しかし、こうした人工衛星の急増は、現代の天文学にとって壊滅的な「光害」をもたらすことが指摘されています。すでに人工衛星の反射光は、天文台で撮影されている多数の画像に悪影響を及ぼしており、今後もその問題は悪化していくとみられます。
ベンタブラック310は世界で最も黒い物質であるベンタブラックをベースに開発された塗料で、塗布のしやすさや耐久性などを念頭に置いて設計されています。研究チームはさまざまな照明条件と観察条件下でベンタブラック310がどのように光を反射するかを測定し、これらの測定値を用いてベンタブラック310でコーティングした人工衛星が地上からどのように見えるかをシミュレーションしました。
その結果、人工衛星をベンタブラック310でコーティングすることにより、入射光のわずか2%しか反射しなくなることが確認されました。また、反射されるわずかな光もより拡散的に分散されるため、反射性の高い人工衛星の表面で生じやすい閃光(せんこう)も軽減されるとのこと。
以下は、同じブロンズ製の顔型にベンタブラック310を塗ったもの(左)と、何も塗らなかったもの(右)を比較した写真です。ベンタブラック310を塗るとほぼすべてが真っ黒に見え、正面からでは顔の凹凸すら見分けられないことがわかります。

天体の明るさを示すAB等級(値が低いほど明るい)では、ベンタブラック310を塗った多くの人工衛星が「7.1~7.8」という値になり、最も反射率の高い人工衛星でも「6.7~7.0」にとどまりました。国際天文学連合は人工衛星や軌道上の物体について、AB等級が「7」を上回るようにすることを推奨しており、ベンタブラック310を塗った人工衛星はほぼこの範囲に収まります。
コーティングされていないSpaceXの人工衛星のAB等級は「3.7」であり、ベンタブラック310を塗った人工衛星より大幅に明るいそうです。また、SpaceXは「DarkSat」「VisorSat」といった人工衛星の光を軽減する方法もテストしてきましたが、ベンタブラック310はこれらと同等かそれ以上の効果を発揮したと報告されています。
さらに研究チームは電子顕微鏡を用いて、ベンタブラック310を塗った人工衛星の表面がどのようになっているのかも評価しました。すると、ベンタブラック310は「空洞のようなくぼみを持つサンゴのような構造」を作り出していることが判明し、これが光を閉じ込める物理的特性を示していると結論付けられています。

なお、今回の研究はあくまでベンタブラック310の光学性能のみを対象にしたもので、人工衛星の運用環境における熱挙動や耐久性、人工衛星システムへの統合についてはさらなる研究が必要だとされています。
ベンタブラック310についてはさらなる実験が計画されており、軌道上訓練・教育・研究のための大学共同プログラム「JUPITER」による初の人工衛星ミッション「Jovian-1」にベンタブラック310が塗られる予定です。この実験では、宇宙空間におけるベンタブラック310のコーティング性能や、地上から人工衛星の輝度変化が測定できるかどうかが検証される予定です。
論文の共著者であり、サリー大学の天体物理学者であるノエリア・ノエル氏は、「宇宙はますます混雑しており、天文学者だけでなく手つかずの夜空を大切に思うすべての人にとって課題となっています。この研究の心強い点は、単に問題点を特定するだけでなく、実践的で証拠に基づいた解決策の開発へと私たちを導いてくれることです」と述べました。