ナルコレプシーは居眠り病とも呼ばれる睡眠障害であり、場所や状況を選ばず日中にも強い眠気に襲われることが特徴です。そんなナルコレプシー患者の脳は驚くほど若々しいとのことで、睡眠と認知症を研究する手がかりになる可能性があると研究者らが主張しています。
ナルコレプシーは脳が起床や覚醒サイクルを調節する能力が損なわれ、日中にもかかわらず突然耐えがたいほどの眠気に襲われる睡眠障害です。また、よく知られている日中の眠気に加え、意識があるのに体を動かせない金縛り(睡眠まひ)、入眠時の強い幻覚、夜間の頻繁な中途覚醒、熟睡が困難になるといった症状もあります。
ナルコレプシーは大きく「ナルコレプシー1型(NT1)」と「ナルコレプシー2型(NT2)」に分けられ、NT1の方が比較的症状が重いほか、NT1の患者には激しい感情の高ぶりに合わせて筋肉が弛緩(しかん)するカタプレキシーという症状がみられます。カタプレキシーの程度は患者によってさまざまで、わずかに脱力感を覚える程度のこともあれば、体を支えきれず転倒してしまう場合もあるとのこと。
そんなナルコレプシーを引き起こすとされているのが、筑波大学の睡眠学者である柳沢正史氏らのグループが発見したオレキシン(ヒポクレチン)という神経伝達物質の欠乏です。オレキシンは睡眠や覚醒を調節する物質であり、ナルコレプシー患者では視床下部のオレキシン産生細胞が消滅していることがわかっています。
睡眠時間は認知症リスクと密接にかかわっており、慢性的な睡眠障害は認知機能の低下および認知症と関連しています。そのため重度の睡眠障害を呈するNT1は、脳の早期老化を引き起こす要因であると予想されます。
ところが利用可能なバイオマーカーや神経画像所見からは、NT1と脳の老化との関連性を裏付けることはできず、慢性的な睡眠障害に伴う早期老化が確認できないことが報告されています。ナルコレプシーと認知症に関する新たなレビューを発表したブラジルの研究チームは、この結果は睡眠と神経変性疾患を結びつけるメカニズムにおけるオレキシンの役割について、疑問を呈するものだと主張しました。
いくつかの証拠は、オレキシンの減少によって睡眠障害が人の脳に与える影響を変化させる可能性を示唆しているとのこと。研究チームは、「NT1における選択的なオレキシンの喪失は、特に病理学的プロセスへの感受性が高い神経系内において、加齢に伴うストレス要因がどのように統合されるのかを変化させる可能性があります」と述べています。

たとえば動物モデルを用いた実験では、オレキシンはアルツハイマー病に関与するアミロイドβタンパク質の産生と蓄積に影響を与えており、オレキシンを阻害することでアミロイドβタンパク質の蓄積量が減少することが示されました。
オレキシン遺伝子を欠損させたマウスを用いた別の研究では、睡眠時間の増加に伴ってアミロイドβタンパク質が減少することが報告されています。これらの研究結果は、オレキシンとアミロイドβタンパク質の関連性は少なくとも部分的に、オレキシンだけでなく睡眠時間にも影響されていることを示唆するものです。
ナルコレプシーと睡眠について考える時は、「覚醒時間の総量」と「覚醒を維持する能力」を区別することも重要です。ナルコレプシー患者は一般的な人よりも睡眠時間が長いと思われがちですが、夜間の睡眠が断片的になることで日中の睡眠が相殺されるため、全体として睡眠時間が長いとは限らないとのこと。2008年の研究では、オレキシン欠乏マウスと通常のマウスの総覚醒時間はほぼ同じだったと報告されています。
研究チームは、「ナルコレプシーが認知症に対する予防効果をもたらすと主張しているわけではありません。アルツハイマー病の症例はまれではありますが、ナルコレプシー患者でも報告されています」とコメント。その上でナルコレプシーは、オレキシンと睡眠および覚醒の変化が脳の老化に与える影響を知る手がかりになると主張しました。
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