アニメ映画「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」石井克人インタビュー、「『REDLINE』チームで『ルパン』を作れば面白い」が実現


取材


アニメ『ルパン三世』シリーズの中でも、特に初期のルパンの雰囲気をまとったシリーズとして展開されているのが小池健監督による『LUPIN THE IIIRD』シリーズ。2014年に劇場上映された『次元大介の墓標』からスタートして、いよいよ本作『不死身の血族』でシリーズ完結となります。いったいこのシリーズはどう作られたのか、そしてこのテイストはどのように決まったものなのか、シリーズでクリエイティブ・アドバイザーを担当している石井克人さんにお話をうかがいました。

映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』公式サイト
https://lupinthe3rd.com/

作品のポスタービジュアルはこんな感じ。


GIGAZINE(以下、G):
石井さんは企画段階から作品に携わっておられますが、実際に、映像を見たときの感覚はどういったものでしたか?

クリエイティブ・アドバイザー 石井克人さん(以下、石井):
これはすさまじい作品だなと思いました。本作は基本的には僕が提案したスタッフ構成で作らせていただくことになりました。このメンバーはほぼ『REDLINE』と同じで、通るかどうかはわからなかったんですけれど、浄園プロデューサーがメンバーを集めてくれました。その『REDLINE』が僕はトラウマになっていて……。

G:
えっ!?

石井:
『REDLINE』は7年かけて制作したのですが、あのミックス体験がトラウマで、「もう今後は仕上げにはタッチしない」と決めたぐらいなんです(笑)

G:
それほどまでにすさまじいもの作りだったんですね(笑)

石井:
本作はシリーズの完結作ということで、これまでの振り返りとして紹介シーンが入っていますが、そのトーンが本当に素晴らしいと思いました。小池さんのこだわりというのでしょうか。ちょっとした色味やトーンなのですが、『REDLINE』の時にも「えっ、そこが悩みどころなんだ。自分なら全部OKにしちゃうな……」というところにこだわっておられて、本作でも、小池監督の目指したところにまとまっているのが素晴らしいです。

G:
石井さんが過去のインタビューで小池監督に言及している内容で、メインのキャラだけでなくサブキャラもみんな生き生きしていて、リアルな芝居もついていて演出が細かくてうまいという話がありました。本作でも、小池監督が細かくやっているなと感じた部分はありますか?


石井:
本当に細かいところまで手を入れているなという部分が多々ありました。僕は最初の打ち合わせのとき、原案と敵キャラクターのデザインを出して「このキャラはだいたいこういう顔つきです」と説明するんですが、どう動くかというのは監督におまかせしているんです。動き方とか、女性の描き方とかですね。小池監督は以前、『アフロサムライ』のPVを作られましたけれど、あの女性の色気というのは小池さんにしか描けないよな、大人の女を描けるのは小池さんしかいないんじゃないだろうかと感じたことがあります。一方で、男の色気についても「こうするとかっこよく見える」という切り取り方というのが、本当にすごいんです。

G:
ちなみに、石井さんと『ルパン三世』の出会いは、どういう形だったのでしょうか?モンキー・パンチさんのマンガなのか、あるいはいずれかのアニメなのか。

石井:
僕は、おおすみ正秋さんが監督していた、最初のアニメ版のルパンです。子どものころ、最初の5話ぐらいまでを見てすごくグッと来たといいますか。第1話のF1レースのシーンもそうだし、女スパイを捕らえてコチョコチョしてみたりとか(笑)

G:
(笑)

石井:
女性の取り合いもするんですけれど、それが子ども心に、はっきりと何とはわからないけれど、すごいなと感じたんです。その後、路線変更があったわけですが、そうなってからは僕はあまり記憶になくて……。初期のルパンの印象が強すぎて、「あれが見たい」と浄園さんに話をしていたら「あの感じでやる?」となったわけです。

G:
それで、この『LUPIN THE IIIRD』のシリーズはごくごく初期のルパンの雰囲気があるんですね。

石井:
それはもう、僕に頼んだらこういうルパンになりますよ、と(笑)


