小規模なオープンソースプロジェクト「Deepkit」の所有する商標が、1億5000万ユーロ(約256億円)を調達したベンチャー「Deepki」の訴えにより取り消されてしまったという嘆きが、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsに投稿されています。
VC-backed company just killed my EU trademark for a small OSS project | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=44883634
$160M VC-backed company just killed my EU trademark for a small OSS project. Is it even worth fighting? : r/ExperiencedDevs
https://www.reddit.com/r/ExperiencedDevs/comments/1mopzhz/160m_vcbacked_company_just_killed_my_eu_trademark/
「Deepkit」は、エンジニアで起業家のマーク・J・シュミット氏が2018年にドイツ・ハンブルグで創業した、TypeScriptのバックエンドウェブアプリケーション向けのモジュラーフレームワークです。
Libraries // Deepkit Enterprise TypeScript Framework
https://deepkit.io/
オープンソースプロジェクトとしては小規模な部類ですが、シュミット氏にとっては「守るべきもの」ということで、EUとアメリカで商標登録が行われました。
そこに現れたのがフランス・パリを拠点とする、不動産業界向けにESGデータインテリジェンスプラットフォームを提供する「Deepki」という企業です。Deepkiは2022年にシリーズCラウンドで1億5000万ユーロの資金調達に成功しています。
ESG DATA INTELLIGENCE FIRM, DEEPKI, RAISES €150 MILLION TO HELP REAL ESTATE SECTOR REDUCE ITS ENVIRONMENTAL IMPACT AND COMBAT CLIMATE CHANGE
https://www.prnewswire.com/news-releases/esg-data-intelligence-firm-deepki-raises-150-million-to-help-real-estate-sector-reduce-its-environmental-impact-and-combat-climate-change-301513553.html
シュミット氏によると、資金調達後に商標が必要となったDeepkiは、欧州連合知的財産庁(EUIPO)に対して「Deepkit」の商標取り消しを申請したとのこと。
EUIPOはオープンソースプロジェクトの商標取得を認めていますが、EU内での商標の「真正な使用」の証明が必要だとシュミット氏は述べています。ウェブサービスの場合、ユーザーのデータを収集しなければ「EU内でユーザーが利用している」ことを証明できませんが、シュミット氏は情報収集量をできるだけ少なくするようにしていて、また、メインページで一時期稼働させていたGoogle Analyticsは多くのユーザーがブロックしていて、ほとんど機能しなかったそうです。
このためEUIPOは、2018年から2023年までの統計データでDeepkitのサイトを訪問したユーザーのうちEU内のユーザーは1800人程度と少なく、EU内の商業的利用の実態として認められないと判断。また、数十万回のダウンロードや数千件のスターを含むnpmjs+GitHubの統計データについては、位置情報データがないためEUでの使用を確認できないとして却下されました。シュミット氏によれば、EUIPOは「登録された商標『Deepkit』とサービスの利用を明確に紐付けられない」と主張してきたとのこと。

こうして、Deepkiによる申請が認められ、シュミット氏の持つDeepkitの商標は商標取り消し申請の提出された2024年3月18日にさかのぼって取り消されました。また、取り消し手続きで敗訴した形のシュミット氏は、相手方の負担した費用を支払うことになりました。
Deepkiはアメリカでも商標の取得を狙い、2022年に申請を行った際は「類似性が過度に高い」としてUSPTO(アメリカ特許商標庁)に却下されていますが、2025年に再度の申請を行い、商標登録に成功しています。なぜ一度却下された申請が通ったのかは不明だとのこと。
こうした状況に、シュミット氏は他のユーザーに向けて以下のような相談をしています。
・セカンドオピニオンを得た上でEUで異議申し立てを行うべきでしょうか。Deepkitは非常に小さいプロジェクトです。
・アメリカでのDeepkiの商標登録に異議申し立てを行うべきでしょうか。
・それとも、Deepkitの商標権を完全に放棄すべきでしょうか。すでにこの件では多額の損失を被っています。
・オープンソースプロジェクト全般で、収益を発生させることなくEU内での使用を証明する実践的でプライバシーに配慮した方法はあるのでしょうか。
・EUでの使用証明がこれほど脆弱なら、商標を維持する価値はあるのでしょうか。弁護士に数千ドル(数十万円)払っても簡単に商標が取り消される可能性があるのに。
なお、Hacker Newsでは「GitHubやウェブサイトを運営し、登録された名称を使用しているだけで、『商標を使用している』という要件は満たしているはずです」や「EUでの商標を取り消されても先に使っていたのはシュミット氏であり、また、Deepkiも必要な商標は手に入れていてこれ以上の行動は起こさないと考えられるので、名前は変更しないべき」とのコメントがある一方、「訴訟に費やすには、人生は短すぎる」と問題を避ける方向の呼びかけも行われています。
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