たとえば1889~1990年に世界的パンデミックを引き起こしたロシア風邪の後、一部の患者は数カ月~数年にわたる倦怠(けんたい)感や筋肉痛、不安、睡眠障害、抑うつといった症状を訴えました。また、1918年からはスペイン風邪(H1N1亜型インフルエンザ)が世界中で流行しましたが、同時期に報告された嗜眠(しみん)性脳炎はスペイン風邪の後遺症という説があります。
さらに、20世紀に北半球各地で流行したポリオウイルスは感染者の多くが軽症で済んだものの、一部の患者は麻痺性疾患を発症しました。それだけでなく、感染から数年~数十年後に疲労や痛み、筋力低下などを特徴とするポリオ後症候群が引き起こされるケースも報告されています。
2002~2004年にかけて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)から回復した一部の患者は「ロングSARS」と呼ばれる後遺症を発症し、持続性の肺疾患や筋肉の萎縮、睡眠障害、疲労、認知障害といった症状に1年以上悩まされることとなりました。2014~2016年に西アフリカで発生したエボラ出血熱の生存者の多くも、慢性的な眼の合併症や筋骨格系の痛み、神経認知障害、深刻な疲労といった後遺症を発症しています。

ワクチンは感染症の発症を防ぐだけではなく、数カ月~数年後に発症する可能性がある慢性疾患を予防してくれます。モーエン氏らは、「時代や地域、病原体を超えて得られる教訓は驚くほど一貫しています。それは感染症を生き延びたからといって、必ずしも回復できるわけではないということです」「端的に言えば、ワクチンは不可欠なのです」と述べています。
しかし近年のアメリカでは、ドナルド・トランプ大統領が任命したケネディ長官の下、反ワクチン的なメッセージが押し出され、人々をワクチン接種から遠ざけるような政策が実施されています。これによりワクチン接種率の低下が進めば、アメリカでは本来であればワクチンで予防できたはずの感染症が流行し、それに伴う慢性疾患に苦しむ患者も増えることが予想されます。
現代医学が多くの人命を救えるようになったのは、科学者や医師によるデータに基づいた研究の結果であり、現在だけでなく将来的な病気も防ぐワクチンは最大の成果のひとつです。モーエン氏らは、「いかなる医療介入にもある程度のリスクは伴いますが、ワクチンに伴うリスクは小さく、人間の健康に対するその大きな利点は他に類を見ません」「ワクチンやエビデンスに基づく医療を放棄しても、私たちはより自由にも健康にもなりません。むしろ、より病状が悪化するだけです」と述べ、ワクチン接種の重要性を訴えました。