G:
最初のイメージを膨らませて展開していくならこうなるというわけなんですね。

石井:
だから、五ェ門もルパン一味加入直後なので「石川って呼ぼうよ」という話になるんです。そんなに深い仲ではないので「五ェ門」と名前で呼ぶのは変なんじゃないかなと。

G:
一理ありますね(笑) この『LUPIN THE IIIRD』シリーズをやることになった経緯というのは、どういう形だったのでしょうか。

石井:
小池監督がやる前に、山本沙代監督が手がけたシリーズがあって。

G:
テレビ放送された『LUPIN the Third~峰不二子という女~』ですね。

Amazon.co.jp: LUPIN the Third 峰不二子という女 BD-BOX [Blu-ray] : 栗田貫一, 小林清志, 浪川大輔, 沢城みゆき, 山寺宏一, 小池健, 山本沙代, モンキー・パンチ, 岡田磨里, 菊地成孔: DVD


石井:
そのキャラクターデザインがよかったということで、担当していた小池さんが次の作品を手がけることになったんです。そこで浄園さんに呼ばれて「次は小池さんでやりたいんだけれど、どういう感じにしたらいいでしょう?」と相談を受けたので、「もしスタッフを選ばせてもらえるのなら……」と名前を挙げていきました。タイトルデザインの関口修男は、高校の時からの友達で『REDLINE』など僕の映画は全部やってもらっています。ミックスはもちろん丸井庸男さん、音楽はジェイムス下地さん、声は清水洋史さんに録って欲しい……と。そうしたら、「小池さんもその方がやりやすいでしょう」と、すべて通りまして。いわば、「『REDLINE』のチームで『ルパン』をつくったら、めちゃくちゃ面白くなりますよ」ということだったんです。

G:
いやー、それは間違いなくめちゃくちゃ面白いです。

石井:
そして内容は初期ルパンで、と。そこへ、「小池さんは絶対にこういうのが好きだろう」という原案を考えまして。

G:
なるほど、「小池監督はこういうルパンがやりたいだろう」と。その時、小池監督が気に入るだろうというフックになるものはなにかあったのでしょうか?

石井:
まずは敵キャラです。最初のルパンには、『魔術師と呼ばれた男』のパイカルをはじめとしたキャラクターがいたので、「敵キャラが面白ければいいんじゃないだろうか」と。それで、殺し屋を提案しました。(実際に石井さんが描いたスケッチを見せてもらいつつ)あと、「不二子がいじめられるときはこういう感じがいいんじゃないか」とか「こういう顔つきの人たちがいっぱい出てきたらいいんじゃないか」とか案を出して、盛り上げていった感じです。

G:
ビジュアルイメージがばちっとハマってわかりやすいですね。こういったイラストは、ばばっと勢いで描くのですか?それともじっくり考えて描くのですか?


石井:
うーん、勢いですね。思いついたらとりあえずバーッて描いて、「こういうやつがいたらいいんじゃないか」って。

G:
いま見せていただいているイラストは手帳のようなノートに描かれていますが、いつもこういう手帳を持ち歩いていて描くのですか?それとも、机に向かって「今から描くぞ」と勢いを付けてやるタイプですか?

石井:
だいたいは思いついたらその場でやっちゃいますね。仕事中だったらいったんメモしておいて、それをコピー用紙に写して。分からないところは文芸の鈴木くんと企画の高木さんに全部ぶん投げるというやり方です(笑)

G:
こうしてお話をうかがっていると、石井さんが「クリエイティブ・アドバイザー」という役職になっているのが納得です。なるほど、まさに作品のクリエイティブのアドバイザーですね。

石井:
とにかく「こんなのはどうでしょう」と見せて、小池監督が食いついてくれればよしです。本作の場合、ムオムという敵キャラクターがちょっと変わったキャラクターなので、いろいろ描いたほうが「そういう人なんだ」と伝わるだろうと思って、いっぱい描きました。心配がなければそんなに描かないんですけれど。たとえば「アクションシーンの面白いところは、こういうようになるんじゃないか」とかですね。

本作の敵・ムオム


G:
もう、そのままマンガとして世に出そうなスケッチですね。

石井:
「五ェ門との戦いではこういうのがいいんじゃないですか」とか。あまりにもムオムが変態っぽいもので、納得してもらうためですね。「これが最後の敵でいいのか」と(笑)

