三重県はシカ肉の処理に関する厳しいマニュアルを作成しており、マニュアルに従って取り扱われるシカ肉を「みえジビエ」に認定しています。みえジビエに認定されるシカ肉解体業者の中でも中心的な役割を果たしているのが、「伝説の罠師」の異名を持つ古田洋隆さんです。古田さんにシカ肉解体処理の様子を見せてもらったので、その様子を大量の写真や動画付きでまとめてみました。
三重県|ジビエ:スピリッツ
https://www.pref.mie.lg.jp/CHISANM/HP/foodinnovation/85101045286.htm
みえジビエは三重県を中心に多くの飲食店で提供されているほか、みえジビエを用いた加工食品などが複数の店舗で販売されています。みえジビエを手軽に楽しめる冷凍食品「鹿肉のハンバーグ」を実際に食べてみたところ、獣臭さが皆無で、これまで食べてきたシカ肉と大きく異なる味に仰天。「鹿肉のハンバーグ」がどんなものなのかは、以下の記事に詳しくまとめています。
獣臭さ皆無「鹿肉のハンバーグ」&「鹿肉のつみれ」を工場で調理してもらって食べてみた – GIGAZINE
いったいどうやって高品質なシカ肉を生産しているのかを知るべく、シカの捕獲と解体を担っている古田さんにシカの解体工程を見せてもらいました。
三重県内にある古田さんの解体作業場に到着。シャッターの奥の衛生管理された場所で解体が行われています。
この黄色い台でシカを洗ったり内臓を取り出したりしています。
作業場の入口付近には大きなシカの角が積み上げられていました。
作業場に到着した時点で、シカが首を下にした状態で吊り下げられていました。奥にいる人物が古田さんです。本当は罠にかかったシカを仕留める段階から見せてもらいたかったのですが、取材当日は雨が降っており慣れていない人が山に入るのは危険ということで、古田さんが朝早くにシカを仕留めてここまで処理してくれていました。
シカの解体手法は人によってかなり異なり、「首を落としてから丸1日逆さづりにして血を抜く」「内臓を抜いた後に池や川に投げ込んで冷やす」といった作業をする人もいます。しかし、古田さんは「罠にかかったシカの首元からナイフを刺して、心臓の血管を切って適切な速度で血抜きする」という手法を採用しており、朝に捕獲したシカを午前中のうちに解体しています。「ナイフで心臓の血管を切って仕留める」という手法は世界でも古田さんだけの技術だそうで、この血抜き方法によって獣臭さのまったくないシカ肉を作り出せるというわけです。
午前中のうちに解体作業を終える必要があるので、古田さんは説明を交えつつテキパキと作業をこなしていきます。これは、電動ノコギリを使ってシカを左右に分割するところ。
シカを電動ノコギリで分割するところを映像でも記録してみました。
シカを電動ノコギリで左右に分割【食肉解体】 – YouTube

左右にキレイに分かれました。
切断面はこんな感じ。ズレることなくまっすぐに切れています。
ここまで作業したら、床を清掃します。
そして、着ていた白衣を捨てます。白衣を毎回新しいものにすることで清潔な状態を維持しています。
ここから先の切り分け作業は奥にある別室で行います。ちなみに、シカをつり下げているハンガーは古田さんの自作です。
長靴を殺菌。
別室に入って手を洗い、手袋を装着します。シカを左右に分割する部屋と肉を切り分ける部屋を別室にすることで肉に菌が付くことを防いでいます。
部屋の中には食品衛生責任者養成講習会の修了証書やみえジビエフードシステム登録証が掲げられていました。
肉の切り分けに使う包丁は大小さまざまなものが用意されています。
刃先や柄は使いやすいように自分でカスタムしているとのこと。アルミから切り出して研いだ包丁もあります。
シカの角を柄に使ったものありました。
ペンチやピンセットも用意されています。
これは包丁を殺菌する殺菌庫です。
シカ肉を作業台の上に移動。
まな板の上に置きます。
もう片方も移動します。
よいしょ。
これで切り分け作業の準備は完了。
参考までに、農林水産省が発行している(PDFファイル)国産ジビエ認証制度ガイドブックに記載されている部位別名称イラストが以下。
まず、胴体と後ろ足の境目に刃を入れて脚部を分割します。古田さんいわく「目をつぶっていても、どこに刃を入れればいいか分かる」とのこと。
あっという間に脚部が外れました。
腱(けん)を切ります。
そして、骨から肉を外します。
これがモモ肉です。
作業中の様子はこんな感じ。古田さんはどこに骨や関節があるかを完全に把握しており、一瞬の迷いもなくサクサクと切り分けていきます。
あばら骨をバチンッバチンッと切断。
背骨部分とあばら骨部分に分かれていきます。
さらに、あばら骨と肉の間に刃を入れます。
作業内容を説明しつつ、手はものすごい速さで動いています。
あばら骨がキレイに外れました。
これがバラ肉です。
続いて、背骨周辺の肉を切り分けます。
これがヒレ肉。
ロースも切り分けます。
ロースは大きめ。
背骨に刃を沿わせて、細かい肉を切り出します。
かなりの量の切り落とし肉を回収できました。
切り分けた肉をバットに詰めたところ。
スジなどの非可食部は鶏のエサにするそうです。
残った骨を煮込むとおいしいスープをとれます。
切り分けた肉を台の上に広げるとこんな感じ。切り分け作業は約1時間で完了しました。
後は、金属が混入していないかチェックすれば作業完了です。
シカは銃で仕留めると可食部が減り、箱罠(檻のような罠)で捕まえるとシカが内部で暴れて内出血を起こして肉の品質が下がってしまいます。このため、古田さんは肉への悪影響が少ないくくり罠を用いて狩りを行っています。古田さんのシカ肉は血抜きが徹底されており獣臭さが皆無。さらに、厳しい衛生管理で雑菌の混入を避けており長期間の熟成も可能です。このため、古田さんのシカ肉は全国各地の一流料理店から指名買いされています。
古田さんはテレビ番組や美食雑誌などでも「伝説の罠師」として紹介されており、今回の取材でも「高速道路を走行しながら山を眺めるだけで、獣道がどこにあるのか分かる」「罠は独自開発したものを使っている」「シカの4本の脚のうち、どの脚がかかるかまで計算して罠を仕掛けられる」「ナイフをシカの首元から心臓方向へ突き刺し、心臓の血管を正確に切って血抜きしている」など驚異的な情報がどんどん飛び出しました。というわけで、古田さんのシカ狩りの極意やシカを食べることの意義についてまとめた記事を近日中に公開予定です。
<つづく>
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