人間は学校に通うことで、知識を身につけ、集団生活において必要となるコミュニケーション能力や倫理観などを学びます。短くても9年、長ければ十数年にわたって学校に通う人もいますが、学校で優れた成績を収めても、社会に出て同じように成功できるとは限りません。「学校で学んだルール」に縛られ、社会で思い通りのパフォーマンスを発揮できない人向けに、リーダーシップ開発に特化したコーチング、コンサルティング、トレーニングなどを提供するLeading Sapiensがアドバイスしています。
Work is Not School: Surviving Institutional Stupidity
https://www.leadingsapiens.com/surviving-institutional-stupidity/
組織は純粋な実力主義でもなければ、明確な基準だけで動いているわけでもありません。企業はしばしばデータなどを使って実力主義であることや、明確な基準をベースに動いていると主張しますが、それは表向きの話に過ぎません。実際は「歪んだ心理」「不完全な意思決定」「利害のぶつかり合い」などが存在していることは明らかです。Leading Sapiensはこれを、「組織の不条理」あるいは「組織的愚かさ」と表現しています。
そんな「組織的愚かさ」に対処するための10のアドバイスは以下の通り。
◆1:必要なら悪意でなく愚かさを責める
仕事の中で「社内政治」や「裏切り」といった悪意があると考えてしまう人がいますが、現実は愚かさ・惰性・悪いインセンティブ・集中力の欠如・認識のズレなどで説明できるケースが多いとLeading Sapiensは指摘しています。
周囲が悪意を持っていると考えるのではなく、ただただ愚かであると仮定することで、感情的にならずに済み、被害者意識や被害妄想にとらわれずに行動できるとLeading Sapiensはアドバイスしました。これにより、自分の選択肢や主体性も持ちやすくなるとのこと。
悪意を前提にすると冷笑的になり、愚かさを前提にすると好奇心を保てるとLeading Sapiensは記しています。これは仕組みの裏側に何があるのかを理解し、「あの人はどんなプレッシャーにさらされているのか?」などと考えられるようになるためです。
これらを総合して、Leading Sapiensは「誰も自分を『陥れようとしている』のではなく、『週末まで生き延びることに精一杯』であると考えることで、余裕と好奇心が生まれます」とアドバイスしました。
◆2:組織は決して実力主義ではない
管理職は「うちは実力主義だ」と言いがちですが、「優秀な人」が必ずしも上に行けるとは限りません。むしろ、報われるのはパフォーマンスよりも「権力との距離」「タイミング」「印象」「政治的な有用性」です。だからといって成果が不要というわけではなく、成果だけでは不十分という意味であるとLeading Sapiensは指摘しています。
「優秀なら自然と評価される」と誤解してしまうことがあります。たしかに成果は価値を創出できますが、それが可視化され、影響力や物語となるとは限りません。実力は大切ですが、「舞台」と「スポットライト」が必要です。自己宣伝マシーンになれというわけではなく、正しく「成果を届ける方法」、つまりは流通戦略が必要であるとLeading Sapiensはアドバイスしました。
◆3:認識(印象)は成果と同じくらい重要
学校では全員が同じ基準で評価され、フェアさが保障されています。しかし、組織にそのような仕組みはありません。組織においては「認識(印象)」イコール「データ」であり、このデータは実は雑に、断片的なインプットだけで忙しい人々によって構築されたものです。ストーリーを自分でマネジメントし、印象を意図的に操作する必要があります。
成果と同じくらい、「誰にどう見られるか」が重要であるとLeading Sapiensは主張しているわけです。「いい仕事をする」だけでなく、こなした仕事が「価値ある仕事」に見えることを意識し、自分の仕事の意味を理解してもらうために「翻訳」し、「物語」や「解釈」を作る必要があると説明しています。
これを怠れば、他人が勝手に自分の仕事について語ってしまい、必ずしも正確・好意的に自身の仕事が解釈されるとは限りません。
◆4:「客観的な公正」のために無駄に戦わない
表面上、組織はKPIやOKRなどの数値で管理されており、これで「客観性」を担保します。しかし実際には、「信頼できる人は誰か」「誰にチャンスが与えられるか」など、非公式な評判や人づてに形成された「価値物語」が先行しており、その上で「データ」により理由付けされます。
このようなシステムはおかしいと怒るのではなく、裏で流れている「主観的なロジック」を読めるようになる必要があります。具体的には「その人は誰を信頼し、なぜ信頼しているのか?」や「何を戦略的と見なし、何を戦術的と見るのか?」を理解できるようになるという意味です。
Leading Sapiensは「主観性は『敵』ではなく、組織の基本構造です」と記しています。
◆5:自分の強みの位置づけを意識する
なぜ今なのか、なぜ自分なのか、なぜこの方法なのか。素晴らしいアイデアや高いパフォーマンスも、位置づけが悪ければ無意味になります。その逆で、中くらいのものでも位置づけひとつで「先見の明」と見なされることがあります。
