
AIを用いたソフトウェア開発には確立された方法論がなく、誰もが手探りで進んでいる状況ですが、技術の進化はあまりに速く、従来の専門知識が通用しなくなっている状況です。AI開発者のスコット・ワーナー氏が、自身の経験を基に「AIを用いた開発の正解はまだない」という記事をブログで公開しています。
Nobody Knows How To Build With AI Yet – by Scott Werner
https://worksonmymachine.substack.com/p/nobody-knows-how-to-build-with-ai
ワーナー氏はAIアシスタントのClaudeを使い、MCPサーバーを探索してテストするアプリケーション「Protocollie」をわずか4日間で開発しました。ワーナー氏はAIに指示を出し、生成されたコードをテストしてフィードバックを与えたのみで、実際の作業時間は1日数時間に満たないほどだったとのこと。「非常に優秀な開発者とペアで作業しているかのようだった」とワーナー氏は語っています。
この開発過程で、ワーナー氏はアーキテクチャやワークフローをまとめた4つのドキュメントから成る「システム」を偶然生み出しました。このシステムは、「pair_programming.md」「project_plan_{some_extension}.md 」「technical_considerations.md」「mcp-browser-architecture.md」という4つのMarkdownファイルで構成されています。

ワーナー氏によれば、これらのファイルはAIが文脈を忘れないようにするためのメモが蓄積された結果だそうで、コードそのものよりも「記憶と忘却」を管理することにあるとのこと。例えば、「mcp-browser-architecture.md」はいわゆるREADMEに当たるもので、AIが記憶を失ってしまっても作業の概要を知るためのもの。そして、「technical_considerations.md」は「繰り返したくない問題は何か」を記録しておくためのものとなっています。しかし、これらはあくまでもワーナー氏が作業の中で得たノウハウであり、正解であるとは限りません。
ワーナー氏はこの経験から、現代のソフトウェア開発で求められるスキルはプログラミング構文の知識ではなく、AIに対して「正確な想像力」や「一貫性のある願望」を伝える能力に変化していると考察しています。

ワーナー氏は、このような現状を「壁にスパゲッティを投げる段階」だと表現しています。このたとえに、ある人は「そして、壁にくっつくかどうかを見ている」と述べたそうですが、ワーナー氏は「壁にくっつくかは問題ではありません。投げること自体がすべてなのです」と述べています。
奇妙なプロセス、失敗した実験、「うまくいくはずがないのに、なぜか動く」といった瞬間はすべて、私たちが仮説も立てずに共同で実行している実験のデータ点だ、とワーナー氏。上記のシステムも、たまたま認識可能なパターンで壁に着地したスパゲッティのようなものであり、明日には壁から滑り落ちるかもしれませんが、ワーナー氏は「それでも構いません。また新しいスパゲッティを投げればいいのです」と語り、結果を気にせずとにかく試すことの重要性を訴えました。
ワーナー氏は、この先どうなるか分からない不確実な状況は恐ろしく、同時に解放的で刺激的でもあると捉えています。そして、進歩という潮が満ちてすべてを飲み込むと知りながら、今この瞬間はソフトウェア開発という「砂の城作り」を心から楽しんでいると語りました。
ソーシャルニュースサイトのHacker Newsには、「自然言語がテクノロジーとの主なインターフェースとなるにつれ、課題を明確に表現することは、コミュニケーションを強化するだけでなく、AIの可能性を最大限に引き出すことにもつながります」「重要なのは、計画を立て、自分が何を望んでいるのかを明確に表現できることです。そして、それを見直し、調整し、再度提案するのです。ソフトウェアがどのように構築され、どのように動作するかを理解する必要があります。ソフトウェアアーキテクチャと製品設計を十分に理解していなければ、正しいソフトウェアを期待することはできません」「検索が普及したときにいくつかの業界で起こったのと同じように、職を失う人もいるでしょう。しかし、AIは単なる道具です。賢い人なら、道具を使ってたくさんのクールなものを作ることができます」など、AI開発が当たり前になってもエンジニアは必要であるという意見がある一方で、「(AIを用いた開発が当たり前になった現代で)若い開発者がどうするかはわかりません。彼らはどうにかして山の頂上まで飛び上がらなければならないのですが、階段がなくなってしまったのです」と、若いエンジニアが経験を積む機会は失われるという意見もありました。
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