2025年3月28日、ホワイトハウスはX(旧Twitter)に麻薬密売人として逮捕された不法移民の女性の写真を投稿しました。投稿には手錠をかけられながら泣きじゃくる女性を描写したアニメ風のAI生成画像が添付されており、明らかにChatGPTのスタジオジブリ風ミームを意識したものでした。
しかし、トランプ政権がOpenAIも参加しているStargate Projectを強力に後押ししていることや、 Xの所有者であるイーロン・マスク氏が大統領上級顧問を務めていることを踏まえると「これは事実上、トランプ大統領が深いつながりを持つ企業による奇妙な製品広告に等しいものです」とThe Vergeは述べています。
トランプ氏と激しく対立していた以前までのシリコンバレー企業であれば、こうした政府の投稿からは距離を置いていたと思われますが、OpenAIは前述のホワイトハウスの投稿についての態度を明らかにしていません。トランプ政権が発足してから、企業が「表現の自由は尊重しますが、政府のこの投稿は私たちの価値観を反映するものでありません」と表明することは難しくなっており、大統領と敵対することで生じるリスクを考えれば、沈黙が最も合理的な選択となります。
The Vergeはまた、公的な機関がAI生成画像を使った上に、特にジブリ風フィルターの流行に乗った点は「トランプ政権時代における他者への無関心」を象徴しているとも指摘した上で、「ホワイトハウスの投稿は、単なる政治的パフォーマンスであり、政府が低レベルの移民収容者を公衆の面前でさらし者にして辱めるのは、良識ある統治でも、効果的な広報でも、道徳的に正しいことでもありません。皮肉なのは、ジブリ風の温かみのあるビジュアルが、この残酷なメッセージを逆に弱めてしまうことです」と述べました。
The Vergeが「メッセージがかえって弱まる」と述べたのは、ホワイトハウスの投稿に関する以下のポストを受けてのことです。ニュースサイト・Pirate Wiresの編集長であるマイク・ソラナ氏はホワイトハウスの投稿へのリポストで、「ホワイトハウスはこの女性をジブリ化(ghiblifying)させることで、以前国外追放された重罪犯者でもあるフェンタニル密売人をうっかり同情的にしてしまいました」と指摘しました。
ジブリ化(ghiblifying)とは、「ジブリ(ghibli)」と「〜にする(-fy)」から作られた造語です。以前から、AIコミュニティでは生成AIでジブリ風の画像を生成することが行われていましたが、特にGPT-4oによる画像生成が流行してからThe Washington Postなどの主流メディアでも「ジブリ化」という言葉が一般的に使われるようになっています。
OpenAIのサム・アルトマンCEOも、ジブリ化の流行に乗ってXのプロフィール画像をジブリ風の自分の画像に変えており、ジブリ化した画像が大量に送られてきたことを面白がっているような投稿をしています。
こうした動きについて、The Vergeは「テスラ・テイクダウンの抗議活動が示したように、ビジネスを有害な政治と結びつけることが逆効果になることもあります。多くの人々がChatGPTを使って家族や友人の可愛らしい画像を作っている一方で、OpenAIがホワイトハウスの投稿を黙認することで、この技術が『権力者が弱者を攻撃するための道具』としても機能してしまっているのは悲しいことです。OpenAIの研究者たちは、これが『AIを善のために活用する』という理念に寄与すると考えているのでしょうか? そして、シリコンバレーの企業は競争の中で、どこに自らの倫理的な線引きをするのでしょうか?」と問いかけました。