2026年5月8日(金)から絶賛劇場公開中の劇場版『魔法科高校の劣等生 四葉継承編』は、原作小説第16巻をベースにしています。2014年からテレビアニメが合計3作品放送さている人気シリーズの最新作はどのようにして制作されたのか、そして2017年公開の劇場版1作目とは違ってオリジナルエピソードではない劇場版にどのように挑んだのか、監督のジミー ストーンさん、アニメーションプロデューサーの小菅秀徳さん、プロデューサーの黒井瞳さんのお三方に集まってもらって、詳しく話を聞きました。
劇場版「魔法科高校の劣等生 四葉継承編」公式サイト
https://mahouka.jp/yotsuba/
GIGAZINE(以下、G):
はじめに、今回お話をうかがうお三方が本作の制作にあたって、どういう役割を担っているか教えてください。
ジミー ストーン監督(以下、ジミー):
自分は原作小説の「挿絵」の段階から立ち会わせていただいています。最初はメカデザインから始まって、アニメ第1シーズンのころはアニメ用のメカデザインも多少やりつつ、本編ではアクションシーンや魔法を使うシーン、魔法に関係するエフェクト周りの監修をやらせていただいていました。途中から、演出やコンテもさせていただくようになり、こうしてありがたくも監督をやらせてもらっているという状態になっております。
小菅秀徳プロデューサー(以下、小菅):
アニメーションプロデューサーの小菅です。「制作現場のプロデューサー」として、全体を統括する役割をやらせていただいています。作品制作の経緯について補足させていただくと、TVアニメの第1シーズンはマッドハウスさんが制作されて、その後、エイトビットに劇場版1作目のお話をいただき、そこから自分が担当させていただいています。全体のバランスをとりながら、原作者側の皆様、発注メーカーの皆様のオーダーと、監督がやりたいところを折衷しながら映像に落とし込んでいくあたりがメインの仕事となっています。また、劇場版1作目は監督を吉田りさこさんにやっていただいて、ジミーさんはTVアニメ第1シーズンのころから、石田可奈さんとともに「原作小説の挿絵とTVアニメのキャラクターデザイン」の両方をやっておられて。
ジミー:
はい、「原作組」というか(笑)
小菅:
『魔法科』は特殊なんですよね。石田さんであれば、原作小説の挿絵とアニメ本体のキャラデザや総作監、ジミーさんだとプロップと呼ばれている小物やメカ周りの一部も一緒にやられていて。そのままお二人に来ていただいて一緒にやり初めて、劇場版とTVアニメ第2シーズンの来訪者編・追憶編と吉田監督とやらせていただきました。第3シーズンをやるにあたっては、吉田監督が他のお仕事の都合もあって続投が難しかったので、ずっと一緒にやってきていて、演出もやられていたジミーさんに相談して依頼しました。それで第3シーズンから、今回の劇場版へと至るという形です。
黒井瞳プロデューサー(以下、黒井):
アニプレックス・黒井の仕事はというと、ざっくり言うと「企画を立てて、アニメを作るためのお金を集めてくる」という、そんな仕事でございます。こんな説明で大丈夫なのかな?(笑) 今回で言うと、第3シーズンはTVシリーズ、四葉継承編は劇場版でやりませんかというお誘いをエイトビットさんに投げて、快諾していただき、「本編を作るためのお金を集めてきますね~」と。そこからはエイトビットさんに本編を作っていただくあいだにTVの放送枠の調整や、宣伝のスケジュールを宣伝部と相談しながら組んだり、製作委員会のみなさんに色んな協力を仰いだり……、色々なことをしています。
G:
なるほど。本作、原作小説を読んでから四葉継承編は劇場版になるということを聞き、「やっぱり映画になるんだ」と納得した部分はあったのですが、もう黒井さんからエイトビットさんに話があった時点で、四葉継承編は劇場版でやることになっていたんですね。
黒井:
原作サイドも含めたプロデューサー陣で話をした時に、「四葉継承編まではなんとかアニメで走り切りたい」という共通の意志がありました。それはやっぱり、達也と深雪の物語として1つの区切りだと思いますし、「やるんだったら、そこまではやろうよ」と。ただ、TVアニメとしては尺が足りないかもしれないという懸念があって、それと同時に「深雪の晴れ舞台を劇場の大画面で見られたらうれしいよね」という気持ちもあって、「劇場版でどうでしょうか?」という提案をしたところ、各所のみなさんから「いいんじゃないでしょうか」と背中を押していただいた、という流れでした。
G:
そうだったんですね。この『魔法科高校の劣等生』シリーズはアニメをずっと見てきましたが、劇場版の1作目も戦闘シーンがめちゃくちゃ派手で印象的でした。今回の劇場版にあたって「原作のこのあたり、戦闘はそこまで派手な描写だっただろうか、どうなるんだろう」と思っていたら、さらにド派手で驚きました。このアクションシーンの具合というのは、どのように判断していったものなのでしょうか。
小菅:
「四葉継承編」の制作にあたり、後半過去の話を扱う性質上、どうしても会話劇が多めのプロットとなっており、アニメーションとして動きが出しにくいのシーンが長尺で続くことへの懸念については、監督とも共有しておりました。視聴者の方に飽きさせない見せ方を工夫すると同時に、画面に変化をつけるため、少ないアクションシーンにはしっかりとリソースを割き、クオリティを高めていく方針で監督と調整していきました。
G:
なるほど。実際に制作に携わった監督からすると、特に大変だった部分はどういった点でしょうか?
