オオタバコガ(Helicoverpa armigera)の幼虫はトマト・ナス・イチゴ・綿花など、幅広い商業作物を食害することで知られる害虫です。そんなオオタバコガの腸内に生息する真菌が、廃棄物が世界的な問題になっている発泡スチロールを分解する可能性があると示されました。
発泡スチロールはプラスチックの一種・ポリスチレンに気泡を含ませたものであり、電子機器などの梱包材やコーヒーカップ、冷蔵庫の断熱材などさまざまな場面で使用されています。ポリスチレンの生産量は年々増加しており、2034年までに約6200万トンに達する可能性がありますが、記事作成時点ではポリスチレンをうまくリサイクルする方法が見つかっていないため、ほとんどの発泡スチロールは埋め立て地に処分されています。
科学者らはこの問題を解決するために昆虫や微生物に目を向けており、実際にプラスチックを分解する微生物も発見されています。しかし、昆虫や微生物に分解されたプラスチックが最終的にどうなるのかや、プラスチックを分解するメカニズムについてはよくわかっていません。
そこでブラジル・サンカルロス連邦大学の研究チームは、世界各国に広く分布する害虫であり、幼虫が発泡スチロールを食べることが知られるオオタバコガの腸内真菌に焦点を当てた実験を行いました。オオタバコガの幼虫は食べたものに応じて腸内微生物叢(そう)が変化することが知られており、研究チームは「発泡スチロールを食べさせたら、発泡スチロールを分解する真菌が増えるのではないか」と考えたとのこと。
以下の画像をクリックすると、リンク先でモザイクが外れたオオタバコガの幼虫の姿を見ることができます。
実験では7日間にわたり、オオタバコガの幼虫に「発泡スチロールのみ」「発泡スチロールと一般的な試料を半分ずつ」「一般的な試料のみ」のいずれかを与えました。そして7日後に幼虫の腸内微生物を分離して、それぞれのグループでどのような真菌が増えているのかを調べました。
実験の結果、発泡スチロールのみを与えられた幼虫は一般的な試料のみを与えられた幼虫と比較して、コウジカビ属(Aspergillus、アスペルギルス属)・トレマトスフェリア属(Trematosphaeria)・メタリジウム属(Metarhizium)・タラロマイセス属(Talaromyces)の菌量が明らかに多いことが判明。また、発泡スチロールと一般的な試料の混合食を与えられた幼虫では、クリプトコッカス属(Cryptococcus)とマラセチア属(Malassezia)の割合が増加していることが確認されました。
続いて、研究チームは幼虫の腸からコウジカビ属を1種、タラロマイセス属を1種、アオカビ属(ペニシリウム属)を2種分離して培養しました。以下の写真はいずれも幼虫から分離された真菌で、左上がコウジカビ、右上がタラロマイセス属、下列がアオカビ属です。

研究チームは幼虫から分離した4種類の菌類を、滑らかなポリスチレンフィルムの上で60日間培養しました。その後、真菌がポリスチレンフィルムにどのような影響を与えたのかを調べるため、菌類を洗い流した後に走査型電子顕微鏡でフィルムを観察しました。
以下の画像は左側が真菌を培養しなかったポリスチレンフィルム、真ん中が低倍率で撮影した真菌培養後のポリスチレンフィルム、右側が高倍率で撮影した真菌培養後のポリスチレンフィルム。上から順にコウジカビ属、タラロマイセス属、アオカビ属2種となっています。特に、発泡スチロールを与えられた幼虫で増加していたタラロマイセス属を培養したフィルムでは、菌類が穴を空けて内部に侵入した痕跡が確認されました。

今回の実験では、オオタバコガの幼虫の腸内に生息している真菌がポリスチレンに作用することが示されましたが、そこで起こっている具体的な化学的プロセスについてはよくわかっていません。次の重要なステップは、これらの菌類がポリスチレンを実際に消化しているのか、それともより小さな断片に分解しているのかを調べることです。また、菌類がポリスチレンを分解する効率性も、こうしたバイオテクノロジーを大規模展開する上で重要な要素となります。
科学系メディアのScienceAlertは、これまでに多くの微生物や昆虫がプラスチック分解能力を持つことが示されてきたものの、これらはプラスチック問題の解決にほとんど寄与していないと指摘。微生物や昆虫をそのまま使用するのではなく、分解プロセスに利用される酵素を単離する方が、工業規模の用途には適している可能性があると述べました。
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