X(旧Twitter)は2022年にイーロン・マスク氏によって買収された後、モデレーションの緩和によるヘイトスピーチの増加やマスク氏自身による問題発言などにより、広告主が出稿をためらって収益が減少する事態に直面しています。そんな中、Xは広告主に対して「広告を出さないと訴える」と脅迫し、広告費を支払わせる戦術をとっていることがウォール・ストリート・ジャーナルによって報じられました。
X’s Sales Pitch: Give Us Your Ad Business or We’ll Sue – WSJ
https://www.wsj.com/business/media/x-twitter-ad-revenue-campaign-lawsuit-a882b5c6
Musk’s threat to sue firms that don’t buy ads on X seems to have paid off – Ars Technica
https://arstechnica.com/tech-policy/2025/06/verizon-bought-10m-in-ads-on-x-to-avoid-lawsuit-from-musk-report-says/
2024年8月、Xは世界広告主連盟(World Federation of Advertisers)と加盟企業4社を相手に、大手企業がXへの広告出稿を一時的に停止した「大規模な広告主ボイコット」が、反トラスト法に違反する行為だったとして訴訟を起こしました。Xは世界広告主連盟のイニシアチブである「責任あるメディアのための世界同盟(Global Alliance for Responsible Media:GARM)」が主導して、Xの広告枠の購入停止および削減を促したと主張しています。
イーロン・マスクが広告業界に「これは戦争だ」と宣言、X(旧Twitter)の世界広告主連盟への訴訟で – GIGAZINE
この訴訟を受けてGARMは活動を停止しました。世界広告主連盟の責任者を務めるステファン・レールケ氏は、Xの主張に対して法廷で反論するつもりであると説明しています。
Xから「徒党を組んでXへの広告出稿をボイコットした」と訴えられた広告企業連盟が活動停止 – GIGAZINE
一部の反トラスト専門家は、Xが自身の主張を証明するハードルは高いと考えています。カードーゾ・ロースクールのサム・ワインスタイン教授は、広告主が集まってXの広告料金を下げる目的でボイコットしたのであれば反トラスト法違反になるものの、Xが容認する言論に関わりたくないという動機に基づく行動なのであれば反トラスト法違反になる可能性は低いと、ウォール・ストリート・ジャーナルに語っています。
そんな中、Xは広告出稿に乗り気ではない広告主に対し、訴訟する可能性をちらつかせて広告を出稿させるという戦術をとっています。2024年末には大手電気通信企業のベライゾン・コミュニケーションズに対し、Xに広告費を費やさなければ法廷で争うことになると警告したと報じられています。
事情に詳しい関係者によるとこの戦術は功を奏し、2022年以降Xで広告を出していなかったベライゾン・コミュニケーションズは、2025年に少なくとも1000万ドル(約14億円)の広告費を払うことを約束したとのこと。同様の戦術はさまざまな企業を相手に行われており、関係者によると脅迫あるいは圧力を受けた少なくとも6つの企業が、Xとの広告契約を結んだとのことです。
画像共有プラットフォームのPinterestやおもちゃメーカーのレゴはXの要求を拒否した結果、2025年2月に訴訟対象に加えられました。Xの弁護士はPinterestに対し、マスク氏の買収前と同じ広告支出を2年間維持するよう迫りましたが、PinterestはXよりも優れた成果を上げていると判断した別のプラットフォームで広告を購入し、Xへの広告支払いを見送ったと報じられています。
一方、当初の訴訟で被告として名指しされていたユニリーバはXへの広告支出の増額で合意した後に訴訟から外されたほか、ファッションブランドのラルフローレンも脅迫を受けてXへの広告出稿を再開することに同意したとのこと。
広告コンサルティング企業・MediaSenseのグローバル成長担当プレジデントを務めるグレッグ・ポール氏は、X上だけでなく政治にも強い影響力を持つマスク氏の強引なやり方は異例であり、広告主にとって懸念材料だと指摘。「この種の行為は中国では一般的かもしれませんが、アメリカではまったく一般的ではありません」とポール氏はコメントしました。
また、Xは顧客の代理として年間数百億ドル(数兆円)の広告を出稿する大手広告企業とも交渉を行っています。2024年12月にはアメリカの広告大手であるインターパブリック・グループとの協議の中で、同じく広告大手のオムニコム・グループによる買収が、トランプ政権から問題視される可能性を示唆したとのこと。その後Xはインターパブリック・グループと、潜在的な顧客支出に関する新たな年間契約を締結しました。
また、フランスのパリに拠点を置く広告代理店のピュブリシス・グループも、アメリカにおけるXへの投資額を2024年の7000万ドル(約100億円)から1億5000万ドル(約215億円)に引き上げることで合意しました。この契約では、クライアントの需要が足りなかった場合、ピュブリシス・グループは増額分を支出する必要がないとされています。ウォール・ストリート・ジャーナルは関係者の話として、ピュブリシス・グループが契約に合意した理由のひとつに、一部の顧客を訴えていたXからの圧力を避ける意図があったと報じました。
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