
ロシア・シベリア南西部のチャギルスカヤ洞窟で見つかった約5万9000年前のネアンデルタール人の臼歯から、虫歯で傷んだ部分を石器で削ったとみられる痕跡が見つかりました。
Earliest evidence for invasive mitigation of dental caries by Neanderthals | PLOS One
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0347662
Neanderthal dentists used stone drills to treat cavities nearly 60,000 years ago | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1127083
The Earliest Known Dentistry Wasn’t Done By Our Species : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-earliest-known-dentistry-wasnt-done-by-our-species
ネアンデルタール人は病気やけがをした仲間を世話していた可能性があるほか、薬用植物を口にしていた可能性も指摘されています。しかし、こうした行動が意図的な医療行為だったのか、動物にも見られるような本能的な自己治療だったのかははっきりしていませんでした。
そこでロシア科学アカデミーのピョートル大帝記念人類学・民族学博物館に所属するアリサ・V・ズボワ氏らの研究チームは、ロシア・シベリア南西部のチャギルスカヤ洞窟で見つかったネアンデルタール人の臼歯を分析しました。
この歯は「Chagyrskaya 64」と呼ばれる成人ネアンデルタール人の下あごの奥歯で、約5万9000年前のものです。かみ合わせ面には大きく不規則なへこみがあり、研究チームはこのへこみが自然な摩耗や死後の損傷でできたものなのか、それとも生前に意図的に作られたものなのかを調べました。
へこみは長さ4.2mm、幅2.8mm、最大深さ2.6mmで、3つのくぼみが互いにつながった形をしていました。以下の拡大画像では、黒っぽく変色したかみ合わせ面の中に白い円で示された複数のくぼみが重なっている様子が確認できます。
micro-CTで内部を調べると、へこみは神経や血管を含む歯髄が入った空間に達していたとのこと。以下の断面画像では矢印で示されたかみ合わせ面のへこみ付近から、歯の内部に向かって大きな空洞が広がっていることが分かります。
また、歯と歯の間にはつまようじのような細い道具でこすったとみられる溝もありました。研究チームは大きなへこみと溝が同じ歯に残っていることから、Chagyrskaya 64の持ち主が複数の方法で口内の問題に対処していた可能性があるとみています。
こうした痕跡を含めて研究チームが歯の表面と内部を詳しく調べたところ、「歯の内部の象牙質が虫歯によって弱くなった状態」が歯の内側と外側の両方で確認され、深い虫歯に一致する状態だったことが分かりました。一方、同じ洞窟で見つかったほかの歯には同じようなへこみや脱灰は見られず、死後の損傷や通常の摩耗だけで説明するのは難しいと研究チームは判断しました。
さらに、研究チームは現代人の歯3本を使って再現実験を実施。実験ではチャギルスカヤ洞窟で見つかった石器に似た先端のとがった石器を使い、歯を削ったり石器を回転させたりしました。その結果、細い石器を手で回転させるとChagyrskaya 64に似たへこみや微細な線状の痕跡を作れることが確認されました。以下の画像では、Chagyrskaya 64に残った痕跡(左)と現代人の歯を使った再現実験でできた痕跡(右)が比較されています。
研究チームはChagyrskaya 64のへこみについて、虫歯で傷んだ組織を取り除いて歯髄が入った空間に到達するために石器を回転させて作られたものだと解釈しており、研究メンバーのクセニア・A・コロボワ氏は科学系メディアであるScience Alertの取材に対し「病気や事故では説明できません。意図的な手作業による処置でした」と述べています。また、この処置は痛みを伴ったはずですが、損傷した歯の組織を取り除くことで最終的には感染による痛みを和らげた可能性があるとのことです。
これまで虫歯に対する意図的な歯科処置の最古の例は、イタリア北東部のリパリ・ヴィラブルナで見つかった約1万4160~1万3820年前のホモ・サピエンスの歯だと考えられていました。しかし、Chagyrskaya 64が虫歯治療の痕跡だとすれば、意図的な歯科処置の証拠は約4万5000年さかのぼることになります。
研究チームは、この処置を本人が行ったのか別の個体が行ったのかまでは断定していません。一方で石器を歯科用ドリルのように使ったとみられる今回の痕跡は、ネアンデルタール人が痛みの原因を把握し、長期的な痛みを減らすために短期的な痛みに耐えた可能性を示すものだとみています。
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