アメリカで「ペドファイルハンター(小児性愛者狩り)」と呼ばれる自警団的な活動がオンライン上で急増していると、アメリカのニューヨーク・タイムズが報じています。ペドファイルハンターは未成年になりすまして性犯罪者を誘き出し、その様子を動画で公開するという手法を取っていますが、最近では暴力行為をともなうケースが急増しており、深刻な社会問題となっています。
Online ‘Pedophile Hunters’ Are Growing More Violent — and Going Viral – The New York Times
https://www.nytimes.com/interactive/2025/03/26/us/pedophile-hunting-violence.html
ペドファイルハンターが増えるきっかけになったのは、アメリカの報道番組「Dateline NBC」の企画だった「To Catch a Predator」です。この企画では、番組スタッフが未成年を装ってチャットルームに潜入し、性的な意図で接触してくる大人とチャットを続けて実際に会う約束を取り付けます。そして、カメラを設置した住宅などに相手を誘導し、相手が現れたら司会者がインタビューを行い、その後待機していた警察が逮捕するという内容でした。
この番組企画は非常に人気を得たため、インフルエンサーが「To Catch a Predator」と同じように、SNSや出会い系アプリで未成年になりすまし、接触してきた相手と実際に会う様子をYouTubeやFacebookなどに投稿するケースが増えました。ペドファイルハンターがビジネス化し、数十万のフォロワーを集めてグッズ販売を行ったり、限定映像をサブスクリプションの登録者相手だけに公開したりしています。
もちろんYouTubeやFacebookなどのSNSはこうした自警団的な活動を排除していますが、ペドファイルハンターはKickやLocals、Rumbleといった規制の緩いプラットフォームに移行し、活動を続けています。KickやLocalsはコンテンツへの関与を否定する一方で、削除は一部にとどまり、動画の再共有が続いています。また、RumbleやLocalsは、右派による言論の自由ムーブメントとして支持され、スポンサードもされています。
「Dads Against Predators」という団体は、当初は相手を晒して告発したり警告するような活動が中心でしたが、近年では暴力的な手段に訴えるケースが急増しています。特にLocalsに移行してからは暴行する場面が増え、「もっと暴力的な映像はLocalsで有料配信中」と告知されることも多いとのこと。オハイオ州は「Dads Against Predators」に対して「公共の安全を脅かし、司法手続きを妨害する可能性がある」という声明を発表し、法的措置を検討する意向を示しました。
ニューヨーク・タイムズによれば、2023年以降にペドファイルハンターによる暴力事件が170件以上発生しているとのこと。暴力的演出が過激化しており、「ジョーカーの衣装でヘリコプターに乗って現場に登場する」「ワニを連れて対象者を威嚇する」「電気ショックを与える」「ネズミ捕りの上を歩かせる」「腕に『PREDATOR(捕食者)』とタトゥーを入れさせる」といった動画も登場しているそうです。さらに、配信のコメント欄では視聴者が「目に唐辛子を入れろ」「尿を飲ませろ」「殺せ」などと過激なコメントを送っているため、過激化は止まる気配がありません。
2024年、「realjuujika」という名前で活動する19歳の学生が、73歳の男性宅にライブ配信をしながら侵入し、男性をハンマーで殴打しました。realjuujikaは血まみれの男性のそばに立ちながら「15歳の少年に性的行為を強要しようとした」と主張し、男性から金品を奪った上、クレジットカードの番号をライブ配信のカメラに映し出し、数千人のフォロワーと共有しました。その後、realjuujikaは他20件の誘拐、加重暴行、強盗、住居侵入の罪に問われ、逮捕されています。
ペドファイルハンターの事件で問題となっているのは、多くの事件で被害者が告訴を拒否するため、司法手続きが進まないケースが多いこと。多くの暴力的なハンターが刑事告発されておらず、ニューヨーク・タイムズが特定した暴力的なペドファイルハンターグループ22組のうち、起訴されたのはわずか7組のみだそうです。
ニューヨーク・タイムズは、ペドファイルハンターの活動が正義の名を借りた暴力的エンターテインメントと化していると指摘し、SNSでのバイラル化、収益化、模倣犯の拡大により、公的な治安・法秩序にとって新たな脅威となっていると主張しました。そして、この問題の根底には、性犯罪者への社会的嫌悪と承認欲求があり、それが過激化・商業化に拍車をかけていると論じました。
なお、日本でも「私人逮捕」と称して痴漢や盗撮、詐欺を行う人に突撃して取り押さえるインフルエンサーが問題視されており、実際にインフルエンサー側が相手を恐喝したり犯罪の片棒を担いでいたりしたことで逮捕されるケースが報じられています。
“私人逮捕”動画撮影目的で覚醒剤持ってくるよう教唆の罪 ユーチューバー2人に有罪判決 東京地裁 | NHK | 事件
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250203/k10014710821000.html
エステ店で「美人局」、指南か 元私人逮捕系ユーチューバーら逮捕―警視庁:時事ドットコム
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025030500755
それは“正義”なのか 私人逮捕系 世直し系ユーチューバー 行き着く先には|NHK事件記者取材note
https://www3.nhk.or.jp/news/special/jiken_kisha/kishanote/kishanote83/
特集ワイド:「私人逮捕系」ユーチューバー、相次ぎ検挙 過激化招く視聴者反応 冤罪生みかねない「再生回数稼ぎ」 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20240304/dde/012/040/008000c
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