しかし、脂質を炭水化物よりも先に摂取した場合、どのような仕組みで胃排出が遅くなって血糖値上昇が抑制されるのかはよくわかっていませんでした。そこで京都大学や関西電力医学研究所などの研究チームは、マウスにさまざまな条件でオリーブオイルとブドウ糖を投与する動物実験を行いました。
実験では一晩絶食させたマウスを「水を飲んだ15分後にブドウ糖(炭水化物)を摂取するグループ(対照群)」「オリーブオイル(脂質)を摂取した15分後にブドウ糖を摂取するグループ(前負荷実験群)」「ブドウ糖を摂取した15分後にオリーブオイルを摂取するグループ(後負荷実験群)」に分け、食後の血糖値や胃排出の時間を調べました。
実験の結果、ブドウ糖の前にオリーブオイルを摂取した前負荷実験群では、対照群や後負荷実験群と比較してブドウ糖摂取から15~30分後の血糖値上昇が抑えられることがわかりました。
以下のグラフは縦軸がマウスの血糖値、横軸がブドウ糖摂取後の時間となっており、灰色が対照群、赤色が後負荷実験群、青色が前負荷実験群を表しています。先にオリーブオイルを摂取した前負荷実験群では、明らかにブドウ糖摂取15~30分後の血糖値が低い傾向が見て取れます。

以下の2つのグラフは、血糖値増加量を面積で算出した血糖曲線下面積(AUC)をブドウ糖摂取後60分間(左)、ブドウ糖摂取後120分間(右)で表したもの。前負荷実験群(青色)の方がAUCも低い傾向にありますが、その差はブドウ糖摂取後60分間より120分間の方が縮まっており、オリーブオイル摂取による血糖値抑制効果は食後間もない時間に発揮されることがわかります。

胃排出時間の差を表した以下のグラフを見ると、前負荷実験群では胃排出が遅くなっていることがわかります。食物が小腸へ移動する時間が遅くなると、その分だけブドウ糖が血液に吸収されるのが遅くなり、血糖値の上昇が抑制される可能性があるとのこと。

前負荷実験群では、血糖値に関連するグルカゴン・グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)・グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)といったホルモンの分泌が早期に増加することも確認されました。
ところが、研究チームがグルカゴンとGLP-1を産生できないマウス(Gcg欠損マウス)を用いて実験したところ、ブドウ糖の前にオリーブオイルを摂取したことによる血糖値上昇抑制効果や胃排出の遅延がみられなくなりました。グルカゴンとGLP-1のどちらか一方を阻害した場合では、依然として有益な効果がみられたことから、グルカゴンとGLP-1は部分的に補い合って作用していることが示唆されています。
また、消化やホルモン分泌に関わる迷走神経を外科的に阻害したところ、グルカゴンとGLP-1の応答は保たれたものの、オリーブオイルの摂取に伴う血糖値上昇抑制効果は弱まり、胃排出の遅延も確認されなくなりました。この結果は、迷走神経がホルモンのシグナルを胃の運動の変化につなげている可能性を示唆するものです。
一連の結果は、2型糖尿病でありインスリン分泌能力が著しく低下したマウスでも再現されました。以下のグラフは2型糖尿病のマウスにおけるAUCと胃排出時間について、実験群・後負荷実験群・前負荷実験群で比較したもの。

また、オリーブオイルではなくアマニ油・ラード(豚脂)・ココナッツ油でも早期の血糖値上昇が抑制され、胃排出が遅延することが確認されました。以下のグラフは魚油・アマニ油・オリーブオイル・ココナッツ油・ラードをブドウ糖の前に摂取した場合のAUCと胃排出時間を、対照群と比較したもの。魚油では対照群とそれほど大きな差がみられませんが、アマニ油・ココナッツ油・ラードではオリーブオイルほどではないものの効果がみられます。

研究チームは、「本研究は、脂質を糖質より先に摂ることで、互いに補い合うグルカゴンとGLP-1のシグナル、および迷走神経を含む内分泌・神経ネットワークが働き、胃排出と食後血糖が調節される可能性を示しました。実践しやすく持続可能な食事療法として注目される「食べる順番」の作用機序に、新たな生理学的根拠を与える成果です」と述べています。
なお、今回の研究はあくまでマウスを対象に行われたものであり、人間でも同様の効果が出るかどうかを知るにはさらなる研究が必要です。研究チームは、脂質だけでなくタンパク質が血糖値上昇に及ぼす影響についても研究しており、より効果的な「食べる順番」について探っているとのことです。