朝一番や疲れてきた時間帯にコーヒーを飲み、学校や仕事を乗り切るための活力を得ている人は多いはず。一般にコーヒーの効果は、精神活性作用を持つカフェインによるところが大きいと考えられていますが、新たな研究では「コーヒーを日常的に飲んでいる人はカフェインレスコーヒーでも普通のコーヒーと似た効果を得られる」という結果が示されました。
コーヒーは世界中の人々に愛されている重要な飲み物であり、覚醒度や注意力の向上、活力の増加などさまざまな効果があるとされています。一般にこれらの効果はカフェインによるものと思われていますが、中にはコーヒーの香りや味、コーヒーを飲むこと自体への期待感や条件反射など、その他の要因も影響していると主張する研究者もいます。
スロベニアにあるノヴォ・メスト大学情報学部の博士課程に在籍するマテヤ・リザー氏は、「私たちは特にコーヒーの常飲者において、人々がコーヒーに関連付けている身体的・精神的影響の実際の原因を理解したかったのです。カフェインのせいでしょうか、それともコーヒーを飲むという儀式そのものなのでしょうか?コーヒーを飲むという行為には明らかに『儀式的』な側面が伴いますが、その影響をカフェインから切り離すことは困難です」と指摘しています。
そこでリザー氏らの研究チームは、コーヒーを習慣的に飲む被験者に「カフェインを含まないデカフェコーヒー」と「カフェインを入れたデカフェコーヒー」を飲ませ、さまざまな影響を測定する実験を行いました。リザー氏は、「この点を探るため、私たちは見た目・香り・味のいずれも通常のコーヒーとまったく同じデカフェコーヒーを用いて、カフェインの影響とコーヒーを飲む体験を切り離すことを目指しました。これにより、期待や習慣によってどの程度反応が引き起こされているのかを、カフェインの影響と比較して調査することができました」と語っています。
研究チームは、習慣的にコーヒーを1日1~3杯飲んでいる健康な大学生20人(男性10人・女性10人)を募集して実験を行いました。被験者は実験前に7時間以上の睡眠を取っており、少なくとも8~11時間にわたってコーヒーを飲んでおらず、2時間前から何も食べていませんでした。
被験者には「カフェイン抜きのデカフェコーヒー」か、「体重1kgあたり6mgのカフェインパウダーを入れたデカフェコーヒー」のどちらかが割り当てられ、コーヒーを飲んだ前後で精神的・生理学的な項目について測定が行われました。なお、コーヒーを飲んでから測定するまでには、30分間の休憩時間がありました。
被験者には飲み物がデカフェコーヒーであるとは知らされておらず、すべての被験者は「自分は普通のカフェイン入りコーヒーを飲んだ」と確信していたとのこと。なお、体重1kgあたり6mgのカフェインはかなりの高用量であり、最大で550mgのカフェインが投与されたと報告されています。
研究チームは当初、「カフェインがコーヒーの覚醒効果の原因であるならば、カフェイン入りコーヒーを飲んだ被験者はそうでない被験者と比較して、心血管や認知能力、脳活動のパターンについて顕著な変化を示すだろう」と仮説を立てていました。
ところが実験の結果、コーヒー摂取後の被験者はどちらのグループもほとんど同じような生理学的変化を示すことが判明しました。血圧と心拍数の測定では、両方のグループで「心拍数は減少し、血圧が上昇する」というコーヒーを飲んだ場合によくみられる反応が確認されました。この反応はカフェインの有無にかかわらず、2つのグループ間に有意な差はありませんでした。
また、認知能力もカフェインの影響をほとんど受けませんでした。暗算タスクでは、どちらのコーヒーを飲んだ場合でも、コーヒーを飲む前後で被験者の正確性と回答数に有意な変化はありませんでした。一方、聴覚注意タスクの反応時間は両方のグループでわずかに改善しましたが、統計的な優位性が認められる改善があったのはカフェインを摂取したグループのみでした。
この結果は、カフェインにより処理速度が向上したことを示唆しています。しかし、カフェインなしのグループでも改善がみられたという事実は、「コーヒーを飲んだことによる期待」がプラセボ効果を引き起こした可能性を示しているとのことです。
脳波パターンの測定では、カフェイン入りコーヒーを飲んだグループとそうでないグループでより大きな違いがみられました。認知タスク中の被験者の脳波パターンを測定したところ、両グループで認知処理に関連する脳波パターンの増加がみられましたが、統計的に有意な増加を示したのはカフェインを摂取したグループのみでした。
また、安静時の脳波パターンもカフェイン摂取の有無によって異なり、カフェイン摂取グループではアルファ波の活動減少が確認されました。アルファ波の活動低下は注意力の高まりや抑制力の低下と関連しているため、この結果はカフェインが精神的な準備状態を向上させたことを示唆しています。

これらの結果を総合すると、確かにカフェインは脳活動や反応時間に測定可能な影響を与えた一方で、これまでカフェインに起因すると考えられていた多くの生理学的・精神的反応は、カフェインなしのグループでも確認されたということになります。
リザー氏は心理学系メディアのPsyPostに対し、「私たちの研究結果は、習慣的にコーヒーを飲む人はカフェインの有無とは無関係に、条件反射を経験する可能性があることを示しています。言い換えれば、カフェインをおいしいコーヒーで摂取することに慣れてしまうと、カフェイン抜きのコーヒーでもほぼ同じ効果が得られるということです」と述べました。
なお、過去の研究では「コーヒーの香りを嗅ぐだけでもテストの結果がよくなる」という結果が示されています。
コーヒーの香りには「嗅ぐだけ」で脳の働きを活発にする効果がある – GIGAZINE

今回の研究は被験者数がわずか20人と少なく、日常的にコーヒーを飲まない人は含まれていなかったなどの制限があります。また、デカフェに残った微量のカフェインや、その他の生理活性作用を持つ化合物が影響した可能性もあるとのこと。
今後の研究では、より大規模で多様な被験者を対象にしたり、習慣的なコーヒー愛飲者とあまりコーヒーを飲まない人を比較したり、その他の対照グループを設けたりすることで、さらに多くの知見が得られると期待されています。リザー氏は、「カフェインの効果に被験者の認識がどのように影響するのかを、さらに調査したいと考えています」と述べました。
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