宇宙飛行士はどうやってトイレに行くのか?NASAが半世紀かけて挑んだ「宇宙トイレ」の壮絶な歴史 – GIGAZINE


メモ


宇宙空間で使用できるトイレの仕組みがどのように進化してきたのかについて、起業家・投資家のマチェイ・ツェグウォフスキ氏が解説しています。

Let’s talk space toilets! – by Maciej Cegłowski
https://mceglowski.substack.com/p/lets-talk-space-toilets


Space toilet – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Space_toilet

宇宙でのトイレは全く快適とはほど遠いもので、宇宙飛行士たちは「できる限り宇宙でトイレに行かずにすむ」方法を考えていたとのこと。例えば、宇宙に飛び立つ前の食事としてステーキや卵など消化吸収の良い「低残渣食」を食べることで、少なくとも狭い宇宙船ではなく比較的マシな宇宙ステーションまでトイレに行かずにすむようにしていました。

宇宙で最も長くトイレを我慢しようとした人物として知られているのが、ジェミニ7号に搭乗したフランク・ボーマンです。ジェミニ7号は電話ボックスほどの大きさしかない2人乗り宇宙船で、ボーマンは2週間のミッションをトイレなしで乗り切ろうとしていました。さすがに9日目になると、ボーマンは同乗していたジム・ラヴェルに「ジム、もう限界だ」と我慢の限界を告げましたが、ラヴェルは「フランク、残りあと5日だ」と返したそうです。

ボーマンは後にアポロ8号でひどい宇宙酔いに苦しみました。アポロ宇宙船の排泄(はいせつ)物処理システムは処理能力が十分ではなく、小さなカプセルの中で月へ向かう体験は3人用の仮設トイレの中で生活するようなものだったとのこと。排便には1時間近くかかり、回収袋の中身に抗菌粉末をもみ込む必要もありました。

地球上では、重力が体を便座に押し付けて姿勢を安定させるとともに排泄物を体から引き離してくれるので、水などを用いて排泄物を隔離することができます。しかし無重力の宇宙では、重力が担っている作業をすべて別の方法で実現しなくてはいけません。


まず問題になるのが姿勢の固定です。NASAは太ももを固定するベルトや吸盤付きの靴などを試しましたが、最終的には手すりや足置き、太ももを押さえるバーなどを用意し、宇宙飛行士が自分に合った方法で体を固定する方式が最も実用的だと判断したとのこと。

次に問題になるのが、排泄物を体から引き離す方法です。宇宙では重力が使えないため、空気の吸引で排泄物を移動させますが、強い気流を保つ必要があるため宇宙トイレの便座の穴は約10~15cmほどと小さく、正確な位置合わせが非常に重要になります。また、吸引用のファンが動き続けるため、宇宙トイレはかなり騒がしい装置でもあります。

尿はじょうご状の器具で集められ、抗菌剤と混ぜられてからタンクへ送られます。一方で、便は現在でも使い捨ての袋に回収される仕組みだそう。便回収用の袋は空気を通しつつ固形物や水分は逃がさないようになっており、使用後は口を縛って、清掃に使った手袋やウェットティッシュと一緒に専用のシリンダーへ入れられます。ただし臭気の管理は今でも完全ではなく、国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が食事量を減らしがちになる理由の1つとして、慢性的なトイレ臭があるのではないかとも考えられているとのこと。

アポロ計画の初期には、壁に取り付けた装置に体の一部を差し込み、真空で吸引するというかなり恐ろしい案もありました。しかし宇宙飛行士たちは真空吸引式トイレ案を拒否し、アポロではコンドームのような尿回収用スリーブとプラスチック袋を組み合わせた簡易的なシステムが使われました。

本格的な宇宙トイレが登場したのは、1973年に打ち上げられた宇宙実験室「スカイラブ」からです。スカイラブでは宇宙飛行士の排泄物を医学研究のために集める必要があり、最長ミッションは84日間にも及んだため、簡易的な袋だけでは対応できませんでした。

スカイラブのトイレは便座が壁に垂直に取り付けられており、宇宙飛行士がスパイダーマンのような姿勢で用を足すという大胆な設計でした。スカイラブ用トイレをテストするのに排便は実際の人間でなければ試験ができなかったため、NASAは無重力を再現する放物線飛行中の航空機内で短時間のうちに実際に排便できる被験者を探す必要がありました。