ジミー:
それはもう、描いてくださる原画の方が大変だったと思います(笑) 小菅さんもおっしゃったように、どうしても映画の中でずっと喋っているようなシーンが出てきてしまうのと、本作は深雪が主人公みたいな形になりますが、『魔法科』シリーズとしては達也が主人公なので、映画の中でも達也がちゃんと活躍しなくちゃというのがありました。「戦闘シーンはちゃんとやりましょう、特に、達也が戦うなら派手に!」と。
ジミー:
劇場版ですし、やっぱり盛り上がるところは盛り上げなければいけませんから、そういう計算をしていくと、映画前半にある戦闘シーンで達也の部分がどんどんと盛り上がって派手になります。そのために、シーンごとに雰囲気を変えるというのが、自分としては大変だったというか、考えた部分でした。でも、映画の最初にある戦闘シーンは回想だし、達也ではない戦いなので、また本編とは雰囲気が違って、ちょっと任侠映画みたいな印象もあって(笑)
G:
確かに(笑)
ジミー:
そういうのもありつつ、達也がメインの戦闘シーンは、やっぱり作画で頑張ろうというのはありますけれど、間にある別の戦闘シーンでどう違いを出せるかというときに、エイトビットさんや小菅さんとも話をして、短い1つのシークエンスなら背景ごと含めてすべて3DCGでもできるんじゃないかというアイデアも出てきて、結局、それが実現していて、できあがったものはすごくかっこいい画面になっていると思います。なので、映画全体として観客の方々が常に楽しめるようにシーンごとにちゃんと違いを出そうというのは、意識して頑張った点です。
【本編映像特別公開】劇場版「魔法科高校の劣等生 四葉継承編」絶賛上映中! – YouTube

G:
なるほど。今回、資料として絵コンテも拝見しました。絵コンテの時点で「これはすごい」と感じるものでしたが、特に、光の当たり加減をはじめとした細かい指示があちこちに書かれているのは、言われてみれば映像の仕上がりのためにそういった点も必要なのだと納得でした。こういった、できあがった作品を見た時にはぱっと気付かないかもしれないけれど、作劇や演出のためにこだわられている部分というのはありますか?
ジミー:
キャラクターデザインと総作監をやっている石田可奈さんはイラストレーターでもあり、原作小説の挿絵も描いているし色の塗りもやっているので、色も使った絵的な表現の流行り廃りにすごく敏感で、「こういう処理をするときれい」とか「こういう感じが今風」というのを取り入れてらっしゃるんです。原作イラストで表現されている、そういう部分をアニメの方にも「逆輸入」できないだろうかと。アニメのビジュアルの長でもある石田さんから「なるべくシーンごとに違う色合いにしたい、違う美しさやシーンに合った雰囲気にしたい」という意見があり、自分も完全に同意する部分だったので、映画の中では、全部のシーンで同じキャラクターでも色を変えたり、影付けの仕方を変えたりして、それぞれ違う雰囲気で、それぞれの美しさがあるという表現を試みています。最終的にできあがってみて、かなり上手くいってるんじゃないかと思っているのですが、それは今回の劇場版で頑張った部分の1つです。
G:
なるほど。監督として、ありとあらゆる部分の統括を行っておられるんですね。
ジミー:
いろいろな方々のアイデアを取り入れて作っているので「全部自分の手柄」みたいなことは言えないんですけれど(笑)、最初の段階から「劇場版は大変だぞ」という気持ちでいました。本当に、「全部のシーンをどういう風にやっていったら成功するだろうか、うまくいくだろうか」というのを、石田さんとともにアイデアを出しつつ頑張りました。でも、それぞれのパートを担当したコンテや演出の方々もみなさんすばらしい方々で「全部自分の手柄」とかではないです(笑)
小菅:
