「猫の鳴き声で音を出すピアノ」や「色で奏でる鍵盤楽器」など実在しない楽器ばかりを集めたオンライン博物館「Museum of Imaginary Musical Instruments」を巡ってみた


実在しない楽器や、文学・図面・構想の中だけに存在する楽器を集めた「Museum of Imaginary Musical Instruments」は、音楽史・音楽技術史を研究するディアドラ・ラフリッジ氏と音楽学者のトーマス・パテソン氏が、想像上の楽器を収集・分類するために公開しているオンライン博物館です。実際にどんな展示があるのかをサイト上を巡りながら確かめてみました。

Museum of Imaginary Musical Instruments
https://imaginaryinstruments.org/

「Museum of Imaginary Musical Instruments」のトップページはこんな感じで、上部にメニューがあり、その下に架空の楽器のサムネイル画像が並ぶシンプルな作りです。


まずは「The Cat Piano」という展示を見るためサムネイル画像をクリック。


The Cat Piano(猫ピアノ)
「猫ピアノ」は猫の鳴き声を音源にする架空の鍵盤楽器です。掲載されている図は1883年の科学雑誌「La Nature」に掲載されたもので、複数の猫が箱の中に並べられた装置が描かれています。


この楽器は弦の代わりに猫の尻尾が細いさやの中へ差し込まれており、鍵盤に対応したハンマーが猫の尻尾を刺激するという仕組みになっているとのこと。猫は性別・年齢・鳴き声の高さに応じて並べられ、鍵盤を押すと対応する猫が鳴くことで音階を作るというかなり不穏な発想の楽器です。


猫ピアノの図像の起源は1600年ごろまでさかのぼるそうで、イエズス会士のアタナシウス・キルヒャーが「悩みに苦しむ王子の憂うつを晴らすために芸術家が猫ピアノを発明した」という逸話を伝えているとのこと。


現代の感覚では動物虐待のように思えますが、音楽と騒音、人間と動物の関係を考えさせる例としてまとめられていました。

Ocular Harpsichord(視覚チェンバロ)
「視覚チェンバロ」は音ではなく色で音楽を作ろうとした鍵盤楽器です。1743年にドイツの医師・自然科学者であるヨハン・ゴットロープ・クリューガーが提案した図版が掲載されています。


この発想の背景には「音階の七つの音と虹の七色を対応させる」という考え方があります。フランスの数学者ルイ・ベルトラン・カステルは1725年、チェンバロの音の高さを色に置き換えれば「目のための音楽」を作れると考えました。

カステル自身は理論家としての関心が強く、実際の楽器製作にはあまり積極的ではなかったとのことですが、批判や好奇心に応えるために試作機を作ったと説明されています。カステルの試作機は、鍵盤を押すと音に対応する色付きの絹やガラスが現れ、それを背後からろうそくの光で照らすようなものだったと伝えられています。ただし、技術的な図面や詳細は残っておらず、訪問者による曖昧な記録だけが伝わっているそうです。

クリューガーはカステルの楽器が音を順番に色へ置き換える「旋律」の表現には向いている一方で、複数の音を同時に鳴らす「和音」の表現には不十分だと考えました。そこでクリューガーは、鍵盤を押すと通常のチェンバロの機構が動くと同時にろうそくの光が色ガラスを通ってスクリーンに映る仕組みを1743年に提案しました。クリューガー案では低い音に対応する鍵盤ほど大きな光の円を映し、高い音に対応する鍵盤ほど小さな光の円をその中心付近に重ねて映します。複数の鍵盤を同時に押すと色の違う光の円が同じスクリーン上で重なり、音楽の和音に相当する「色の和音」を作れるという発想です。

Tower Orchestra(塔のオーケストラ)
「塔のオーケストラ」はサクソフォーン、いわゆる「サックス」の発明者であるアドルフ・サックスが1850年に構想した巨大楽器です。


サックスは、パンテオンやノートルダム大聖堂より高い4本の塔を建て、その塔を橋でつないだ巨大な演奏装置を作る構想を語っています。塔の中では蒸気機関が巨大なシリンダーを動かし、通常の大気圧の5倍・10倍・15倍に圧縮した空気を使って楽器を鳴らす想定でした。さらに、巨大なトライアングルやシンバル、象の皮を張った大太鼓やティンパニ、橋を支える金属ロープまで音源として使う構想もあったとのことです。


