中国の主要AIラボを訪問したアメリカ人研究者が語る「中国AIエコシステム」は欧米のAI研究と何が違うのか? – GIGAZINE


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アメリカのAI研究者であり最先端のAI技術を解説するニュースレター「Interconnects」を運営するネイサン・ランバート氏が、中国の主要AIラボを複数訪問して得た知見をまとめています。ランバート氏は、中国のAI業界について「アメリカのような競争的な関係ではなく、ひとつの巨大なエコシステムのようだった」と述べており、中国AI企業の急速な成長を支える文化や組織構造、研究者の特徴について詳細に解説しています。

Notes from inside China’s AI labs – by Nathan Lambert
https://www.interconnects.ai/p/notes-from-inside-chinas-ai-labs


ランバート氏によると、中国とアメリカの研究所はエージェント型ワークフローを可能にする最新かつ最大規模のモデル、優秀な科学者、大規模データ、高速コンピューティングという構成要素を高い水準で備えている点では似ている一方で、これらの要素がどのように組織され、どのような環境で育まれているかに決定的な違いが現れるそうです。ランバート氏は以前から「中国の研究機関が最先端技術に追いつきその水準を維持できるのは文化的伝統を基盤としている」と考えていましたが、中国の一流研究機関に所属する科学者と実際に話をすることで、その考えが確固たるものになったとのこと。

高度な大規模言語モデル(LLM)を構築するには、膨大な調整作業と複雑な工程が必要になります。そのため、個々の研究者の突出した成果よりも、モデル全体の性能やコスト、安定性など複数の要素をバランスよく改善していくことが重要だとランバート氏は指摘しています。

アメリカでは自分の意見を主張する文化が強く根付いており、自分の研究について発言することで「AI分野の第一人者」として成功しやすくなりますが、そうした文化が企業や研究組織内での対立を生んでいます。例えばMetaのLLM「Llama」の組織は「研究者の利害関係が階層組織の中に根付き、組織内政治の重みによって崩壊した」というウワサが広まっているそうです。実際に、MetaはオリジナルのLlama開発チームのほとんどを競合他社に引き抜かれていることが報じられており、人材の入れ替わりが激しいことが分かっています。

MetaはオリジナルのLlama開発チームの14人中11人を競合他社に奪われている – GIGAZINE


一方で、中国の研究者は「目立つ研究成果」よりもモデル全体の性能向上を優先する傾向が強く、派手ではない地道な作業にも積極的な傾向にあるとランバート氏は指摘しています。最終モデルを改善するための目立たない作業や、AI構築に不慣れな人々であっても新しい技術へ迅速に適応しようとする意欲、アーキテクチャ調整など無数の細かな改善の積み重ねにおいて、「総力戦型」の中国の研究文化は相性が良いとランバート氏は分析しています。

また、中国の主要AIラボでは学生が中核メンバーとして開発に深く参加している点も特徴として挙げられています。OpenAIやAnthropic、Cursorなどはインターンシップを提供しておらず、GoogleのようにGemini関連のインターンシップがある企業でも、中核研究から切り離されるのではないかという懸念があります。一方で中国では学生研究者が実際のモデル開発チームに直接組み込まれており、学生たちは先入観なく新技術へ適応できる上、大量の論文や技術情報を短期間で吸収する能力にも長けているとランバート氏は評価しています。

さらに、中国AI業界では企業同士の関係性もアメリカと大きく異なるそうです。ランバート氏は中国のLLM業界について「互いに激しく競争する部族というより、1つの生態系のような様相」と表現しています。AlibabaやByteDanceのような巨大IT企業は強い影響力を持つ一方、技術力ではDeepSeekが高く評価されており、各社は互いを強く意識しつつも仲間への敬意が感じられ、比較的オープンに技術や知見を共有する文化があるとのこと。一方でアメリカでは誰もがデータ販売業者からコンピューティング、資金調達に至るまでさまざまな産業動向に夢中になっているように感じられ、「研究者同士が会うとすぐに競争的な雰囲気になる」とランバート氏は語りました。


ランバート氏は、中国の研究者と対話して得られた「業界レベルで最も重要な6つの知見」をまとめています。

1:これまで企業向けソフトウェア(SaaS)市場が小さかったことから「中国ではAIサービスへの支出も伸びにくいのではないか」という見方がある一方で、実際にはクラウド市場は非常に大きく、AI需要もクラウドのように拡大していく可能性が中国の研究所内で議論されています。

2:中国のAI開発者たちは、中国国内で正式提供されていないにもかかわらず、Anthropicの「Claude」を非常に高く評価してソフトウェア開発に使用しています。

3:中国企業には「重要技術は自社で保有するべき」という考え方が強く、AlibabaやByteDanceのような巨大IT企業だけでなく、多くの企業が独自AIモデル開発に取り組んでいます。

4:中国政府はLLM開発への支援をしていることがそれぞれの研究組織内で確認できましたが、その規模はよく分からなかったとランバート氏は述べています。ただし、政府がAIモデルの技術的な決定に直接影響を与えている兆候はまったくなかったとのこと。

5:中国のデータ業界の質はアメリカと比べて低くなっています。中国企業には根強い「build-not-buy(外部購入より自社構築)」文化があり、環境やデータは研究者自身が強化学習のトレーニング環境の構築にかなりの時間を費やすなど、社内で構築する方が良い場合が多いそうです。

6:アメリカ政府の高性能NVIDIAチップの輸出規制に大きな打撃を受けており、常に高性能チップを渇望しています。

ランバート氏は「中国には西洋の意思決定方法ではモデル化するのが極めて難しい特性や本能が数多く存在する」と知見をまとめており、中国の研究所がオープンソースにこだわりを持つことが多いのもその文化に由来するものであり、詳細に説明するのは難しいと分析しています。ランバート氏はアメリカ人AI研究者としてアメリカがAI研究のリーダーシップを取ることを望みつつも、中国的なオープンエコシステムがより安全でよりアクセスしやすくより有用なAIを生むと考えていると語りました。

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