ルパン一味の前に立ちはだかる敵・フウア


同じく敵のルウオ


G:
そんな(笑)

石井:
僕はちょっと心配だったんですが、小池監督が「いいんじゃないですか」と気に入ってくれて。ただ、「カーアクションが入っていないけれど、カーアクションはやりたいです」と(笑)。小池監督ってすごいんですよ。以前、僕は『キル・ビル』のアニメーションパートのキャラクターデザインをやったことがあるんですけれど、いざ絵になると、どうしてもちょっと省略されてしまうんです。普通、描きやすいようにするからそういうものなんですけど、小池さんの場合、ちょっと足してくれるんです。

G:
足す!?

石井:
本当は省略したいところで、プロデューサーなんかはその方向は嫌がるものなんですけれど、小池さんは足すんです。

G:
ええー、足す方向で描く人がいるなんて……。しかし、こうして多くのスケッチが並んでいるのを見せてもらうと、これぞコンセプトデザインという感じですね。

石井:
ここから小池さんに描きたいものをチョイスしてもらいます。でもそこをつなげていくのも、時には無理なことがあるみたいで、アイデアだけはいっぱいあるけれど部分的な絵コンテしかないというときに、内容を説明しなければいけないこともあるんです。その点で、サリファみたいなキャラクターは小池さんや脚本の高橋さんから出てくるんです。冷静に説明してくれる人というか、その状況ですね。僕だけに任せていたら、本当に男性キャラクターしか出てきませんからね………。

G:
(笑)

石井:
完全に旧ルパンになってしまって男性キャラクターばっかりで、あとは不二子のエロしかない(笑)。だから、高橋さんが見事にバランスをとってくれています。

G:
たくさんのスケッチがありましたが、石井さんが描いた中からボツになるものも出てくるんですか?採用率というのはどれぐらいなのでしょうか。

石井:
ボツになるものはもちろんありますが、僕から「これがいいんじゃないか」と提案したものはほとんど通っています。でも、第2案を出すと「やっぱり最初の方が良かったね」となることもあります。

G:
デザインなどを実際に決めていくのには、どれぐらいの時間をかけているのですか?

石井:
1回目に集まった時は「こういう順番で、こうやっていこう」と話をして、半日から丸1日はかけています。そこで小池さんから「カーアクションをやりたい」や「飛行機のシーンが欲しい」という要望が出てきて、脚本の高橋さんや文芸の鈴木くんがまとめていきます。浄園プロデューサーはその話を聞いているという感じで、みんなが喋り通して、最後は「もう勘弁してください」みたいな感じまでやります。


G:
打ち合わせの時点でめちゃくちゃ盛り上がりそうですね。石井さんは小池監督とは長い付き合いがあると思いますが、本作に至るまでで小池監督に感じた変化というのはありますか?それとも、あまり変わらない方ですか?

石井:
昔からあまり変わらないといえば変わらなくて、「吸収がすごくうまい」という印象です。

G:
「吸収」ですか。

石井:
「吸収して、さらに足す」みたいな感じでしょうか。以前はもっとバリバリに「アニメーション」していてキレキレという感じがありましたが、たとえば『峰不二子の嘘』をやったとき「もっと『グロリア』みたいな感じがいいんだけれど」という話をしたら、まさに『グロリア』のような実写ベースにちょっと合わせてくれました。『血煙の石川五ェ門』だと舞台が伊豆半島なので「下田でやりたい」と言っていたんですが、いかにも下田の雰囲気に合うような描写をちゃんと入れてくれました。すごく大人っぽい、実写風の雰囲気の描写もできるし、かつてのキレキレも生きているし、すごく武器が増えていると思います。

G:
改めてすごい方なんですね……。ちょっとここで話が『ルパン』から離れて、石井さん自身のことを伺いたいと思います。石井さんは過去に多数のインタビューを受けておられて、その中の「NEW PEOPLE Travel」のインタビューで語られていた、子どものころ電車の中でマンガを読んでいる人を見かけて、当時、家ではマンガを禁止されていたから自分でスケッチブックに描いてみたというエピソードがすごいなと感じました。

石井:
(笑)

G:
その後、マンガが解禁されていろいろ模写しているうちに鉛筆で描くのに飽きて、『宇宙戦艦ヤマト』のポスターを参考にしつつ、絵の具やエアブラシで本格的な絵を描くようになったというのは、もう、達人のエピソードだなと……。いったい、なにがどうなって、ここまでいったんですか?

