中国の半導体メーカーがハイエンドのDRAMなどの製造に成功する中、中国国内でのAI需要を満たすために一部DRAMの生産を段階的に減らしているのではという憶測が流れており、これがDRAMの価格をわずか1カ月で2倍に上昇させていると報じられています。
China makes inroads in DRAM chips in challenge to Samsung and Micron – Nikkei Asia
https://asia.nikkei.com/business/technology/tech-asia/china-makes-inroads-in-dram-chips-in-challenge-to-samsung-and-micron
Bloombergの2025年1月末の報道によると、アメリカによる中国に対する輸出規制にもかかわらず、中国の半導体メーカーであるChangXin Memory Technologies(CXMT)は半導体製造技術をさらに進歩させることに成功しています。
China’s CXMT Memory Chip Breakthrough Beats US Export Controls – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-01-28/china-s-cxmt-memory-chip-breakthrough-beats-us-export-controls
Bloombergがカナダに拠点を置く調査会社のTechInsightsから入手した情報によると、CXMTの製造しているDDR5 DRAMはGlowayが販売するメモリモジュールに搭載されており、中国国内市場ではこれまで見られなかった高度な製造技術が用いられているそうです。
Bloombergに情報提供したTechInsightsは、「CXMTは商業規模でDDR5 DRAMを設計・製造するための独自のアプローチを見出したということになります。TechInsightsはCXMT製DDR5 DRAMが2025年末から2026年初頭に登場すると予想していたため、今回の発見には驚いています」と言及しました。
なお、アメリカによるDRAM関連の輸出規制は、「トランジスタの最小配線ピッチの1/2(ハーフピッチ)が18nm(ナノメートル)以下のDRAMチップを製造するための技術や装置を、アメリカ政府の承認なしには中国企業に供給することはできない」というものです。しかし、CXMTが開発した最新のDDR5 DRAMは16nmのハーフピッチを実現している模様。なお、半導体ではナノメートル単位の寸法が小さくなるほど、半導体の性能や電力効率が向上します。
DDR5 DRAMは2020年に商業化されて以来、SKハイニックスやSamsungといった業界大手が提供する主力のDRAM製品となっており、NVIDIAなどが開発するAIアクセラレーター向けの高帯域メモリチップにも使用されています。ただし、CXMTの最新技術は、韓国やアメリカのMicron Technologyといった業界最大手のメーカーのテクノロジーと比べると、約3年の遅れがあるとTechInsightsは指摘しました。
なお、アメリカ商務省産業安全保障局は2024年12月に中国に対して24種類の半導体製造装置と3つの半導体開発に不可欠なソフトウェアカテゴリの輸出禁止措置を発表し、中国企業140社をエンティティリスト(輸出規制対象)に追加しました。
アメリカが中国のAI軍事利用を懸念して広帯域幅メモリ(HBM)の輸出規制を強化し中国企業140社をエンティティリストに追加 – GIGAZINE
このエンティティリストには中国の大手半導体企業であるCXMTが含まれていなかったのですが、この理由は日本の影響によるものであるとSouth China Morning Postが報じています。CXMTは日本の大手半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンから主要な供給を受けているため、日本が反対したことでアメリカはCXMTをエンティティリストに含めなかったと複数の情報筋が証言しました。
日本企業の反対で中国最大のDRAMメーカー「CXMT」がアメリカのブラックリストから除外されたとの報道 – GIGAZINE
また、CXMTはチップのパッケージングおよびテストを手がける半導体企業のTongfu Microelectronicsと提携し、HBMチップのサンプルを開発したことが2024年5月に報じられています。関係者によると、CXMTの開発したHBMチップはすでに一部の顧客に提供されており、CXMTはHBM開発に必要な装置を購入するため、韓国や日本の半導体製造装置メーカーと定期的に会合を重ねているとのことです。
Chinese firms make headway in producing high bandwidth memory for AI chipsets | Reuters
https://www.reuters.com/technology/chinese-firms-make-headway-producing-high-bandwidth-memory-ai-chipsets-2024-05-14/
市場に出回っているDRAMのほとんどは、標準のDDR4と高速なデータ転送を実現した次世代モデルのDDR5です。東京に拠点を置く調査会社BCNによると、デスクトップPC向けのDRAMのシェアはDDR4が約60%、DDR5が約40%を占めています。
Nikkei Asiaの報道によると、2025年6月時点での8GbitのDDR4 DRAMの価格は1個当たり約4.12ドル(約610円)、4GbitのDDR4 DRAMは1個当たり約3.14ドル(約460円)でした。4GbitのDDR4 DRAMの価格は2021年7月以降で初めて高値を更新しています。
また、半導体商社によるとDDR4 DRAMの販売価格は1カ月で2倍に上昇しており、このような前例はないとのこと。DDR4 DRAMの販売価格が上昇している理由について、Nikkei Asiaは「中国のCXMTがDDR4の生産を停止したのではないかという憶測が広まっており、これにより不足の懸念が高まっています」と報じました。
CXMTは中国政府の半導体分野を支援しており、CXMTの親会社は中国国営の半導体基金の支援を受けています。中国メディアは、政府がAIやクラウドコンピューティング向け半導体に注力する方針に沿って、CXMTもDDR5 DRAMの生産にシフトしていくと予想しているそうです。
中国の大手証券会社である中信証券によると、CXMTは2024年にDDR5 DRAMの生産を小規模に開始し、記事作成時点では量産を計画しています。現状ではDDR5 DRAMの生産歩留まりが低いため、本格的な量産開始は2025年後半になるとの見方があるそうです。
CXMTはDDR4 DRAMの生産工場をDDR5 DRAMの生産に転用しているようで、これがDDR4 DRAMの生産減少に影響している模様。なお、CXMTのDDR4 DRAM生産は2026年上半期にも終了すると予想されています。
市場調査会社のOmdiaによると、DRAMの売上トップ3はSamsung、SKハイニックス、Micron Technologyです。この3社は2025年第2四半期に市場の90%を占めています。3社による価格競争は、DDR4 DRAMの収益性を圧迫しており、SamsungとSKハイニックスはDDR5 DRAMへの以降に伴いDDR4 DRAMの生産量を減少させているという予想もあります。これらもDDR4 DRAMの高騰につながっているとNikkei Asiaは報じました。
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