スカイラブのトイレは宇宙飛行士たちから比較的好評で、後のスペースシャトル用トイレの設計にも影響を与えました。スペースシャトルではより強い吸引力が必要になったため、便座の開口部はさらに狭くなりました。宇宙飛行士は地上訓練で、廃棄物チューブの中央に取り付けられたカメラを使い、画面上の十字線に自分の肛門を正確に合わせる訓練を行っていたとのこと。同僚が見守る中で行う、かなり特殊な「ドッキング訓練」だったわけです。

スペースシャトルでは、尿はタンクにためられた後、船体の排出口から宇宙空間へ放出されていました。しかしSTS-41-Dミッションでは排出口のヒーターが故障し、尿が船外で凍結して大きな黄色い「尿のつらら」になってしまいました。凍結した尿の塊が再突入時に剥がれて機体を傷つける可能性があったため、乗員はロボットアームを使って尿の塊を叩き落とすことになりました。排出口の故障後は尿を船外へ排出できなくなり、乗員たちは靴下を詰めたプラスチック袋に排尿して過ごしたとのこと。


スペースシャトルのトイレは短期ミッションではおおむね機能していましたが、乗員数が多い場合には処理能力の限界に達することもありました。ある飛行ではトイレが逆流し、船内にフリーズドライ状の細かい便の粒子が漂う事態も発生しました。スペースシャトル計画では何度もトイレの再設計が行われ、最終的には容量の問題が改善されました。

国際宇宙ステーションでは、地球から物資を運ぶコストが非常に高いため、水のリサイクルが重要な課題になりました。2008年に最初の尿処理装置が導入されましたが
、無重力環境では宇宙飛行士の骨量が減少してカルシウムが尿に想定以上に溶け出しており、詰まってしまったとのこと。後に、改良された尿処理装置や塩水処理装置、除湿装置が組み合わされ、現在ではアメリカ側区画で使われる水の約98%を回収できるようになっています。

一方で、便の回収方法はスカイラブ時代から大きく変わっていません。宇宙飛行士は使い捨て袋に排便し、ウェットティッシュや手袋と一緒に密封して、硬いシリンダーに入れます。便入りシリンダーは最終的に、ドラゴンやソユーズなどの宇宙船に積み込まれて処分されます。

NASAは宇宙トイレに関するデータ収集にもかなり熱心です。使用済みシリンダーを地上に持ち帰り、中に入っていた手袋やウェットティッシュの数まで細かく調べてきました。NASAの調査により、宇宙飛行士は平均して1日に6回ほど排尿すること、排尿量は平均値から大きく外れることがあること、健康な人でも排便の頻度には大きな個人差があることなどが分かっています。また、無重力では清掃に地上よりも多くのウェットティッシュやティッシュが必要で、自分の体を確認するための鏡も欠かせないとのことです。

長年の試行錯誤により、宇宙ステーションのトイレは、日本の温水洗浄便座のように快適とはいえないものの、少なくとも宇宙飛行士たちが受け入れられるレベルには達しました。

ツェグウォフスキ氏はさらに、火星に行く場合にどんなトイレの問題が発生するかを検討しています。

火星ミッションでは「火星までの航行」「火星表面での長期滞在」「地球への帰還」に対応するトイレが必要です。特に問題になるのは、乗員が火星表面にいる約700日間、宇宙船の水や衛生システムを無人のまま放置しなければならない点とのこと。水が長期間停滞すると微生物が増えやすくなるため、トイレや生命維持装置を再使用できる状態に保つ方法を実証する必要があると述べられています。

さらに火星表面では、地球の約0.38倍という中途半端な重力の中で排泄物を処理する必要があります。4人の宇宙飛行士が700日間滞在すると、容器込みで3~4トンの腐敗性廃棄物が発生するため、火星表面を汚染しない保管や滅菌も必要です。NASAは長期保管に加え、便を低温で焼いて炭化したり、処理済み廃棄物を放射線遮蔽材として再利用したりする案も検討しているとのことです。

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