石井:
なんでしょうね(笑)。最初は小学校3年生から4年生ぐらいのタイミングで『アストロ球団』を読んでいる人に出会って、ユニフォームのしわがすごく気になったんです。「これ、なんかすごいぞ」と。それで、どの巻だったか、1冊だけ買ってもらって、宇野球一を描いたんです。そうこうしているうちに『宇宙戦艦ヤマト』のブームが来たんですが、ポスターがアニメ作品なのになんだか妙に実写っぽくて、「これを描けたら結構すごいぞ」と思い、「とりあえず色付けも練習してみるか」ということで、毎日毎日描いていました。凝り性なところもあるので、宇野球一を描いていた時、スケッチブック全部に描いていたらだんだんうまくなっていったので、「この調子なら、色もつけられるんじゃないか」と思っていたんです。ヤマトも、最初は描けないけれど、だんだんと描けるようになっていくんです。それで、中学生ぐらいになったらエアブラシを使えるようになって。

G:
おお……すごい……。

石井:
そうなるとセル画にも興味が出てきて。当時、アニメスタジオの売店ではセル画が売られていたので、それに合わせた背景を描いてみたり。

G:
背景を?

石井:
背景はまた別の会社が描いているので、販売されていたセル画はキャラクターだけだったんです。背景のセル画を見てみたら「これなら、自分でも描けるのでは?」と思ったので、キャラクターに合わせた背景を自分で描いていたという感じです。当時、金田伊功さんのマネをして描いたりもしていました。販売されているセル画の中には金田さんのものもあったのですが、高くて買えなかったので、「僕も持ってますよ」みたいな感じで(笑)

G:
自分で描いたものを(笑)。中学生のころには同人誌も作っておられたと。

石井:
まだ大友克洋さんが『AKIRA』を描く前で、『童夢』がすごく好きだったんです。それで同人誌を、かなり力を入れて作りましたね。友人と回し読みするだけなんですけれど。

G:
大友さんの絵柄はマンガ調よりもリアル寄りなものですが、大友作品に出会った時の印象というのはどうでしたか?

石井:
これはすごい、この人はすごいと思いました。女性はあまりかわいくないなと思いつつも、男性はいい感じで描けているなと(笑)。だからその後、『SHORT PEACE』を作る時に参加させてもらったのは本当にうれしかったです。2人で飲みに行ったりもして、夢が叶いました。

G:
最後に改めて本作、『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』について、石井さんの考える見どころなどを教えていただければと思います。

石井:
見どころというと……見どころだらけだと思います(笑)

G:
だらけ(笑)

石井:
だって、IIIRDシリーズ完結まで11年かかっているんですよ。そんな作品、普通はないです。それを見られるなんて、『トムス、結構リスクを取って作っているな』と、社会的な意味も考えながら見てほしいです。

G:
確かに、その観点でも、作品が形になり劇場にかかるのはすごいですね。

石井:
それに、小池監督のこだわりが全部詰まっています。3Dで動いているというわけではなく、フィックスでカット割りしているのですが、ちゃんと「今の映画」になっています。こういうところはぜひ見ていただきたいです。表現やカメラワークに逃げることなく、ちゃんと細かい描写を重ねて物語を進めているし、高橋さんの書いたセリフもすごくいいです。『LUPIN THE IIIRD』シリーズのラストとして、島で巻き起こるアドベンチャーものなのですが、これ、本作でシリーズに初めて触れるという人は絶対にシリーズを冒頭から見直したくなりますよ。そして、見終わったあとに『ルパン三世 ルパンVS複製人間』を「ルパン音頭」まで見てもらえたら、本当にうれしいです。

G:
ありがとうございます!

映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』は絶賛公開中です。

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