瞑想(めいそう) は宗教的な修行だけでなく心身を落ち着かせる手段としても注目を集めており、リラックスやストレス軽減効果があるとされています。そんな瞑想に関する講義や実践に取り組む1週間の瞑想合宿に参加した人々の脳に、幻覚剤で起きるものと似た変化が現れたとの研究結果が報告されています。
Neural and molecular changes during a mind-body reconceptualization, meditation, and open label placebo healing retreat: an observational study | Communications Biology https://www.nature.com/articles/s42003-025-09088-3
瞑想をはじめとする心身療法は長年にわたり世界中の文化で実践されていますが、これらの療法の根底にある生物学的メカニズムにはわかっていないことも多々あります。そこで、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校のヘマル・パテル 教授らの研究チームは、瞑想合宿に参加した人々の脳にどのような生物学的変化が生じるのかを調べました。
今回の研究では、神経科学教育者であり『あなたという習慣を断つ ― 脳科学が教える新しい自分になる方法 』などの著書があるジョー・ディスペンザ博士が主催する「7日間の瞑想合宿」に参加した561人のうち、無作為に選ばれた20人が被験者となりました。被験者の平均年齢は46歳で、うち14人が女性であり、11人は瞑想を少なくとも6カ月間実践した経験者でしたが、残る9人は瞑想初心者だったとのこと。
7日間の瞑想合宿では、被験者は「身体の自己治癒能力」「現実を形作る心の力」「今この瞬間に集中すること」「神秘的体験が持つ癒やしの力」などに関する講義を毎日受けたり、ガイド付き瞑想セッションに参加して意識的な呼吸法を実践したり、グループ形式のヒーリング儀式に参加したりしました。
被験者らは合宿の前後で、脳活動をリアルタイムで測する機能的磁気共鳴画像法(fMRI) による脳スキャンを受けたほか、血液検査を用いて代謝活動や免疫活性化などの生物学的機能の変化についても測定されました。また、幻覚剤を服用していない状態での神秘的な状態や感情を測定するため、神秘体験質問票(MEQ-30)への回答も求められました。
データを分析したところ、被験者らは瞑想合宿への参加後に複数の検査で顕著な変化を示していました。fMRIスキャンのデータからは、合宿後の被験者では空想や想像といった自己参照的で内向きな思考に関連するデフォルトモードネットワーク の脳活動が低下していることや、内外の刺激を検出するのに役立つ顕著性ネットワーク の脳活動も低下していることがわかりました。研究チームによると、瞑想は脳内の分断された活動レベルを低下させ、情報の流れがより効率的になるように脳機能全体を効率化したとのこと。
また、瞑想合宿に参加した被験者の血漿(けっしょう) を実験室で培養した神経細胞 に塗布したところ、神経細胞から伸びる神経突起 が有意に長くなったことも確認されました。これは、脳が神経結合を再配線する能力である神経可塑性 が、瞑想合宿によって向上する可能性を示唆しています。
被験者の血液分析では、グルコース(ブドウ糖) をエネルギーに変換する解糖系 代謝の増加や、体内の天然鎮痛物質である内因性オピオイド の濃度上昇、炎症性および抗炎症性の免疫シグナルの増加、脳機能に関連する遺伝子および分子シグナル伝達の変化などが確認されました。
さらにMEQ-30への回答を瞑想合宿の前後で比較したところ、神秘的な体験に関するスコアが2.37から3.02へと有意に上昇していることも判明しました。このスコアの有意な上昇は、幻覚剤の使用でみられる変化に匹敵するとのこと。
パテル氏は、「通常はシロシビン (マジックマッシュルームの幻覚成分)を必要とするような神秘体験や神経結合パターンが、瞑想の実践だけで得られることを確認しています。脳スキャンで中枢神経系の変化が見られ、血液化学検査で全身的な変化が見られることから、これらの心身療法は全身レベルで作用していることが強調されています」とコメントしました。
なお、今回の研究はあくまで小規模な被験者を対象にした観察研究であり、実際に瞑想がこれらの変化を引き起こしたという因果関係を証明したものではない点に注意が必要です。因果関係について理解するには、より厳密に管理された研究デザインが求められます。
とはいえ、瞑想が脳活動 や身体 に及ぼす影響は以前から報告されており、今回の研究結果は既存の研究結果を裏付けるものといえます。
パテル氏は、「長らく瞑想のような習慣が健康に影響を与えることが知られてきました。しかし驚くべきは、複数の心身統合療法を1つの合宿に組み合わせることで、脳や血液において直接測定可能なほど多くの生物学的システムに変化が生じたことです」と述べました。
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