これらの結果は、「日光を定期的に浴びて概日リズムを維持することが健康な免疫システムをサポートする」という考えを支持しています。新たにホール氏らの研究チームは、概日リズムがどのようにして免疫系を制御しているのかを調べるために実験を行いました。
研究チームは実験にあたり、生物学のモデル生物として知られるゼブラフィッシュの幼生を用いました。ゼブラフィッシュは遺伝子構成と免疫システムが人間と類似しており、体が透明なため顕微鏡で生物学的なシステムを観察しやすいとのこと。
今回ホール氏らが着目したのは、白血球の中でも殺菌機能に特化している好中球という免疫細胞です。好中球は体内で最も豊富な免疫細胞ですが、非常に短命なため人間の血液から単離した好中球を実験で扱うのは困難です。しかし、透明なゼブラフィッシュの幼生を使用すれば、無傷の体内で好中球の機能を直接観察できます。
以下の動画は、体内に侵入した細菌(緑色の蛍光)を好中球(赤色の蛍光)が捕食している様子を撮影した、ゼブラフィッシュの幼生を用いた感染モデルのタイムラプスです。
Immune cells attacking bacteria in zebrafish larva – YouTube
ホール氏らが行った過去の研究では、細菌感染に対する免疫応答の強さは、動物が活動する日中にピークに達することが示されました。これは、人間とゼブラフィッシュの両方に生存上の優位性をもたらす進化的反応だとみられています。ホール氏は、「人間やゼブラフィッシュなどの昼行性動物は、日中に最も活動的であるため、細菌に感染する可能性が高くなります」と指摘しています。
今回の研究では、この強化された免疫反応が日光とどのように同期しているのかを調べるため、まずは好中球が1日のさまざまな時間帯に細菌を殺す様子を観察しました。その結果、やはり好中球は夜間よりも昼間に効率的に細菌を殺すことがわかりました。
続いて研究チームは好中球の遺伝子を編集し、特定の時計遺伝子を慎重に除去していくことで、概日リズムがオフになるかどうかを調べました。このアプローチについてホール氏は、「アナログ時計から重要な歯車を取り除き、時を刻まないようにするのと同様です」と述べています。
実験の結果、好中球では「Per2」という時計遺伝子が概日リズムの調整に重要な役割を果たしていることが判明。Per2の発現は一定の光条件下で増加し、これが殺菌機能を強化していることが確認されました。

ホール氏は、「次の課題は好中球が光をどのように検出するのか、そして人間の好中球もこの内部時計メカニズムに依存して抗菌活性を制御しているのかどうかを、正確に理解することです。また、この殺菌メカニズムが日中に遭遇する可能性が高い細菌など、特定の種類の細菌に限定されているのかどうかも興味深いところです。それとも、すべての感染性の脅威(ウイルス感染を含む)に対するより一般的な反応なのでしょうか?」と述べました。
好中球は炎症部位に動員される最も豊富な免疫細胞であるため、今回の発見は多くの炎症状態に影響を及ぼします。また、好中球の概日時計を標的にして細胞の活性を調整する新たな薬剤開発につながる可能性もあるとのことです。