GoogleにChromeの売却を強いるアメリカ司法省の提案にFirefoxの開発元が「小規模ブラウザを潰すことになる」「GoogleとAppleの力が増すだけ」と反論 – GIGAZINE


Googleの検索市場における独占を阻止すべく、アメリカ司法省はGoogleに対してウェブブラウザ・Chromeの売却などを求めています。この訴訟に対して、ブラウザ市場でChromeのライバルであるFirefoxの開発元・Mozillaが、Googleを擁護する姿勢をみせています。

Mozilla’s response to proposed remedies in U.S. v. Google
https://blog.mozilla.org/en/mozilla/internet-policy/proposed-remedies-browsers/


2020年10月、「Googleは検索及び検索広告市場において、反競争的で排他的な慣行を通じた独占状態を違法に維持している」として、アメリカ司法省(DOJ)および11の州の司法長官がGoogleを訴えました

その後、2024年8月に訴訟を担当していたコロンビア特別区連邦地方裁判所のアミット・P・メータ判事が、「Googleの行為は一般検索サービスおよび一般検索テキスト広告の独占にあたる」として、Googleが独占禁止法に違反しているという判決を下しました。この判決に関して、DOJはGoogleの検索市場での独占を解消するための是正策案として「Chromeの売却」や「Google検索をブラウザのデフォルトの検索エンジンにすることで金銭を授受する契約(検索契約)を結ぶことの禁止」などを求めています。

これに対してGoogleはDOJの是正策案は「裁判所の判断をはるかに越えるもの」と反論しました。

アメリカ司法省がGoogleにChromeの売却を要求、Googleは「裁判所の判断をはるかに越えるもの」と反論 – GIGAZINE


さらに、Googleとの検索契約から多額の収益を生み出しているMozillaは、「DOJの是正策案が施行されるとMozillaの収益源が危険にさらされ、Mozillaの将来が危うくなる」と主張しています。

Firefoxを開発するMozillaがGoogleの独禁法訴訟でGoogleの各種事業が破壊されると運営資金がピンチになると訴える – GIGAZINE


DOJの是正策案はあくまでも案で、2025年3月の第2週になって新しい是正策案が裁判所に提出されました。新しい是正策案においても、DOJは引き続きGoogleに対してChromeの売却を求めており、「検索契約の禁止」も引き続き盛り込まれたままとなっています。

これに対して、Googleは「Chromeを売却すると国家安全保障に影響を及ぼす」と主張していることが報じられました。

Googleが「Chromeを売却すると国家安全保障に影響を及ぼす」と訴える – GIGAZINE


一方、Mozillaは「DOJの是正策案はウェブをオープンで革新的かつ自由なものにする力である小規模の独立したブラウザに直接打撃を与えることになります。この訴訟は検索競争を促進することを意図したものだったはずなのに、どういうわけかブラウザ間の競争を潰す恐れがあります。このままではGoogle、Apple、Microsoftといったブラウザ市場の支配者に対抗する挑戦者にとってさらに困難な状況を生み出すこととなります」として、改めてDOJの是正策案を批判しました。

Mozillaのマーク・サーマン社長は、「DOJの是正策案は小規模で独立したブラウザへの検索料の支払いを禁止するもので、全体像を見失っています。この是正策案により最も被害を受けるのは、日常的にインターネットを利用する人々です。Firefoxのような独立したブラウザは、消費者のプライバシーを保護し、ブラウザの革新を推進し、人々にウェブの利用方法に関する真の選択肢を与える役割の最前線に立っています。しかし、DOJの是正策案は公正な戦いを促進するのではなく、競争の場を少数の有力なプレイヤーの手にさらに傾け、消費者の選択肢を減らし、より広範なインターネットエコシステムを弱体化させることとなるでしょう」と語りました。

MozillaはDOJの是正策案がブラウザ市場の競争を不必要に損なうと指摘しており、その理由として以下の4点を挙げました。

・DOJは市場の小さな部分を占める独立したブラウザも含め、Googleとブラウザ間のすべての検索契約を禁止しようとしている。
・Appleのようなブラウザを所有する主要企業は、ハードウェア、オペレーティングシステム、アプリストアなど他のソースから大きな収益源を得ているため、検索契約に依存していない。
・一方、Firefoxのような独立系ブラウザは、主に検索収益によってブラウザの開発資金を調達しており、生き残るにはこの収益が必要。検索契約はMozillaの仕事の大部分を支えており、Firefoxの競争力を維持し、ウェブユーザーにプライバシーを第一に考えた選択肢を提供することに役立っている。
・独立系ブラウザを罰しても問題は解決しない。メータ判事は独立系ブラウザがアメリカの検索クエリのわずか1.15%を占めていると判断した。つまり、検索取引へのアクセスを遮断しても、検索の優位性の問題は解決しないということ。是正策案が成立すれば、むしろブラウザ市場の競争に悪影響をおよぼす。


さらに、ブラウザエンジンの競争という非常に重要な要素を見落としているとMozillaは指摘しています。ブラウザエンジンはウェブブラウザの動作速度、プライバシーおよびセキュリティ機能、ブラウザの革新と異なる機能の実行において中心的な役割を果たしています。しかし、ブラウザエンジンは非常に複雑で開発・維持に膨大な費用と深い技術的専門知識が必要となるそうです。

そのため、既存の主要なブラウザエンジンはGoogleのChromium、AppleのWebKit、MozillaのGeckoの3つのみ。なお、WebKitはAppleデバイスでのみサポートされているため、実質的にChromiumに代わるクロスプラットフォームブラウザエンジンはGeckoのみです。

Googleと独立系ブラウザ開発者との検索契約を禁止すれば、「Geckoの開発・保守が困難になる可能性がある」とMozillaは主張しています。そして、MozillaがGeckoを維持できなくなれば、ブラウザエンジンの競争に深刻な影響が生じ、「オープンウェブはついに終焉を迎えることとなり、GoogleやAppleのような支配的企業がより一層のコントロールを持つウェブ環境が生まれることとなる」と主張しました。

サーマン社長は「これはFirefoxだけの問題ではありません。Geckoを維持できなくなれば、オープンで独立したウェブは終わりです。3兆ドル(約440兆円)規模の企業であるMicrosoftは、すでに2019年にブラウザエンジンを放棄しており、Operaも2013年にブラウザエンジンを放棄しています。Mozillaがブラウザエンジンを開発できなくなれば、GoogleのChromiumが唯一のクロスプラットフォームブラウザエンジンとなってしまいます」と語っています。


ブラウザ市場のシェアはさておき、Mozillaはウェブをオープンかつプライベートに保つための大きな役割を果たしてきました。Firefoxはアメリカで2700万人の月間アクティブユーザー(MAU)を抱えており、世界では2億500万人近くのMAUを抱えています。

サーマン社長は「我々はブラウザ開発を儲かるからだとか、簡単だからやっているわけではありません。重要だからやっているのです。しかし、DOJの提案は的を外しているだけでなく、GoogleやAppleのような業界を牛耳る企業に権限を与えるリスクが増すだけです」と述べ、改めてDOJに対して是正策案の見直しを求めています。

なお、DOJとGoogleは新しい是正策案について公聴会の中で主張を展開し、最終的に2025年夏に是正策が決定される予定となっています。

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