自然界には植物のつるや渦潮、DNAの二重らせん構造など、らせんや渦巻きあるいは環状構造になったものが数多く存在します。情報量のことを指すエントロピーについての新たな研究から、「なぜ自然界が渦巻きやらせんにあふれているのか」という疑問の答えが示唆されました。
A covariant tapestry of linear GUP, metric-affine gravity, their Poincaré algebra and entropy bound – IOPscience
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6382/ad3ac7
Why does nature love spirals? The link to entropy
https://phys.org/news/2025-03-nature-spirals-link-entropy.html
人類の知の歴史においては、それまでの物の見方が劇的に変わるパラダイムシフトがたびたび起こりました。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で重力や量子の相互作用について研究しているアネタ・ヴォイナル博士と、アメリカのエセックス・カウンティ・カレッジの理論物理学者であるアフメド・ファラグ・アリ氏らの研究チームは、そんなパラダイムシフトのひとつとして、イスラエルの物理学者であるヤコブ・ベッケンシュタインが提唱したベッケンシュタイン境界を挙げています。
ベッケンシュタイン境界とは、あらゆる物理システムのエントロピーは無限ではなく、ある有限な領域内には有限のエントロピーしか存在せず、それはエネルギーとそれを包み込むことができる最小の球体によって制約されるという考えです。長らくエントロピーは無秩序の抽象的な尺度と見なされていましたが、ベッケンシュタイン境界により、空間と時間の構造に結びついた有限の量であることが示唆されました。
その後、ベッケンシュタイン境界をより一般化する試みが進み、カリフォルニア大学バークレー校教授のラファエル・ブッソ氏が行った再定式化により、エントロピーの制約はエネルギーではなく囲む球の面積にリンクされるべきだとされました。ブッソ氏は、光が外側に出られなくなるシュワルツシルト半径が球の半径を超えないような重力安定条件を用いて、この理論に到達したとのこと。
これらのステップは数学的に一貫したものでしたが、ヴォイナル氏らはブッソ氏のアプローチが、正確にベッケンシュタイン境界を表現したものではないと指摘しています。ヴォイナル氏らが問題視したのは、ブッソ氏のアプローチではエネルギーが球の面積に置き換えられることで、エントロピーと時空の関係における動的特徴が取り除かれてしまった点です。
そこでヴォイナル氏らは、重力物理学と時空理論の査読付き学術誌であるClassical and Quantum Gravityに掲載された論文で、エネルギーを保持しつつ相対論的質量の観点からベッケンシュタイン境界を定式化しました。これは、エントロピーを囲む球ではなく、内側の半径がシュワルツシルト半径であり、外側の半径が最小の囲む球である「環状体(トロイド)」で表現するものだとヴォイナル氏らは主張しています。
環状体にたどり着いたのは恣意(しい)的なものではなく、宇宙全体で観察される基本的な構造に動機づけられたものだとのこと。ヴォイナル氏らは、「自然界では完全な球体が好まれない代わりに、らせんや渦、環状フローが好まれます。銀河は完全な球体として形成されず、雄大ならせん状に巻かれています。DNAも真っすぐな鎖にはならず二重らせん状にねじれます。水や空気、そして最も極端な宇宙条件のプラズマでさえ、回転と曲率の経路をたどります。では、なぜエントロピー(おそらく宇宙の最も基本的な組織化原理)も、そうではないと言えるのでしょうか?」と述べています。
また、量子力学が成り立つ世界においては、電子の位置と運動量を同時に正確に測定することはできないとするハイゼンベルクの不確定性原理という原理があります。しかし、エントロピーの環状体による定式化を量子力学に適用すると、不確定性原理の不等式が等式となり、不確定性が実は一定の構造に基づいたものであることが示されるとヴォイナル氏らは主張しています。
これは物理学だけでなく、ハリケーンの運動や環状運動や海の波の曲率、電磁場のパターン、さらに亜原子粒子の相互作用に至る宇宙全体の理解にも広範囲にわたる影響を及ぼすとのこと。ヴォイナル氏らは、「らせんには普遍的な何かがあり、エネルギー・物質・空間が進化する過程に組み込まれています。環状体は単なる形ではなく、運動・進化・時間そのものを体現しているのです」とコメントしています。
ヴォイナル氏らは今回の研究結果から引き出せる教訓として、「世界は混沌(カオス)ではなく、盲目的な偶然性に支配されているのでもありません。秩序が存在しており、発見されるのを待っているのです」と述べました。
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