ゲームの開発においては、ゲーム性やグラフィックといった内容に加えて、年齢や障害の有無にかかわらず全ての人が楽しめるように操作や表示、音声などの機能を調整するアクセシビリティも重要な要素です。しかし、ゲームのアクセシビリティを監督するコンサルタントによると、アクセシビリティへの配慮は業界全体で低下しつつあると問題視されています。
As the game industry cuts back, accessibility is feeling the impact | The Verge
https://www.theverge.com/games/669419/gaming-industry-accessibility-cutbacks
ゲームコンサルタントのローラ・ケイト・デール氏によると、2020年以降はゲームにおけるアクセシビリティが主流の議論となり、状況は改善する一方だったそうです。しかし、「年が進むにつれて、水面下ではアクセシビリティの進歩が鈍化し始めている兆候が見え始めました」とデール氏は語っています。
デール氏によると、2023年半ばからゲーム業界全体の規模縮小が始まっており、アクセシビリティ専門の職種はコスト削減のために真っ先に削減されたとのこと。明確な説明なしに仕事がキャンセルされたり、アクセシビリティの専門家たちは予算が縮小される中で新たなアクセシビリティへの実験的な投資を正当化するためにより一層努力する必要があったりと、困難な状況になっています。
コンサルタント兼コンテンツクリエイターのスティーブ・セイラー氏は、過去1年間コンサルティングの仕事はほとんどなかったと述べた上で、「最善を尽くしていますが、まだ厳しい状況です。いつ回復するのか分かりません。2023年から悪化しています」と語りました。さらに、デール氏は「過去18ヶ月で3つの大手AAAスタジオからアクセシビリティコンサルティングの仕事を依頼されましたが、結局は経営陣が予算を削減したために、予定していたコンサルティング業務がキャンセルされました」という厳し状況を明かしています。
2022年から2023年にかけてGoogleやAmazon、MicrosoftなどのIT大手各社や、ディズニーやGitHubでも大規模な解雇が実施されました。特にゲーム業界では2022年頃から深刻なレイオフが世界的に続いており、ゲーム業界の解雇記録を保存するGame Industry Layoffsによると、2022年に世界中で解雇されたゲーム関連の労働者は約8500人、2023年は約1万500人、2024年は前半の6カ月だけで1万800人が記録されています。2024年の数値が急増しているのは、2024年1月にUnityが従業員25%の人員整理を実施したのと、Microsoftが2023年10月に買収を完了させたゲームメーカーのActivision BlizzardとXboxの従業員1900人を解雇したことが大きく影響しています。
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by 勇者で社畜の兼業ライフ
大規模なレイオフやスタジオ閉鎖の影響はアクセシビリティのコンサルタントたちも受けており、2020年ごろにはアクセシビリティの意識向上を積極的に推し進める活動をしていたコンサルタントたちは、2025年になってもいまだ基本的な基盤を築けていないとデール氏は述べています。
また、多くのコンサルタントがゲーム業界を去りつつあることに伴って、どのゲームでどのアクセシビリティがどのような意図で実装されているのか、という重要な知識が失われつつあるとデール氏は懸念しています。The Vergeが複数の情報源から得た情報によると、ゲーム業界ではアクセシビリティのコンサルタントをフルタイム勤務ではなく請負業者で採用するようになり、単一のプロジェクトのために雇用されて解雇されるため、知識や実践の記録が残らないことが多くなって状況は悪化するばかりであるとのこと。
アクセシビリティの議論に重要なのは、「注目タイトル」の存在であるとデール氏は指摘しています。実際に、2020年に「The Last of Us Part Ⅱ」が発売された際には、視覚障害を持つ人向けのテキスト読み上げやハイコントラスト表示機能、聴覚障害を持つ人向けの字幕や戦闘の補助機能、運動障害を持つ人向けの自動照準機能など、60種類以上のアクセシビリティカスタマイズ機能が話題になりました。そして、注目作である「The Last of Us Part Ⅱ」のアクセシビリティが大々的に報道されたことで、発売直後に他社が追随する大きな動機になったとデール氏は述べています。
アクセシビリティに関する大きな希望として、「Nintendo Switch 2」の登場があります。Switch 2は発売からわずか4日間で350万台を売り上げ、任天堂史上最速の売上を記録しました。Switch 2はテキストサイズの変更やボタンマッピング、テキスト読み上げ機能などのアクセシビリティ設定を備えており、世界中に大きく注目されているゲームでアクセシビリティ設定を重要視していることで、後続のゲームハードやソフトが追随する可能性があります。
デール氏は「誰も提供していないような機能を繰り返し求め、アクセシビリティ機能を提供できないのが恥ずかしいとチームが感じるようになるまで機能の改善を求め続けることが、状況を変える唯一の方法です」と語っています。
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