注意力が散漫になる「ADHD」は狩猟民族の名残である可能性 – GIGAZINE


注意欠如多動症(ADHD)は、じっとしていられなかったり順番を待つことができなかったり、気が散りやすくミスをしやすかったりと、衝動性や過活動、不注意などの症状が見られる神経発達症の一種です。ADHDは基本的に生まれつきの症状で、決定的な原因は不明とされていますが、「ADHDは狩猟採集社会で遺伝子に根付いた性質」であるとする仮説について、専門家が解説しています。

The Hunter-Gatherer ADHD Brain | Psychology Today
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/brain-curiosities/202502/the-hunter-gatherer-brain-of-adhd


ADHDは世界的人口の5~7%存在していると言われています。専門家の中には、ADHDは現代社会の環境が生んだ「文明病」であると主張する人もいる一方で、何千年も前から存在している明確な理由のある症状だと考える人もいます。

スペインのポンペウ・ファブラ大学の進化生物学者らが2020年に公開した論文では、ネアンデルタール人と古代ホモサピエンスの遺伝子サンプルを用いて、ADHDの痕跡をゲノム解析しました。結果として、ADHDに関連する遺伝子は発達に不可欠な遺伝子の中にあることが発見され、この特性は人間の祖先の初期社会で獲得された可能性があると研究者らは報告しています。また、遺伝子変異は初期ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の両方に存在し、旧石器時代以降は集団内で変異が見られる割合は着実に減少していったとのこと。

ADHDに関して解説する書籍「ADHDユーザーズマニュアル」を執筆した神経生理学者のルドヴィコ・サン・タムール・ディ・シャザス氏によると、ADHDは現代社会のさまざまな圧力によって生じた文明病というより、古くから存在したが現代では活用できなくなった性質である可能性が考えられるそうです。たとえば、ADHDの人は注意散漫で睡眠サイクルも遅れる傾向にあり、じっと集中できず動き回ったり遅刻が多かったりといった問題がありがちです。一方で、狩猟採集社会においては、安全や食糧の確保に探索行動が不可欠であり、活動的で常に周囲を警戒する能力につながります。また、全員が眠っている間にコミュニティを危険から守るために、睡眠サイクルを遅らせることができる一部の人が重宝されます。


アメリカのノースウェスタン大学の人類学者らが実施した研究では、ケニアの2つの部族を対象として、ADHDと関連していることが多いとされる遺伝子変異を持つ人の社会的地位と栄養状態が調査されました。結果として、遊牧民の部族ではこの遺伝子変異を持つ人の社会的地位と栄養状態は良好だった一方で、定住民の部族では同じ変異を持つ人は栄養失調気味で信頼できない人物と見なされる傾向にあったことが報告され、ADHD傾向が社会の性質によって異なる評価をされる可能性が指摘されています。

ペンシルバニア大学の研究者らが2024年2月に発表した論文では、オンラインで「茂みの上にカーソルを置いて、8分間でできるだけ多くの果実を集める」という探索タスクを参加者に課した上で、参加者にADHDスクリーニングテストを実施しました。結果として、ADHD傾向のある人はひとつの茂みからある程度果実を収集したらすぐ次の茂みに移り、探索行動に費やす時間が多かったとのこと。一方で、非ADHDの参加者は、ひとつの茂みからすべての果実を採集することにこだわる傾向にあり、全体の探索行動は少なくなりました。研究者らは「私たちの研究結果は、ADHDの特性が一部の環境では食糧を採集する際の利点をもたらす可能性があることを示唆しています。ADHDの人は、探索を好む性質を遺伝子的に保持している可能性があります」と結論付けています。

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シャザス氏は「最近の研究から、運動、日光に当たること、自然環境はすべてADHD患者に有益であり、症状の管理とポジティブな感情に役立つことがわかっています。ADHDの不利益を最小限に抑えるためには、遊牧民のライフスタイルに組み込まれたこれらの調節活動が必要であり、8時間デスクに座って仕事をするような社会では、ADHDの特性が混乱を招きやすくなっています。ADHDが狩猟採集民族の名残だとする仮説は、『すべての人にとって、朝8時ごろから夕方19時頃まで活動するというライフスタイルが適切なわけではない』という洞察を与えてくれます」と述べています。

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