ナイキが発表した「脳を活性化する靴」で集中力は上がるのか?足裏への刺激と脳の関係を脳神経外科医が解説 – GIGAZINE


運動靴の売り文句は「履き心地」や「走りやすさ」だけにとどまらなくなりつつあり、ナイキは足裏への刺激によって脳を活性化し、感覚の鋭さや集中力を高められるとする靴を2025年10月に発表しました。プレスリリースでは「1足あたり22個のフォームノードが地面の感触を伝え、雑念を払い集中を助ける可能性がある」と説明されていますが、これに対して脳神経外科医でドレクセル大学医学部の教授でもあるアトム・サルカー氏は「足裏への刺激だけで集中力が上がるとするのは危うい」と指摘しています。

Can shoes alter your mind? What neuroscience says about foot sensation and focus
https://theconversation.com/can-shoes-alter-your-mind-what-neuroscience-says-about-foot-sensation-and-focus-273759


足裏には圧力・振動・質感・動きなどを検知する機械受容器が多数あります。そこで拾われた信号は末梢神経から脊髄を通り、脳の体性感覚野へ届きます。体性感覚野には、身体の部位ごとに感覚情報を受け持つ「担当エリア」が並んでおり、感覚が重要な部位ほど広い領域が割り当てられています。姿勢・バランス・歩行に深く関わる足も一定の領域を占めるとされています。

靴は身体が空間内のどこにあるかを把握する固有受容性感覚にも影響します。固有受容性感覚は筋肉・関節・腱などからの入力にも支えられており、足裏からのフィードバックが変わると、立ち方や歩き方が変化することがあります。神経内科や理学療法の現場でバランス障害・末梢神経障害・歩行の問題を抱える人の靴が重視されるのは、感覚入力を変えることで動作が変わる可能性があるためです。

ただし、「動きに影響する」ことと「認知機能が上がる」ことを同一視してはいけません。足裏への刺激で姿勢が安定し「落ち着いた感覚」や「地に足が着いた感覚」を得ることはあるかもしれませんが、それがそのまま集中力の向上を意味するわけではないとサルカー氏は述べています。

薄底で柔軟性の高い「ミニマリストシューズ」は、厚いクッションの靴よりも触覚や足の位置に関する情報が脳へ届きやすくなります。過去の実験では、クッションを減らすことで接地のタイミングや足の置き場所への自覚が増し、バランスや歩容の安定性が改善する例も報告されています。


しかし、「感覚の入力が多ければ多いほど良いとは限らない」とサルカー氏は言います。脳は感覚情報を常に取捨選択しており、役に立つ情報を優先し、邪魔になる情報を抑え込みます。ミニマリストシューズに慣れていない人が急にミニマリストシューズを履いて足裏への刺激を増やすと足への注意が強まり、かえって認知負荷が増える可能性があるとサルカー氏は指摘しています。

ナイキが発表した靴に対してサルカー氏が特に懐疑的なのは「足裏への刺激で集中力が上がる」とされている部分です。足裏への刺激で体性感覚野が活動すること自体は不自然ではありませんが、脳が活動したことと、集中力や実行機能が改善することは別問題だとサルカー氏は説明しています。集中や注意は前頭前野・頭頂葉・視床など複数領域のネットワークで支えられており、ドーパミンノルアドレナリンなどのホルモンも関わります。

凸凹ソールや特殊な形状などによる「受動的な足裏への刺激」が健康な成人の集中力を明確に高める強い証拠は乏しいとサルカー氏は主張しています。文脈次第では軽い刺激が覚醒度を少し上げる可能性があっても、効果は小さく条件依存になりやすいとのこと。単に刺激が増えたからといって、注意システムがうまく働くようになるとは限らないとサルカー氏はまとめています。


それでも、履いた人が「集中しやすい」と感じること自体は否定できないとサルカー氏は言います。期待や信念が知覚・動機・パフォーマンスに影響するプラセボ効果はよく知られており、「靴が効く」と信じるだけでも行動や感じ方が変わる可能性があります。

また、姿勢や動き、身体の安定が気分や自信、頭の冴えた感覚に影響するという身体化された認知の考え方もあります。靴によって立ち方や歩き方が変われば、間接的に「集中できている感覚」が変化する余地はあるとのこと。

問題なのは「神経系に影響すること」と「認知機能を強化すること」の境界をマーケティングが曖昧にしてしまう点だとサルカー氏は主張しています。神経科学から言えるのは「靴が感覚入力・姿勢・動作を変える可能性がある」というところまでで、一般の人に対して「集中力や注意を確実に高める」と断言できるほどの強く再現性のある効果は今のところ確認されていないとサルカー氏は結論づけています。

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