サックスは大人数のオーケストラでは遠くの奏者の音が弱く聞こえ、人数を増やしても音量が比例して増えるわけではないと考えていました。その解決策として巨大な共鳴装置を都市の上に置き、圧縮した空気や蒸気機関を使って音を遠くまで響かせようとしたというわけです。

なお、サックスの友人はサックスに対して「あと50年の進歩を待たずにこの考えを話せば狂人だと思われる」と忠告していたそうです。

Tipu’s Tiger(ティプーの虎型オルガン)
「ティプーの虎型オルガン」は、南インドのマイソール王国を治めたティプー・スルターンに関わる虎型のオルガンです。虎がイギリス兵を襲う姿をした工芸品で、スルターンが1782年から1799年の間に発注したものとされています。


内部にはパイプや手回し機構があり、虎の頭部と人間の頭部に入ったパイプによって虎のうなり声と人間のうめき声を模した音を出すという仕組み。さらに虎の体内には2列のパイプを備えたオルガンがあり、丸い鍵の列で演奏できるようになっていたとのことです。

スルターンはイギリス東インド会社と戦いましたが、最終的に敗北し、都だったセリンガパタムは略奪されました。その後、この虎型オルガンはロンドンへ運ばれ、現在はVictoria and Albert Museumに収蔵されているそうです。


実在する工芸品であるにもかかわらず「Museum of Imaginary Musical Instruments」で取り上げられているのは、タニア・ジェームズ氏の小説「Loot」の中でこの虎型オルガンの制作過程や内部構造が想像を交えて描かれているため。現実に存在する工芸品と文学上の想像が重なる楽器として扱われています。

YouTubeには実際に虎型オルガンを演奏している動画がアップロードされていました。

Tipu tiger Youtube video2 – YouTube


Snare Drums Reimagined(再構想されたスネアドラム)
「再構想されたスネアドラム」は、ドラマーのジョナサン・ウルマン氏が2024年に自身のInstagramに投稿した、生成AIで作ったスネアドラムのシリーズです。レンガやテレビなど普通ならスネアドラムの素材にならないものがスネアドラムになったかのような画像が並んでいます。


この展示はAI生成画像だけではありません。ウルマン氏は以前に「Snare Scapes(スネア・スケープス)」というシリーズもInstagramへ投稿しており、紙で作ったスネアドラムの型を街中の物体や風景に重ねて撮影していました。生成AIがアイデアからリアルな写真風画像を生成する一方で、紙の型をカラーコーンや消火栓などに重ねるだけでも、見慣れた街中の物体を架空のスネアドラムのように見せられるというわけです。


「Museum of Imaginary Musical Instruments」の展示はトップページから探すだけではなく、カテゴリ別に探すこともできます。上部メニューの「Exhibits」をクリック。


「Exhibits」ページでは展示がカテゴリ別に分類されています。たとえば「Auditory Extensions」は音楽を作る道具ではなく、音楽を聴く能力を助けたり拡張したりする装置を扱うカテゴリ。「Musica ex machina」は自動で音楽を生み出す機械、「Technological Chimeras」は異なる技術を組み合わせた楽器を扱うカテゴリです。

他にも、巨大な楽器を扱う「Giganticism」、物質世界では実現できない寸法や音響特性を持つ楽器を扱う「Abstract Resonators」、生き物を楽器の一部として扱う「Sentient Sounds」、音源が見えないことで想像上の楽器が生まれる「Acousmatic Instruments」、鍵盤を使った架空の楽器を扱う「Keyboard Interfaces」のカテゴリがあります。今回は「Technological Chimeras」をクリック。


すると以下のように「Technological Chimeras」のカテゴリに該当する展示だけに絞り込むことができるので、まずはトップページから展示を見ていき、好みのカテゴリが見つかったら「Exhibits」でそのカテゴリの展示を見るという使い方をすると便利です。


「Museum of Imaginary Musical Instruments」は単に実在しない楽器を眺めるだけのサイトではなく、架空の楽器をたどりながらそれぞれの由来や仕組み、関連する文学作品や技術史を学べるオンライン博物館になっていました。

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