2025年6月13日、イスラエルはイランの10か所以上の核施設や軍事施設をターゲットに「ライジング・ライオン作戦」と呼ばれる軍事作戦を実施しました。この時、イスラエル軍はイランの核施設を破壊するべく徹底的に攻撃を行ったことがよくわかるレポートを、アメリカの非営利・非政府組織である科学国際安全保障研究所(ISIS)が公開しています。
Post-Attack Assessment of the First 12 Days of Israeli Strikes on Iranian Nuclear Facilities | ISIS Reports | Institute For Science And International Security
https://isis-online.org/isis-reports/post-attack-assessment-of-the-first-12-days-of-israeli-strikes-on-iranian-nuclear-facilities
2025年6月13日から12日間にわたって行われたライジング・ライオン作戦は、イランの核施設を標的とした軍事作戦です。ISISはこのライジング・ライオン作戦による被害状況の調査を行い、詳細なレポートを6月24日に公開しました。
ISISはイランの主要な核施設であるナタンツ核施設、フォルドゥ施設、エスファハーン核施設、防衛革新研究機構(SPND)本部、ラヴィサン2(モジュデ施設としても知られる防衛革新研究機構の旧本部)、カラジ遠心分離機製造施設(TABA/TESA)、IR-40アラク重水炉、重水(D20)製造工場、サンジャリアン(最近再稼働の兆候が見られた旧AMAD施設)などの高解像度衛星画像を入手し、その被害状況を分析しています。
ライジング・ライオン作戦は、「イランの兵器級ウランあるいはプロトニウムの製造能力に対する攻撃」と「兵器級ウランを利用して核兵器そのものを製造する設備に対する攻撃」の2つに分けられます。
今回のライジング・ライオン作戦により、イランの遠心分離機によるウラン濃縮プログラムは事実上破壊されており、「イランがライジング・ライオン作戦実行前の核設備を取り戻すには長い時間がかかるでしょう」とISISは指摘。しかし、イランには今回の攻撃で破壊されなかった濃縮ウランや、核施設に未配備の遠心分離機などがまだ残っているはずであるとして、「これらの破壊されていない濃縮ウランや遠心分離機が将来的な核の脅威につながる可能性は十分にあります」とISISは警告しています。
兵器級ウランを核爆発物に転用する取り組みを困難にしているのは、イランの核兵器製造施設と人員に対する大規模な攻撃です。核兵器製造のためのインフラストラクチャーは深刻な被害を受けており、ミサイル搭載型ではない核兵器を製造するのにさえ、「イランは莫大な時間を必要とするだろう」とISISは分析しています。
特に、ナタンツ核施設の遠心分離機の大部分を破壊することができたこと、フォルドゥ施設に重大な損害を与えることができたことエスファハーン核施設の「濃縮ウランを金属ウランに変換する施設」や「天然ウランを六フッ化ウランに変換する施設」を破壊することができたことなどが、ライジング・ライオン作戦の大きな戦果であるとISISは指摘。
◆ナタンツ核施設
ナタンツ核施設はイランの主要なウラン濃縮施設で、この施設の地下には1万8400台以上の遠心分離機、地上にも700台の遠心分離機が設置されていたそうです。ナタンツ核施設は秘密裏に建設されましたが、2002年後半に公表されています。濃縮度5%未満のウランの生産を目標としており、「イランのウラン濃縮計画の主軸施設」とISISは表現しています。なお、ISISによるとナタンツ核施設はイランで生産される濃縮ウランの60%を生産していたそうです。
ライジング・ライオン作戦により、6月13日時点でナタンツ核施設のパイロット燃料濃縮工場および施設内の電気インフラが破壊されたとISISは報告しており、これにより電力供給が困難となり、地下燃料濃縮工場の遠心分離機が損傷した可能性があるとしています。6月14日時点の衛星写真から、地下燃料濃縮工場付近に2~3の小さな爆発性衝突クレーターが確認されており、最初の攻撃ですでに重大な損害を被っていることが確認できたと報告しています。
