2021年、スイスのチューリッヒ大学と農業研究所のアグロスコープの研究チームが市民の協力を募り、「2000枚の綿のパンツ」をスイス全土の地面に埋める実験を行いました。この壮大なプロジェクトによって得られた成果が、学術誌のPLANTS, PEOPLE, PLANETに掲載されました。
地球の表土は食糧供給の95%を担っており、地球上における生物多様性の59%は地中に存在しています。そのため、健康で肥沃(ひよく)な土壌を維持することは人間社会にとって重要ですが、近年は世界中の土壌が急速に劣化していることが指摘されています。
チューリッヒ大学とアグロスコープの合同研究チームは、「土壌は急速に劣化しており、食糧生産・生物多様性・地球システムの機能に脅威を与えています。この脅威は社会全体でほとんど認識されておらず、土壌保護に向けた効果的な対策を阻害しています」と述べています。
そこで研究チームは2021年、スイス各地の土壌の健康状態を評価するために、1000人のボランティアを募って大規模な実験を行いました。それが、「市販されているオーガニックコットンのパンツ2枚をボランティアに送り、好きな場所に埋めてもらう」というものでした。
この実験では、被験者は各自で選んだ地面に横60cm×縦30cm×深さ30cmの穴を掘り、土壌サンプルを採取すると同時に2枚のパンツを並べて埋めました。ボランティアは1カ月後に1枚のパンツを掘り出し、2カ月後にもう1枚のパンツを掘り出して、土壌サンプルと一緒に研究チームへ送り返したとのこと。
一般に綿製のパンツが地面に埋められると、地中に生息するミミズなどの土壌生物や菌類、細菌などの働きにより分解され、穴が空いたり破れたりします。以下の写真は左が新品の綿製パンツ、右が地面に埋めてから掘り出した綿製パンツです。地面に埋めた後のパンツは明らかに分解が進んでいることがわかります。

しかし、土壌が痩せ細っておりこれらの生物活性が低いと、パンツがあまり分解されないまま残ります。さまざまな場所に埋められたパンツを並べた以下の写真を見ると、ほとんど周囲のヒモの部分しか残っていないパンツもあれば、布の部分が多く残っているパンツもあることが見て取れます。研究チームはこの傾向を利用して、地中に埋めたパンツの分解度合いによって土壌の肥沃度を評価する「パンツ指数」を考案しました。

さまざまな場所のパンツ指数を調べたところ、多くの家屋や建物を囲んでいる芝生は最も肥沃度が低く、埋めてから2カ月後のパンツの分解度は平均で約40%にとどまりました。一方、最も肥沃度が高かったのは個人の庭であり、パンツの平均分解度は約58%に達しました。これは、庭は所有者によって入念に作物や草花が植え付けられており、肥料が与えられ、通気管理もされているからだと考えられます。また、農地や草地はこれらの中間あたりの肥沃度だったと報告されています。
チューリッヒ大学農生態学教授であり共同研究リーダーを務めたマルセル・ファン・デル・ヘイデン氏は、「私たちの研究結果は、土壌の管理方法が土壌生物と土壌の質の両方に大きな影響を与えることを示しています。健康で生物活性の高い土壌は肥沃度や栄養循環、その他多くの生態系サービスにとって不可欠です」と述べました。
しかし研究チームは、土壌肥沃度の増加は必ずしも良いことではないとも指摘しています。個人の庭ではリン・窒素・カリウムといった栄養素の濃度が高く、これは庭に肥料が使われたことを示唆していますが、過剰な栄養分は逆に土壌の健康を損なう場合もあります。また、個人の庭におけるリン濃度は土壌管理や作物生産に関する基準値をはるかに超えることが多く、周辺の水路や地域の生物多様性の健全性を脅かす可能性があるとのこと。
論文の筆頭著者で、チューリッヒ大学の農業生態学者であるフランツ・ベンダー氏は、「あらゆる生態系において、最大限の分解が望ましいとは限りません。森林のような自然に近い環境では、非常に高い栄養レベルは自然なバランスが崩れていることを示している可能性があります。庭でも下着の急速な分解は、栄養分の過剰供給を示している可能性があります」と述べました。
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