なぜトランプ大統領はそんなにウクライナの鉱物資源を欲しがっているのか?を地質学者が解説 – GIGAZINE


ウクライナの鉱物資源の権益に関する合意文書の締結に向けて、アメリカのドナルド・トランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席した2025年2月の会談では、戦争をめぐって前代未聞の激しい口論が起きて交渉が決裂しましたが、その後もアメリカ政府は協定の締結に向けた協議を模索しています。トランプ大統領が強く重視しているウクライナの鉱物資源について、専門家が解説しました。

What’s so special about Ukraine’s minerals? A geologist explains
https://theconversation.com/whats-so-special-about-ukraines-minerals-a-geologist-explains-251551

ウクライナは世界有数の穀倉地帯として有名ですが、イギリスにあるプリマス大学の地質学研究員であるムニラ・ラジ氏によると、その地下には「ウクライナ楯状地(たてじょうち)」が広がっており、世界でも有数のものとして注目されているとのこと。

下図で「1」と書かれている黄色の部分がウクライナ楯状地です。

by Alex Tora

楯状地とは、今から25億年以上前の先カンブリア時代に形成された結晶質岩が露出した地域で、地球上で最も古く、最も安定した地質学的構造を有しています。

長い歳月と、火山活動や造山運動といった地質学的プロセスにより、楯状地には希土類元素、いわゆるレアアースをはじめとして、リチウム、グラファイト、マンガン、チタンなど現代の産業に欠かせない資源を豊富に含んだ鉱床が形成されました。

広大な楯状地を有するウクライナには、EUがエネルギー安全保障に不可欠だと指定した34種の重要鉱物のうち22種の鉱床があり、これによりウクライナは世界で最も資源が豊富な国の1つとなっています。

特筆すべきは、スマートフォンやEVのバッテリーから再生可能エネルギーまで、多くの製品やエネルギーシステムに不可欠なリチウムです。近年の需要の高まりによりリチウム価格は1990年代の1トン当たり1500ドル(約22万円)から2万ドル(約300万円)に高騰しており、需要は2040年までにさらに40倍に拡大するとみられています。

by Dnn87

ウクライナは3つの主要なリチウム鉱床を有しており、特にロシアが一方的に併合を宣言したドネツク州のシェフチェンキウスケにあるリチウム鉱床には1380万トンのリチウム鉱石が眠っていると推定されています。

また、ウクライナ中部に位置するキロヴォフラード州のポロヒウスケおよびスタンクヴァツケにもリチウム鉱床が2カ所あり、そのうちポロヒウスケの鉱床は埋蔵量こそ約27万トンと比較的少ないものの、地質条件が良好で採掘が容易であるためヨーロッパ最高のリチウム採掘地に数えられているとのことです。

さらに、ウクライナは原子力発電や核兵器に不可欠なウランと、製鉄や電池の製造に使われるマンガンの埋蔵量がヨーロッパ最大で、スマートフォンやモーターなど多くの製品に必要なネオジムジスプロシウムなどのレアアースの埋蔵量も豊富です。しかし、ロシアとの戦争によりウクライナでの資源採掘は中断され、インフラも破壊されており、豊富な資源の多くは手つかずのままとなっています。

実際のところ、鉱物資源はアメリカにも豊富に存在しており、例えば2023年には史上最大の規模のリチウム鉱脈が発見されました。

アメリカで発見されたリチウム鉱脈に4000万トンという史上最大規模のリチウムが埋まっている可能性 – GIGAZINE


しかし、環境規制や高い労働力コストなどにより、アメリカは資源の採掘や精製の多くを国外に依存しており、特に重要な鉱物のいくつかは中国からの輸入に頼っているのが実情です。軍事的な保護と引き換えにウクライナの資源にアクセスできれば、アメリカはその分だけ中国への依存度を減らすことが可能になります。

トランプ大統領がウクライナとの締結を目指していた鉱物資源協定では、ウクライナの鉱物資源や石油、天然ガスを含む採掘可能物質から得られる将来の収益の50%を、両国が共同管理する復興投資基金に拠出することになっていました。記事作成時点でも、両国は協定の締結に向けた協議を続けていますが、1度は決裂した協定の内容が変更されているかどうかは不明です。

ラジ氏は「ウクライナの豊富な鉱物資源は、クリーンエネルギー革命の潜在的リーダーとしてのウクライナの地位を確固たるものとしています。戦争が終わって再び国内が安定すれば、ウクライナは重要な鉱物の世界的なサプライチェーンを再構築する絶好の機会を得ることになるでしょう。アメリカに半分割り当てられることになっても、ウクライナは国内インフラ、産業成長、雇用、経済回復に資金を供給できます」と述べました。

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