以下の画像がナタンツ核施設の衛星写真。左の写真にある3つの赤丸が、地下燃料濃縮工場付近で確認された小規模な爆発性衝突クレーターです。この小規模な爆発性衝突クレーターは、通常の兵器のように「接触すると爆発する」のではなく「効果的な爆風を後方ではなく前方に爆発させる成形炸薬を持つように設計された地中貫通型または空洞貫通型兵器」の特徴と一致していると、ISISは分析しています。地表の損害は小さく見えますが、その理由はそもそも地中への攻撃を想定して設計された兵器が利用されているためです。
なお、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長が、6月20日にナタンツ核施設の地下施設が地中貫通型兵器による攻撃を受け、深刻な被害を被ったという声明を出し、「六フッ化ウラン、フッ化ウラニル、フッ化水素に含まれるウラン同位体が施設内に拡散している可能性がある」と言及しており、これはISISの分析内容とも合致します。
さらに、2025年6月22日の早朝にナタンツ核施設は再び攻撃を受けました。この攻撃はアメリカ軍によるもので、埋設された濃縮施設にバンカーバスターによる貫通孔が少なくとも1つ確認されています。バンカーバスターの貫通孔は、以下の画像の赤丸部分にある黒点です。
アメリカ国防総省は、少なくとも2つの大型貫通爆弾(MOP)が投下されたと発表しており、「これによりナタンツ核施設は運用不能状態に陥ったものと考えられます」とISISは分析しています。
◆フォルドゥ施設
フォルドゥ施設は高濃縮ウラン(ウラン235含有率20%以上)、兵器級ウラン(ウラン235含有率90%以上)の生産に関わる地中に埋設されたウラン濃縮施設です。2000年代初頭にイランの秘密核爆弾製造計画であるAMAD計画の一環として建設されました。
2003年にAMAD計画が終了してからも、フォルドゥ施設は建設が続けられ、数年後に西側諸国の情報機関によってその存在が明らかになりました。その後、イラン政府はフォルドゥ施設を「低濃縮ウラン製造用の民間施設」であると発表していますが、同施設を視察した査察団は、施設内の配管や設備、ウラン供給ステーションが兵器級ウラン製造施設と共通していることを報告しています。
フォルドゥ施設の全体予想図が以下。AMAD計画の工場配置図を基に予想したものです。
6月22日の早朝、アメリカ軍はフォルドゥ施設に12発のMOPを投下しました。攻撃後に撮影された衛星写真には、「3つの貫通孔が並んだ様子」を2か所発見することができます。この貫通孔はフォルドゥ施設の換気竪坑およびサービス関連構造物の位置にあるそうで、「MOPを地下深くにある施設中枢へ送り込むための重要な経路になった」とISISは指摘。
ISISは利用可能な工場配置図や衛星写真などから、「アメリカ軍の投下したMOPは施設の2つの脆弱(ぜいじゃく)な地点を正確に狙ったようです。最初の標的は一般的に『換気シャフト』と呼ばれるもので、地下と中央の通路をつなぎ、区画図に示されている機器と遠心分離機の両方を収容する2つの主要な地下空間へと続いています。もうひとつの標的は、山の尾根の反対側に位置しており、爆弾が遠心分離機の設置された区画の南にある未知の構造物であったことがわかります。この構造物は設置中だった2009年後半の短期間のみ視認可能で、その後は存在を隠すために土で覆われました。今回の攻撃は、地上の構造物だけでなく遠心分離機の設置された区画の端を正確に狙っており、これにより爆風が区画全域に広がり、設置されていた遠心分離機はすべて完全に破壊されることとなったでしょう」と分析しました。
フォルドゥ施設への攻撃が行われた前日の6月21日、イラン軍は攻撃に備えて施設への入り口部分を土で埋め直していたことが報じられています。
また、入り口を埋め立てる前に、イランが施設内の濃縮ウランを移動させたり、遠心分離機などの設備を移動させたりした可能性もあります。しかし、この作業は非常に複雑で時間がかかるため、すべての設備を運び出すことは難しかったはずで、濃縮ウラン生産設備にダメージを与えることができたはずであるとISISは指摘しています。
