Wikipediaでイスラエルとハマスの戦争の記事を巡って激しい編集合戦が起きている – GIGAZINE


Wikipediaは世界最大のオンライン百科事典であり、世界中のボランティア編集者によって日々膨大な項目が編集されていますが、中には編集者が特定の政治的思想に偏った記述をしたり、事実と反する内容を記載したりして編集合戦に発展するケースもあります。海外メディアのBloombergが、「イスラエルとハマスの戦争に関するWikipediaのページで、編集者同士の争いが起きている」と報じました。

Wikipedia Struggles to Moderate Volunteer Editors on Gaza, Israel, Hamas – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-03-07/wikipedia-editors-struggle-to-moderate-conflict-in-gaza

Wikipediaにおける論争について裁定を下す裁定委員会は2025年1月、イスラエルとパレスチナに関するWikipediaの項目で、「ソックパペット(多重アカウント)による編集」が問題になっていると報告しました。裁定委員会によると、イスラエルとパレスチナに関するトピックでは、メインスペースの編集の約7%が既知の多重アカウントによって行われており、政治的な論争の場になっているとのこと。

たとえば2024年には、パレスチナ自治区のガザ地区中央部に位置するヌイセラト難民キャンプで起きた戦闘について2つの異なる内容が記されたWikipediaの記事が作成され、それぞれが同時に公開された状態が6カ月間にわたり継続しました。2024年6月に起きたヌイセラト難民キャンプでの戦闘では、イスラエル国防軍がハマスと銃撃戦を繰り広げると共に空爆を実施し、4人の人質を救出しました。一方でハマスが運営するガザ保健省は、この作戦で子どもを含むパレスチナ人274人が死亡したと発表しています。

こうした編集合戦は今に始まったことではなく、一部の人々は「Wikipediaの記述は政治的に偏っている」と批判してきました。X(旧Twitter)のオーナーやテスラのCEOを務めるイーロン・マスク氏は、「Wikipediaの予算1億7700万ドル(約260億円)のうち、5000万ドル(約74億円)以上が多様性、公平性、包摂性に費やされていることが明らかになった」というXへの投稿を引用し、「編集権限のバランスが回復するまで『Wokepedia』への寄付をやめろ」と呼びかけています。


Bloombergは、非営利団体であるWikipediaで起きている編集合戦について、「活発的な議論や歩み寄りが扇動的なレトリックや独善に取って代わられた今日の社会で渦巻く不和」を反映するものだと指摘。これにより、中立的な内容を公正かつ正確な方法で提供するというWikipediaの目標は達成することが難しくなっており、同じ課題をその他の報道機関も抱えているとのこと。

Wikipediaはインターネット上で最も多くユーザーが訪れるウェブサイトの1つであり、また近年の生成AIのトレーニングやデータソースにも用いられていることから、中立性が損なわれることの影響は大きいものとなり得ます。たとえば、イスラエルとハマスの戦争に関する英語版Wikipediaのページは累計で980万回以上も閲覧されており、1日の平均閲覧数は2万1000件回を超えています

一連の問題について、Wikipediaの共同創始者であるジミー・ウェールズ氏はBloombergへの電子メールで、中東を巡るWikipedia上での対立は日常茶飯事だと主張。Wikipediaの広報担当者も、Wikipediaの編集プロセスとコンテンツモデレーションシステムは、イスラエルとハマスの戦争についても正常に機能していると述べました。

しかし、近年は特にユダヤ人との結びつきが強いグループやメディアの間で、Wikipediaの信頼性への疑念が高まっています。2024年3月に開かれた世界ユダヤ人会議では、「英語版Wikipediaの項目には反イスラエル的な偏見が含まれている」という報告書が発表されました。また、イスラエルと世界中のユダヤ人をカバーするユダヤ・ニュース・シンジケートは、2024年11月に「Wikipediaの反イスラエルプロパガンダは、客観性をあざ笑い信頼性を破壊する」と題した意見記事を発表し、Wikipediaはイスラエルを中傷して非合法化するために活動する集団に乗っ取られていると非難しました。

さらに2025年1月にはユダヤ系報道機関のForwardが、「アメリカの保守系シンクタンクであるヘリテージ財団が反ユダヤ主義的なWikipedia編集者を特定し、標的にする計画を持っている」と報じました。これは、匿名であるはずのWikipedia編集者の身元を明かすことを意味しており、ウェールズ氏もこの件について懸念を表明しました。しかし、Wikipediaのもう1人の共同創始者であるラリー・サンガー氏は、Wikipediaは左翼的すぎると以前から批判しており、ヘリテージ財団の計画を支持しているとのこと。

反ユダヤ主義的なWikipedia編集者を特定・標的にする計画を保守系シンクタンク・ヘリテージ財団が推進していることが判明 – GIGAZINE


2025年1月には11人のWikipedia編集者が、「非中立的な編集を行った」「無礼な行為がみられた」「Wikipedia外で恣意(しい)的な編集を承認するためのチームを作ろうと調整した」などの理由で、裁定委員会によってイスラエルとパレスチナ関連のページの編集を禁止されました。このうち1人はソックパペットによってWikipediaから無期限に追放されたそうで、これらの編集者のうち3人は親イスラエルの立場、7人は親パレスチナの立場だったとされています。

また、2024年初頭には親イスラエルのキャンペーンに関与した3人のWikipedia編集者が、裁定委員会の調査を受けてWikipediaから追放されていたことも判明しました。これらの編集者は2023年10月7日にハマスがイスラエルに攻撃を仕掛けた直後に活動を開始し、他の編集者にメールを送信して戦争に関するページの修正を指示し始めたとのこと。また、10月16日には3人のうち1人が、ガザ地区での戦争をイスラエルによる「虐殺」と呼んだ記事を削除するよう呼びかけたそうです。

中東問題に焦点を当てるWikipediaの編集者や管理者らは、Bloombergの取材に対し、イスラエルやパレスチナを巡る紛争が前例のないほどの内部的混乱を引き起こしていると証言しています。これらの編集者らは、Wikipedia上では自らの政治的立場を抑えて中立的に活動しているものの、イスラエルとパレスチナ問題の記事に現れる新人編集者らの多くは、正確性や中立性といったWikipediaの基本原則を守ることに興味がないとのこと。

同様の問題はイランに関連するWikipediaのページでも起きているそうで、2024年1月にはイランを否定的に記した記述を削除したとして、5人の編集者に対して苦情が申し立てられています。5人の編集者は反政府抗議活動の写真や記述を削除し、誰かが監視下に置かれた時は別の編集者が作業を代わるなど、互いにバックアップして編集作業を行っていたことがわかっています。

ある裁定委員会のメンバーは2024年8月に投稿した記事の中で、裁定委員会はイスラエルとパレスチナの記事にまつわる問題について、「編集者の問題行動の泥沼を処理する力が尽きてしまいました」「イスラエルとパレスチナの問題はゴルディアスの結び目です。この結び目をほどく力が不足しています」と記したとのことです。

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