監督として全体をまとめる役割を果たした、と(笑)
G:
なるほど。小菅プロデューサーは劇場版1作目以来、ほぼ10年にわたって『魔法科』シリーズを手がけていますが、これだけ長く続けると、現場の環境にも変化はあるものでしょうか。
小菅:
難しい質問ですね……。世の中が大きく動いていて、それに伴って技術論とかいろんなことが入ってくるので、そういう意味での移り変わりというのはすごくあったと思います。『魔法科』の場合、すごくスタッフの方にも愛されていて「『魔法科』をやりたいです」と言ってくださるスタッフの方もいらっしゃって、長く継続的にやっていただけたのはすごく助かったと感じます。
G:
劇場版1作目はオリジナルストーリーだったのに対し、本作は原作小説がある部分という違いがありますが、劇場版を作るにあたってその点の違いは出てくるものでしょうか。
小菅:
劇場版第1作目についても、原作の佐島勤先生に監修いただいております。先生のアイデアに基づきつつ、エピソードとしてオリジナリティを加えている形ですので、先生の影響力が随所に反映された「味付け」の違いとして仕上がっているかと思います。またアプローチに違いはあっても、本質的な部分は「魔法科」シリーズとして一貫しており、その点での苦労はありませんでした。ただ、それぞれ監督が異なるため、視点や考え方の違い、まさしく「味付け」が違うとして受け取られる部分はあるかもしれないですね。
G:
本作は原作に基づいた劇場版となっていますが、原作者の佐島さんはどういった監修を行われたのでしょうか。
黒井:
シナリオ制作のところからずっと入ってくださっています。今回、四葉継承編は原作1冊分を劇場版アニメ100分に落とし込むという現場目標があったので「原作ではこう書いてあるけれど、劇場版にするならこういう方法で圧縮するのはどう?」など、先に構成アイデアを出していただきました。逆にこちらから要望を出した分についても「こういったアイデアはどうでしょう」と戻していただいたりしています。ちなみに、もともと『魔法科』は、これまでのシリーズもシナリオ以降については「自由にやっちゃってください」と言っていただいていて(笑)
G:
(笑)
小菅:
『魔法科』が成功している理由の1つとして、佐島先生やストレートエッジさんにシナリオ段階からしっかり入って見ていただいているという部分と、シナリオができた後の映像化の段階ですごくアニメーションの都合を理解して頂けるという点があると思います。やっぱり、「原作小説としてはこうだけれど、アニメだとこうなるよね」という部分はどうしてもありますし、アニメーションの都合でどうしても変えなければいけない部分が監督・演出のサイドから出るのですが、そういう表現の幅を柔軟に認めていただいているのはすごく助かっている部分であり、感謝している部分でもあります。
G:
今回の劇場版でいえば、100分という尺に収めるためにいろいろ苦労があったと思います。
ジミー:
「可能な限り原作小説通りにやりたい」というのは当然あるのですが、どうしてもアニメーションという尺がある媒体だとシナリオ上入りきらない部分はあって、泣く泣く変更したり、圧縮をかけたりすることになります。小菅さんがおっしゃったように、佐島先生が柔軟に対応してくださるので、こちらとしては本当に助かっています。あとはもう濃縮したエキスのように、原作小説のエッセンスをなるべく漏らさず凝縮した作品にするという思いで作り上げました。
小菅:
そういう意味では、佐島先生や原作サイドが「出し切っちゃうとな……」というものをちょっと切らせていただいている部分は絶対あると思います。
G:
本作はシリーズ中でもかなり人気のある部分であり制作はプレッシャーもあったかと思うのですが、それゆえの難しさみたいなものはありましたか?