問われるのは「何を言うか」だけではなく、「いつ」「どうやって」「誰を通じて」言うかです。粘り強さも大切で、「一度きり」でなく「キャンペーン」として考える必要があります。人生は「一撃必殺の津波」ではなく、「何度も波が打ち寄せて岸を変える」ようなものです。多様な形でメッセージを出し続けることが、後に大きな差になるとLeading Sapiensは説明しています。
◆6:自分と相手の基準のギャップに気付く
誰もが同じルールで動いているわけではありません。自分が「中身」や「貢献」重視であったとしても、相手は「見せ方」や「人間関係」を重視している可能性があります。日頃の仕事でも「普通のことを『戦略的』に見せる人」もいれば、「関係構築で影響力を積み重ねる人」もいます。
これを「社内政治」と切り捨てるのではなく、現実を正しく理解することが重要です。見たくない現実から目を背ける限り、ゲームに本気で参加することはできません。「誠実さ」を保ちながら不利になるのは、「影響力が多様なチャネルで動く現実」を見落としているからかもしれません。
「公平を期待するより、不均衡を想定し、臨機応変に動くことが重要」「倫理的であることは、受動的であることではなく、戦略的警戒心を持つことです」とLeading Sapiensはアドバイスしました。
◆7:出世するほど地位は狭まり、曖昧さが増す
組織で高い地位を持つ人の数は少なく、曖昧で主観的な世界でもあります。地位が高くなれば、何が「良いパフォーマンス」であるかも不明確になります。
「全て正しくやっても昇進できなかった」としても、これは能力や価値の否定ではなく「構造上の必然」と考える必要があります。つらい場面でこそ踏みとどまる習慣が、「長期戦」を生き抜く力となるはずです。最大の武器は「高いフラストレーション耐性」です。陳腐なようで、実際はとてもパワフルな特性であるとLeading Sapiensは主張しました。
◆8:どのゲームで戦うか自覚する
組織では単一のゲームだけがあるのではなく、複数のゲームが同時に進行しています。長期的信頼を築こうとする人もいれば、短期的な注目や認知度を優先する人もいます。すべてに全力投球する必要はなく、するべきではありません。
むしろ無自覚に他人のゲームに巻き込まれることが一番危険です。他人の基準で競争してしまい、自分に合わない役割や昇進を追って疲弊してしまう可能性があるためです。
どの道を選ぶにせよ、善し悪し含め「自分の選択として受け入れる」ことが必要となります。「持続的価値」を重視するなら、すぐに目立つ実績や称号が得られなくても受け入れる覚悟が必要です。本質的に重要なのは、どの道を「歩くか」そのものではなく、「全ては自分の選択だった」と受け入れられるかどうかになります。
◆9:コントロールできる範囲に集中する
関心はあっても影響できないことに消耗するのは燃え尽き症候群のもとです。組織が大きくなるほど、自分は外的要因で動かされてばかりだと感じやすくなります。しかしそこに屈せず、自分が操作・影響できるゾーンに集中することが重要です。
リーダーやベテランには、思う以上に「分散された影響力」がありますが、想定外のところに影響をおよぼしてしまう場合もあるそうです。「自分の影響範囲」には、地位・人間関係・積み重ねている意義ある取り組みなども含まれるので、しっかり把握しておく必要があります。
◆10:バランスのとれた「人生のポートフォリオ」を持つ
資産運用の世界では資産を分散することは常識ですが、キャリア設計では忘れられがちです。組織評価だけに自分の価値基盤を置いていたら、それが揺らぐとアイデンティティそのものまで動揺してしまいます。そのため、最強のリスクヘッジは「意味の分散投資」であるとLeading Sapiensは主張しています。
具体的には「組織外で活かせる技術や職能を磨く」「異なるコミュニティやつながりに投資する」「プロジェクトや人間関係、学びの場を複線化する」といったことが重要です。このような「適応力の源泉」があれば、「次の人事サイクルやひとつのフィードバックに左右されない、持続的な人生戦略が描ける」とLeading Sapiensはアドバイスしました。
なお、ソーシャル掲示板のHacker Newsでは学校と仕事の違いについて議論されており、「学校では職場のような自由な移動が許されないため、観察力と勤勉さを持つ人は比較的良い状況へ軌道修正できますが、職場ではこれが全く通用しない」「職場では失敗する機会がほぼ無限にありますが、実際に失敗に直面しても数週間から数カ月の改善計画期間を経て、別の職務に異動することができる」「学校では論文を書くのが苦手でも問題ありません。ただ論文を書くだけで、上達しても下手になっても、書くべき論文の数は変わりません。一方、仕事では専門性を高め、弱みを最小限に抑え、強みを生かすことができる」「テストに似た要素を持つ仕事はごくごくわずかです。現実の世界では、特定の作業が必要な理由を理解しなければなりませんが、ほとんどの人は立ち止まって参考資料で詳細を確認する機会があります。テストはこうした要素を全く反映していません」「現実世界では常に追加説明を求められ、自身の限界を交渉することも可能です。上司から指示を受けた場合、そのアプローチの限界点や、部分的に有効と思われる代替案を話し合って説明する必要があります。これは現実世界では非常に有効ですが、教室環境でははるかに制約されます」といったアドバイスが投稿されています。
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