なお、アメリカ軍による攻撃の後、イスラエル軍は6月22日から23日にかけてフォルドゥ施設に再び攻撃を仕掛けていたことが報じられていますが、記事作成時点では衛星写真を入手できていないため、この攻撃の詳細については調査することができていないそうです。
◆エスファハーン核施設
エスファハーン核施設はウラン転換施設をはじめとする、複数のウラン転換、燃料製造設備、天然ウランおよび濃縮ウラン貯蔵庫、金属ウラン製造設備を備えた施設です。六フッ化ウラン、さまざまな形態の酸化ウラン、金属ウラン、原子炉燃料の製造に不可欠な設備が設置されています。イランは原子炉用の燃料被覆管を製造するためのジルコニウム製造工場としてエスファハーン核施設を建設しました。また、施設の北側には2005年頃に建設された原子力施設の一部であるトンネルがあり、2020年から2021年にかけて改修が行われています。このトンネルは当初、外部からの攻撃を受けた際に機密性の高い物質や機器を保管し、小規模な転換作業を行うための施設として、IAEAに報告されていたものです。
このエスファハーン核施設はイスラエルにより2度、アメリカにより1度攻撃されており、甚大な被害を受けています。
最初の攻撃は2025年6月14日に行われ、衛星写真からウラン転換施設4棟が被害を受けたことが確認されています。濃縮ウラン金属転換工場も破壊され、出荷・受入棟と思われる建物は深刻な被害を受けています。原子炉燃料製造工場も一部損害を受け、中央にある化学研究所も一部損害を受けたことが確認できます。ただし、ジルコニウム製造工場と、主要施設のすぐ北にある地下トンネルに被害は見られません。
四フッ化ウランを濃縮ウラン金属に変換する濃縮ウラン金属転換ラインは、核兵器用の兵器級ウランを製造する上で重要な能力です。このラインは20%濃縮ウランで試験されており、90%濃縮ウランであれば処理可能です。この施設が破壊されれば、イランの核兵器製造のあらゆる取り組みが行き詰まることとなります。
エスファハーン核施設内にある原子炉燃料製造工場は天然金属ウランを製造することができる施設です。この施設は20%濃縮ウランと60%濃縮ウランも貯蔵しており、2023年8月には当時のイランの20%濃縮ウランの85%と、60%濃縮ウランの83%を貯蔵していたことが報告されています。攻撃当時、建物内にどれだけの20%濃縮ウランと60%濃縮ウランが貯蔵されていたかは不明です。
2度目の攻撃は、6月20日の夜から21日の夜にかけて行われました。この攻撃について、IAEAは「同じ敷地内にある他の6つの建物も攻撃を受けました。攻撃を受けたのは、まだ稼働していない天然ウランおよび劣化ウラン金属製造施設、燃料棒製造施設、低濃縮ウランペレット製造施設、実験室および核物質貯蔵施設、別の実験室、汚染された機器を扱う作業場、そして核物質を保管していない事務所ビルです」と報告しました。
さらに、6月22日にはアメリカ軍が潜水艦から発射したトマホーク巡航ミサイルがエスファハーン核施設を攻撃しています。これによりエスファハーン核施設の天然ウランを六フッ化ウランに変換する主要なウラン転換施設とトンネルが破壊されました。
他にも、IR-40アラク重水炉への攻撃により同施設内の原子炉が破壊された可能性が高く、核兵器に利用するためのプルトニウムの主要な供給源が失われたことも重要な戦果のひとつであるとのこと。
ただし、ライジング・ライオン作戦によりイランに存在するすべての核施設が攻撃を受けたというわけではありません。一部の施設、特に地下施設については「さらなる被害状況の調査が必要」とISISは主張しています。
また、ISISは「イスラエルの情報機関は、停戦下であってもイランにおける核物質・遠心分離機・核兵器製造施設などの未破壊の脅威について調査を続けることが予想されます。トランプ大統領が表明したように、検証可能な方法でイランのウラン濃縮計画の停止を交渉することで、これらの脅威に対処すべきです」と述べ、ライジング・ライオン作戦で破壊し切れなかった核の脅威を取り除くための取り組みを進めるべきであると語りました。
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