マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの研究員であるマギー・コブレンツ氏と、デンマーク工科大学(DTU)ノボノルディスク財団バイオサステイナビリティセンターの上級研究員であるジョシュア・エヴァンス氏らの研究チームが「宇宙環境における食品発酵の可能性を探るための共同研究」についてまとめた報告が、学術誌のiScienceに掲載されました。この実験では、発酵食品の代表として日本の味噌(みそ)が採用され、研究チームは実際にISSで味噌を発酵させることに初めて成功しています。
長期の宇宙滞在では、限られた物資の中で安定的に食料を確保する技術が求められており、その一つとして「発酵を用いた食品加工」が注目されています。発酵は微生物の働きにより原材料を変化させる手法で、保存性の向上や風味の形成が可能です。また、加熱などの調理工程が不要であることから、資源の制約が大きい宇宙空間に適した技術のひとつとされています。
コブレンツ氏とエヴァンス氏らの研究グループは、「宇宙空間で発酵が正常に進行するかどうかを検証し、地上環境との違いを明らかにする」ために、国際宇宙ステーションで発酵による食品加工を実践する研究プロジェクトを2019年頃にスタートさせました。
この研究では、発酵食品のサンプルとして日本の味噌が選ばれました。研究チームによれば、宇宙空間では微小重力の影響により体内の体液分布が変化するため、宇宙飛行士からは「味覚が鈍くなってにおいを感じなくなった」という報告が相次いでいるとのこと。そこで、人間にとって感じやすい味覚である「うま味」を重視し、宇宙での食事への満足感を増幅させるという目的で、うま味成分をたっぷり含んで栄養価も高い味噌が選ばれたというわけです。
2020年3月7日、味噌の材料を密封した容器が、SpaceXの補給船・CRS-20によってISSへ送られました。味噌はISS内では30日間発酵させたのち、同年4月上旬に地球へ戻されました。同時に、地上では同じ材料を使って、アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジとデンマーク・コペンハーゲンの2カ所で同様の発酵を実施し、比較対象としました。

なお、ISSの味噌には「Space Miso」という名前が付けられています。
ISS内の発酵容器にはセンサーが設置されており、温度、湿度、気圧、放射線量などの環境データが記録されました。ISSでの平均温度は36.3℃と、地上よりも高めだったとのこと。この温度は発酵速度や生成される化合物に影響を与えた可能性があります。

発酵後の味噌について、微生物の種類や遺伝子変異、揮発性香気成分、アミノ酸組成などを分析したところ、宇宙で発酵した味噌は、見た目やにおい、味において味噌と認識できる状態であり、発酵が成立していたことが確認されました。また、宇宙で発酵させた味噌は、ピラジンなどの香ばしい香り成分が多く検出され、発酵の進行度が高かったそうです。さらに、麹(こうじ)菌の遺伝子配列には地上のものより多くの変異が見られたそうで、研究チームは宇宙の放射線環境の影響である可能性を指摘しました。
研究チームはこの実験で、発酵技術が宇宙空間においても応用可能であることを示したと強調しています。今後は限られた環境下でも安定した食品発酵が行えるよう、ISSの発酵専用実験室の開発が進められているとのこと。また、本研究は宇宙における微生物の挙動や生態系変化を理解する一助ともなると研究チームは論じました。
なお、宇宙から持ち帰られたSpace Misoは、DTUの研究員の一人で20年以上シェフとして働いていた経験も持つキム・ウェジェンドルプ氏によってディナーコースの材料として用いられ、エヴァンス氏やコブレンツ氏ら研究チームが焼き味噌にするなどして食べたそうです。
A Space Miso Dinner — MIT Media Lab
https://www.media.mit.edu/posts/space-miso-dinner/

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