数学研究におけるAI革命が到来、数学者たちは「これはまだ始まりに過ぎない」と考えている – GIGAZINE


AIの進歩はビジネスや娯楽だけでなく、さまざまな研究分野にも恩恵をもたらしています。近年は数学研究においてもAIが活用されるケースが増えており、数学者らは期待を寄せていると科学系メディアのQuanta Magazineがまとめています。

The AI Revolution in Math Has Arrived | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/the-ai-revolution-in-math-has-arrived-20260413/

2025年の7月、Googleが開発するAI「Gemini Deep Think」の強化版をはじめとする複数のAIが、世界最高峰の高校生が競う国際数学オリンピックで出題される問題に挑戦し、6問中5問を完璧に解くことに成功しました。これは人間であれば数学オリンピックで金メダルを獲得できるレベルであり、多くの数学者がAIに注目するようになりました。

Googleの強化版Geminiが数学オリンピックで金メダルを取る性能に到達、自然言語で動作し人間と同じ制限時間で解答を導き出す – GIGAZINE


かつて、AIはエラーを起こしやすく数学研究には役立たないと考えられてきましたが、2025年にはAIを使って未解決の数学問題に取り組み、新しい解決法を短時間で見つけたり証明したりできる事例も増えてきたとのこと。カリフォルニア大学の著名な数学者であるテレンス・タオ氏は、「2025年はAIがさまざまなタスクで本当に役立ち始めた年でした」と語っています。

2025年の夏はAIの数学能力における転換点となりましたが、AI開発企業や一部の数学者はそれ以前からAIを使って数学的問題を解決することに取り組んできました。Google DeepMindは2018年からAIを使って数学の問題を解こうとしており、2025年1月にはタオ氏をはじめとする数学者らは、Google DeepMindと協力して「AlphaEvolve」というAIシステムの開発に着手しました。

AlphaEvolveはGeminiを使って数百行にも及ぶPythonコードでプログラムを作成し、遺伝的アルゴリズムと呼ばれる手法を用いてこれらのプログラムを「進化」させ、数学の問題に対する最適な解を見つけ出すとのこと。

4人の数学者は数カ月にわたり、1~2日おきにAlphaEvolveを新しい数学問題に適用しました。その結果、さまざまな数学分野にまたがる67個の異なる問題において、AlphaEvolveは23個の問題で既知の最良の解をわずかに改善し、36個の問題では既知のものと同等の結果が得られたとのこと。研究チームはこの結果を、「Mathematical exploration and discovery at scale(大規模な数学的探求と発見)」という論文で報告しています。

[2511.02864] Mathematical exploration and discovery at scale
https://arxiv.org/abs/2511.02864


タオ氏は現行のAIモデルについて、「膨大な問題リストの中から単に解決できるものを見つけ出すのが非常に得意です。それは退屈で報われない作業であり、人間がやりたいことではありません」と述べています。また、散発的な成功事例の裏には報告されていない失敗も多数ありますが、それでも数学分野におけるAIの成功は目を見張るものだと主張しました。

タオ氏らとともにAlphaEvolveの開発に携わった数学者のハビエル・ゴメス=セラーノ氏は、記事作成時点では自分が使える時間のうち約3分の2をAIに費やしているとのこと。ゴメス=セラーノ氏は、「AIは有用かつ実用的な段階に達しつつあります。これは私たちが数学を行う新しい方法の始まりです」と述べています。

チューリッヒ連邦工科大学の数学者であるヨハネス・シュミット氏も、AIとの会話は研究において有益なものだと語っています。シュミット氏はAIがたくさんの間違いやデタラメを話すと認めつつも、「この会話から何か得るものはあるはずです。すべてのアイデアが良いとは言えませんが、悪いものは無視して良いものだけを取り入れればいいのです」と話しました。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の数学者であるアーネスト・リュウ氏は、主に最適化理論と呼ばれる応用数学の分野で研究を行っています。AIが数学オリンピックの問題を解いたという発表を受けて実際に使い始めたところ、リュウ氏はAIの数学能力が以前より大幅に向上していることに気が付いたとのこと。それからリュウ氏は、AIを講義ノートの作成などに利用するようになりました。

リュウ氏は10月のある日、過去に何度か試みたことのある最適化理論の未解決問題に、ChatGPTを用いて取り組み始めました。1983年にロシアの数学者ユーリー・ネステロフ氏によって提唱されたこの問題についてChatGPTに尋ねると、間違った証明ばかりが返ってきたとのこと。しかし、その誤りに至るまでの過程には興味深いステップもあり、部分的には潜在的に有用だと思われる箇所もあったそうです。リュウ氏は検証者としてChatGPTの回答を調べ、正しい部分だけを残してフィードバックし続けた結果、3日後には簡略的な証明にたどり着きました。

リュウ氏は研究結果を論文にまとめて発表した数カ月後、大学を休職してOpenAIに技術スタッフとして就職しました。リュウ氏は、「これは最も独創的なことでも、最も複雑なことでもありませんでした。しかし、決して簡単なことではありませんでした」「これはChatGPTの活用によって発見が本当に加速した具体的な事例です」と述べています。

[2510.23513] Point Convergence of Nesterov’s Accelerated Gradient Method: An AI-Assisted Proof
https://arxiv.org/abs/2510.23513


AIはさまざまな数学研究を加速させると期待されている一方で、数学を学んでいる学生の教育方法に悪影響が及ぶ可能性も指摘されています。バージニア大学を休職してAI開発企業のAxiomに就職したケン・オノ氏は、「AIが数学研究に役立つ可能性については明るい見通しを持っていますが、あらゆるレベルの仕事や教育におけるAIの役割については深く懸念しています」とコメント。

ノートルダム大学の数学者であるジョエル・デイヴィッド・ハムキンス氏は、学生が提出する課題のかなりの割合がAIによって生成されていることから、宿題を出すのを諦めてしまったとのこと。「私はAIがこなした課題を読みたくありません。AIの監視役になりたくはないのです」と述べ、すべてを授業内の小テストなどで完結させなくてはいけない状況は、学術界全体の問題だと指摘しました。別の一流大学に所属する数学者も、「AIは真剣な数学研究者の進歩を加速させる一方で、より多くの数学研究者を育成することを阻害するという深刻なリスクがあります」と述べています。

タオ氏もAIが学生の思考力を奪う可能性があるとの懸念を示しつつ、AIが数学研究にもたらす変革に期待しています。タオ氏は、「AIツールを使えば一度に数千もの問題を解決し、統計的な研究を始めることができます」「従来の数学のやり方とは、見た目も感じ方もまったく異なるものになるでしょう」と述べました。

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