放射性元素のひとつであるプルトニウムは、同じく放射性元素のウランが中性子を吸収すると生成され、わずかにウラン鉱石中に含まれているものを除くほとんどが人工的に生成されたものです。そんなプルトニウムは核兵器における主要な核分裂性物質でもありますが、アメリカのウェブサイトでは一般人でもプルトニウムを購入することが可能だったとのことです。
‘Naive’ science fan faces jail for plutonium import | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=43449645
Plutonium 50mm Lucite Cube — Luciteria
https://www.luciteria.com/element-cubes/plutonium-for-sale
2023年8月、オーストラリアに住むエマニュエル・リッデンという男が、「プルトニウムのサンプルをシドニー郊外に住む両親の家に輸送しようとした」ことにより、オーストラリアの核不拡散法に違反したとして逮捕されました。
‘Naive’ science fan faces jail for plutonium import
https://au.news.yahoo.com/naive-science-fan-faces-jail-053025281.html
リッデンのプルトニウムを押収するために国境警備隊職員や消防士、警察、救急隊などが駆けつける騒ぎとなりましたが、リッデン本人は核兵器の製造などを計画していたわけではなく、「無実のコレクター」に過ぎなかったと弁護士のジョン・サットン氏は主張しています。
切手や紙幣などのコレクターでもあったリッデンは、周期表に含まれるすべての元素をコレクションしようとして、「アメリカに拠点を置く科学ウェブサイト」でプルトニウムを購入したとのこと。この商品がアメリカからオーストラリアにある両親の家に届けられたため、核不拡散法に違反してしまったというわけです。リッデンは核不拡散法に基づき、最大で10年の懲役刑が科せられる可能性があるそうで、2025年4月11日の判決を待っています。
この事件がソーシャルニュースサイトのHacker Newsで話題になると、「どう見ても無知なだけだったリッデンが罰せられるオーストラリアの法律はひどい」という意見が寄せられました。また、「リッデンはどのウェブサイトでプルトニウムを購入したのか?」という点もユーザーの関心の的となっています。
リッデンがプルトニウムを購入した可能性があるウェブサイトとして挙げられているのが、アメリカのワシントン州に拠点を置くLuciteria Scienceです。Luciteria Scienceはオンラインで放射性元素を含むさまざまな化学元素を販売しており、記事作成時点では販売こそ終了していますが、「プルトニウム入りのアクリルキューブ」の商品ページが残されています。
商品ページを見ると、確かに「Plutonium 50mm Lucite Cube(プルトニウム 50mm アクリルキューブ)」と表示されています。添付されている写真を見ると、アクリルキューブの中央に古ぼけた円筒形の物体が封入されていました。
プルトニウムはほとんど自然界に存在しない放射性元素であり、地球上に存在するプルトニウムの大部分は人工的に生成されたものか、使用済み核燃料の中に含まれたものです。そのため、プルトニウムが市場に出回ることはめったにないものの、過去には「プルトニウム入りの製品」が販売されたことがありました。
1960年代、ソビエト連邦で初となる商用煙探知器が販売されました。西側諸国のものも含む当時の煙探知機は、放射線源とその放射線を検出する装置を設け、この間に煙が漂うと放射線信号が乱れ、警報装置が作動するという仕組みとなっていました。そのため、当時の煙探知機には微量の放射線源が含まれており、アメリカ製のものにはアメリシウム241が含まれていましたが、ソビエト連邦製ものもにはプルトニウム239が使用されていたとのこと。
1960年代のソビエト連邦製の煙探知機に含まれるプルトニウムは本当に微量であり、重量は約350億分の1グラムに過ぎませんが、それでも毎秒0.4mSvの放射線を放出しています。Luciteria Scienceはこの煙検出器に用いられたプルトニウムをアクリルに封入し、販売していたというわけです。
ロシアの法律では、プルトニウムが含まれる煙検出器の放射線源を所有することは禁じられており、国外への輸出も厳しく取り締まられています。2004年にはキルギスでこれらの煙検出器を売ろうとした人物が逮捕される事件も起きています。
なお、アメリカでも一般人によるプルトニウムの所有が合法なのか違法なのかは意見が別れるようです。州や原子力規制委員会からライセンスを取得すればOKではないかという意見もありますが、プルトニウムに関しては一般人向けのライセンスがないという指摘もありました。
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