新たに発見された目の細胞が「視力回復」に役立つ可能性 – GIGAZINE


ヒトの胎児の網膜サンプルから、これまで存在が知られていなかった新種の細胞が見つかったことを、中国の研究者らが発表しました。さらに、新しく見つかった細胞をペトリ皿で増殖させて眼病を持つマウスに移植する実験により、マウスの視力が回復したことが報告されました。

Identification and characterization of human retinal stem cells capable of retinal regeneration | Science Translational Medicine
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adp6864

New cells discovered in eye could help restore vision, scientists say | Live Science
https://www.livescience.com/health/anatomy/new-cells-discovered-in-eye-could-help-restore-vision-scientists-say

目の奥にある網膜は、光を感知して脳への信号に変換する重要な役割を果たしており、加齢や糖尿病、ケガなどによって網膜が劣化したり損傷したりすると、黄斑変性症網膜色素変性症といった病気や失明につながります。

こうした疾患に対する現行の治療は、生き残っている細胞をできるだけ温存することを基本としており、失われた網膜の機能を再生させる根本的な治療法は確立されていません。

2025年3月26日にアメリカ科学振興協会が刊行する医学誌のScience Translational Medicineに掲載された研究で、中国・温州医学院附属眼視光医院のHui Liu氏らの研究チームは、胎児の網膜サンプルから「ヒト神経網膜幹細胞様細胞(hNRSC)」と「網膜色素上皮(RPE)幹細胞様細胞」という2種類の細胞が見つかったと発表しました。

by Jianzhong Su, State Key Laboratory of Eye Health, Eye Hospital, Wenzhou Medical University

幹細胞とは、適切な条件下で人体のあらゆる細胞に成長する細胞のことです。この幹細胞を劣化した細胞に置き換えることで、網膜を再生させられるのではないかと期待されていますが、その実現に適したヒトの網膜の幹細胞はこれまで見つかっていませんでした。

網膜の外縁に位置するこれらの細胞が自己複製することや、適切な条件下でhNRSCが他の網膜細胞に変化することを確かめた研究チームは、次にペトリ皿の中でヒトの幹細胞を培養して網膜のレプリカを作成しました。

ヒトの臓器をミニチュアサイズの3次元的な組織として培養する「オルガノイド」は、従来の動物モデルより人間の臓器の再現度が高く、過去の別の研究ではヒトの脳オルガノイドに目が発生したことも報告されています。

実験室で培養した人間の「ミニ脳」に目が生えてきたとの報告、光にも反応 – GIGAZINE

by Elke Gabriel

研究チームが、できあがった「網膜オルガノイド」を分析したところ、胎児サンプルで見つかったものと同様のhNRSCが含まれていることがわかりました。研究チームはまた、幹細胞を他の網膜細胞へと変化させて修復プロセスを制御する一連の遺伝子的メカニズムも特定しました。

このオルガノイド由来の幹細胞を、網膜色素変性症のマウスに移植したところ、細胞がマウスの網膜細胞に分化してマウスの視力が大幅に回復しました。

同じ治療法が人間にも適用できるかを確かめるには、さらなる研究が必要ですが、人間の網膜で見つかった細胞で人間の網膜を再生させる技術は再生医療の新しい手法として有望視されています。

研究チームは論文に「この研究は網膜細胞生物学の理解を深めるだけでなく、網膜変性疾患の治療介入を前進させる上で大きな可能性を秘めています」と記しました。

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