慢性疲労症候群(CFS)は長期にわたる極度の身体的疲労、情報処理や記憶と言った認知機能の低下、頭痛や関節の痛み、睡眠障害といった症状が現れる病気です。そんな慢性疲労症候群が脳の老廃物除去システムと関連している可能性があると、オーストラリアの研究チームが報告しました。
慢性疲労症候群は筋痛性脳脊髄炎(ME)とも呼ばれ、仕事や日常生活にも支障を来す深刻な病気ですが、患者の精神的な問題であると誤解されることも多いとのこと。しかし近年では、慢性疲労症候群に関連する明確なバイオマーカーが遺伝子・脳脊髄液・血液・腸内細菌叢(そう)などに存在していることが判明し、免疫系や炎症と関連する全身的な健康問題であることが示唆されています。
今回、オーストラリアのグリフィス大学の研究チームが着目したのは、慢性疲労症候群と脳の老廃物除去システムとの関連です。脳の老廃物除去システムはグリンパティックシステムと呼ばれ、脳室の脈絡叢から分泌される脳脊髄液が脳内に流入し、有害物質や死んだ細胞組織を脳から洗い流す仕組みとなっています。
グリンパティックシステムに関する研究の多くはマウスを用いた動物実験に基づいていますが、人間においてもグリンパティックシステムの問題がパーキンソン病や精神疾患に関連しているとの研究結果が報告されています。
研究チームは慢性疲労症候群の患者31人の脳をスキャンし、健康な対照群27人の脳と比較しました。通常、グリンパティックシステムの画像化は脳脊髄液にトレーサーを注入することで行われます。しかしこの方法は侵襲的であるため、研究チームは脳内の細い血管を取り囲む微細な通路への脳脊髄液の拡散速度を測定することで、グリンパティックシステムの機能を推定するという非侵襲的な手法を用いたとのこと。
この手法は直接的かつ精密な結果を得ることは難しいものの、患者に大きな身体的負担をかけずにグリンパティックシステムの機能を評価するのに役立ちます。すでにこの手法によってパーキンソン病・アルツハイマー病・高血圧症・多発性硬化症の患者において、グリンパティックシステムが変化していることが示唆されています。
分析の結果、研究チームは慢性疲労症候群の患者においても、グリンパティックシステムの機能低下がみられることを発見しました。さらに、この機能低下は脳の右半球のみにみられ、左半球にはみられないことも確認されました。
研究チームは論文で、「このような脳半球の非対称性は、側頭葉てんかん・パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者で報告されています」と述べています。興味深いことに、慢性疲労症候群患者の睡眠障害や集中力の低下(ブレインフォグ)がひどいほど、脳の右半球におけるグリンパティックシステムの機能障害が顕著になったとのことです。
論文の筆頭著者であるグリフィス大学国立神経免疫・新興感染症センターのキラン・タパリヤ博士は、「この研究は、MRIを用いてME/CFSにおけるグリンパティック機能の障害を初めて実証したものです」「これは、脳の自然な浄化システムの機能不全が、この症状の主な原因である可能性を示唆しています」と述べました。

今回の研究では、慢性疲労症候群の患者で脳の右半球のみにグリンパティックシステムの機能低下が起きる理由や、これがどのように慢性疲労症候群の症状を引き起こしているのかはわかりません。しかし、脳の老廃物除去システムが毒性物質を効率的に除去できない場合、中枢神経系の炎症が悪化し、神経症状を引き起こす可能性があると考えられています。
グリフィス大学国立神経免疫・新興感染症センターのソニア・マーシャル=グラディスニック教授は、グリンパティックシステムの機能低下はブレインフォグだけでなく睡眠障害も引き起こすと指摘。「今回の研究では、睡眠の質が悪いと脳内の老廃物排出機能が悪化することがわかり、睡眠が脳の健康維持に重要な役割を果たしているという考えが裏付けられました。今回の研究結果が、非侵襲的な手法を用いたより良い診断、そして何よりも患者の将来的な治療への道を開くことを期待しています」と述べました。
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