ジミー:
それはもう……アニメ第3シーズンのあとは劇場版へつながりますという話ですから、「四葉継承編は劇場版で」というのはもう、自分にはすごいプレッシャーでした。自分も原作小説の時から好きなエピソードだったので思い入れはすごい強いんですけど、後半、特に四葉家に着いてからは大事な内容の会話シーンになるので「この構成、アニメではなかなか難しいんじゃないか……」とずっと思っていました。「もうちょっと変えた方がいいかも?」といろいろなアイデアを出したものの、何度も読み返して「やっぱり四葉継承編はこうじゃなきゃいけないな、この形が正解なんだ」と思うようになり、「じゃあ、会話劇をどう演出できるだろうか」という考えにシフトして。
G:
すごい……。
ジミー:
キャラクターデザインの石田可奈さんも含めていろんな方々と相談して、舞台演出として背景などにもこだわって面白いものにしよう、そこも主役なんだと考えを改めて「演出を頑張ろう」という風になってからは、どんどんアイデアを出せました。貢とずっと話をしている「貢の応接室」という、ちょっと特殊な作りの部屋とかもあるんですけれど、先ほど話にあったように原作サイドがOKを出してくれて。四葉家本家はからくり屋敷みたいな感じでいろんなデザインができるんだとなれば、今度はどんどんアイデアを出して「この部屋はどうしようか、こっちは全然違う空間にしよう」と、空間そのものを使って、それがもう1つの主役だと演出すれば後半も乗り切れるのではないかと。大変でしたけれど、アイデアを出して実現していく部分に関してはすごく楽しかったです。
黒井:
めちゃめちゃ乗り切れてますよ!
(一同笑)
黒井:
そこはちょっと心配はしていたんです。後半、ずっとお話が続いてしまうというところは。
G:
確かに。
小菅:
今回の劇場版、プロデューサー的な観点なんですけれど、戦闘自体は100分のうち、だいたい60分のところで終わっちゃうんですよね。その後また会話が続くわけですが、戦闘シーンのあとに来る貢と達也の会話は肝になっていまして、ここは『魔法科』シリーズに長く参加していただいている高岡さんというスペシャルなアニメーターさんに、コンテ、演出から作画まで全部やっていただいているというスペシャルなパッケージングなんです。あのシーンはおよそ20分とすごく長くて、乗り切ると今後の展開としての話がどんどん面白くなっていくところなので、あの会話シーンをどうシリアスにするか、お客さんを巻き込みながらどうドラマティックにするかを監督とも相談して、難しいところだと思っていたんです。あのシーンは達也の歴史、達也がどうして魔法科でこういう立ち位置になったのかが説明されるわけですが、高岡さんはすごくシーンに対する理解度が高くて、いろいろなアイデアを盛り込んでくださって、絵も含めたパワーで引っ張ってくれてすごくいいシーンにできたと思うので、すごく助かりました。
G:
『魔法科』シリーズはTVアニメ第1シーズンが2014年春スタートと長く続く作品になっていて、今回、改めて興味を持ったけれど全部は見ていないという人もいると思います。そういった人も含めて、本作のアピールポイントをいただければと思います。
ジミー:
原作小説ファンの方々が満足できるものを作ろうというのがはじめにあり、ちょっとサプライズ的な部分とかも含めて、原作小説ファンの皆さま、そしてアニメファンの皆さまに楽しんでもらえるものが作れたんじゃないかなという気持ちです。もちろんプラスアルファ、ここから『魔法科』に入るという新規のファンの方々にも、ぜひ見て楽しんでいただきたいです。劇場版ということで派手な戦闘シーンや映像処理を含めて美しいものに仕上がっていると思います。そういった部分、推し推しで見ていただけたらと思います。
小菅:
お話の内容が内容だけにどうしても「あの部分だけつまんじゃうと……」というのが難しい作品ではあるんですが、とはいえ、やっぱりエンターテインメントとして楽しめるようにいろいろ仕込んでいるので、ぜひ、これをきっかけに『魔法科』シリーズを好きになっていただける入口になればすごくありがたいなと思います。
黒井:
四葉継承編は、黒髪ロング描写の「至高」編です。たぶん、黒髪描写が世界一上手いアニメなんじゃないかと思ってます。つやつやしてます。黒髪ロングが好きな方は是非……、というアピールポイントはありつつ、「達也と深雪という最強の兄妹アニメがある」という設定さえ知っておけば、四葉継承編単体でも楽しめると思いますので、まずは四葉継承編を見てから一気に過去シリーズに戻っていくような楽しみ方もしていただけたらありがたいです。
G:
本日はありがとうございました。
劇場版『魔法科高校の劣等生 四葉継承編』は大ヒット上映中。5月29日(金)からは4週目来場者特典として書き下ろし小説4巻「魔法科高校の劣等生 虚空ダイバー」が数量限定で配布されます。
また、6月8日(月)にはこの鼎談で語ってくれたジミー ストーン監督、小菅プロデューサー、黒井プロデューサーの3人が登壇する舞台挨拶の実施が決定しています。
スタッフ舞台挨拶開催決定! – NEWS | 劇場版 魔法科高校の劣等生 四葉継承編
https://mahouka.jp/yotsuba/news/?id=70468
©2024 佐島 勤/KADOKAWA/魔法科高校四葉継承編製作委員会
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