唆されています。

ロシアの破壊工作が疑われたバルト海の海底ケーブル損傷について「やっぱり事故の可能性が高い」と当局者は考え始めている – GIGAZINE


アメリカのサイバーセキュリティ企業「Recorded Future」のアナリストであるマット・ムーニー氏によると、毎年100~200件のケーブル故障が発生しており、そのほとんどはアンカーや漁船による偶発的な損傷なのだそうです。しかし、2023年から2024年にかけてバルト海で発生したケーブル切断のパターンは、どれも故意によるものである可能性が高いとムーニー氏は述べています。

The Guardianによると、大西洋およびヨーロッパ近海では、以下のように多数の海底ケーブルが張り巡らされているとのこと。いずれも各国のインターネットを機能させる重要なインフラである一方で、破壊行為に対して著しく脆弱(ぜいじゃく)であることが指摘されています。


また、ヨーロッパだけではなく南アメリカやアフリカ、アジアでも海底ケーブルは無数に張り巡らされており、ケーブル切断の原因を調査した結果船が怪しい動きをしていたことが報告される例がいくつも発生しています。


船の航行記録から破壊行為が疑われるケースは複数あるものの、国際海運の複雑な性質により、こうした事故の大半について明確な責任を突き止めることは困難になっています。実際に、フィンランドとエストニアを結ぶ海底ケーブルが損傷を受けた際に、香港の貨物船の錨(いかり)が回収されましたが、中国政府は同船の責任を認めた上で「原因は強風による事故」と主張しました。

ムーニー氏は「西側諸国の敵対国は今後も、経済的損害を与え、軍事力を阻害し、社会の混乱を引き起こす手段であるグレーゾーン戦争やハイブリッド戦争を繰り広げる可能性が高いと思われます。欧州諸国がネットワークを守るための取り組みを強化したり、NATOが航空機や船舶の監視を強化するバルチック・セントリー作戦を開始したりと対策も進んでいますが、広大な海洋地域を守ることができる保証はありません。世界中では500本以上のケーブルが稼働していると考えられており、その総距離は140万kmにも及びます」と攻撃に備える難しさを語っています。

また、欧州研究センターの所長であるテイヤ・ティリカイネン氏は、「事件の調査とインフラの防御も重要ですが、それ以上に単一のパイプラインやケーブルに過度に依存しない回復力のあるシステムを構築することが極めて重要です」と強調しました。EUは2025年2月に「海底ケーブルのセキュリティと耐久性を強化するための共同通信」という行動計画を発表しており、重要なインフラの特定とケーブル切断行為への抑止態勢強化が期待されています。

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