Repro Boosterのプロダクトマネージャー、Edward Foxです。
以前の記事(Repro Booster が AWS Roadmap Acceleration (RAP) プログラムに参加しました)でもご紹介した通り、BoosterチームとしてAWSのRoadmap Acceleration (RAP) というプログラムに参加する機会をいただきました。事前の質問回答に加えAWSのオフィスで約2時間の同期セッションを行い、事業やプロダクト開発の現在地、将来の展望、そして現在の課題や今後の戦略について、非常に密度の濃いディスカッションをすることができました。
そのディスカッション内容に基づき、後日AWSからレポートを受領しましたので、本記事ではその内容と実際にBoosterのロードマップ策定に活用してみた顛末をまとめています。
Scoring Rubric

今回いただいたレポートの趣旨は、端的に言えば「Repro Boosterがプロダクト開発において、何を優先し、どの方向にリソースを投資していくべきか」についてのアドバイスと提案です。レポートは非常に簡潔ながら密度の濃い内容でした。「どのようにしてAWSのサービスを活用して実現していくか」というAWSさん側の趣旨がないわけではないのですが、事前の情報やディスカッションの内容をかなり客観的に評価いただいたレポートだという印象です。
レポートの冒頭には前提となる「Scoring Rubric(評価基準)」が明記されていました。これは、今後行うプロジェクトや開発タスクを「どのような軸で評価したのか」を端的に示すものです。
「優先順位」と一口に言っても、その付け方は立場や文脈によって往々にして変わります。このように評価基準そのものが背景と共に示されている点は、非常に素晴らしいと感じました。基準が明確であることで、なぜこの優先順位なのかを後からでも正確に振り返ることができます。この「記録」こそが、ロードマップ策定という活動のPDCAを回し、その質を継続的に高めていくことにつながると考えています。

「コスパ」から「コスト・リスク比」へ
レポートの中で特に興味深かったのが、このScoring Rubricが「Transition Cost(移行コスト)」 と「Transition Risk(移行リスク)」 という2つの次元で整理されていた点です。
これまで私自身がよく用いてきたフレームワークは、「重要度と緊急度」や「コストとインパクト」といった2軸4象限のマトリックスを用いた整理でした。今回のものも一見すると似ていますが、「リスク」という軸が明確に定義されている点は非常に示唆深いです。これは、奇しくも私が少し前に「リスク」というテーマで書いたこちらの記事( リスクと踊るためのアジャイル開発 )の内容とも深くリンクする部分です。
ここで言う「リスク」とは、単に「コストが大きい(工数がかかる)」といった概念とは異なります。レポートのルーブリックを参考に解釈すると、これは以下のような要素、すなわち「不確実性(とは厳密には違うのだけど)」の度合いを示す指標です。
- 失敗する確率: その取り組みが期待した成果を出せずに終わる可能性はどれくらいか。
- 遅延の可能性: 解像度が低いがゆえに、想定外の問題が発生し遅れる可能性はどれくらいか。
- 前例の有無: 過去に自社や市場で前例があるか(”Paved paths”)。前例がなければリスクは高くなります。
- 不可逆性: 「One-way doors vs. Two ways doors」という視点です。もしその取り組みが失敗したときに、簡単に元の状態に戻せる(Two-way door)ならリスクは低く、後戻りできない(One-way door)ならリスクは高いと判断されます。
もちろん、コストが大きくなれば、必然的に関わる時間やステークホルダーも多く複雑性が増すため、一般的にリスクも高くなりがちです。しかし、これらを意図的に別の軸として切り離して考えることに、このフレームワークの価値があるわけです。
2軸4象限と戦略的意思

この「コスト」と「リスク」の2軸、そして円の大きさで示される「Net Benefit(インパクト)」 という3つ目の次元によって、非常に情報密度の濃いOpportunity Assessment(機会評価)マップが描かれていました。
このマップは、タスクを以下の4象限に分類します。
1) Low hanging fruit(左下)
低コスト / 低リスク。 まさに「手の届く果実」です。実施が容易で成功の確度も高いため、インパクト(円の大きさ)が大きいものから迅速に取り組むべき、と解釈できる領域です。
2) Innovation fliers(左上)
低コスト / 高リスク。 安価にトライできる「実験」と言い換えられます。失敗する可能性はありますが、コストが低いため、大きなリターンが期待できるのであれば試してみる価値があります。リソースが限られる場合は、あえて手を出さないという戦略的判断も可能です。
3) Build business case(右下)
高コスト / 低リスク。 実行にかかるコストは大きいものの、前例があったり計画が立てやすかったりするため、リスクは低い領域です。予測可能なプロジェクトとして、その大きなコストに見合うだけのインパクトがあるか、「ビジネスケース(事業的観点からの狙い)」をしっかり構築した上で取り組むべきものです。
4) Higher-risk, High reward?(右上)
高コスト / 高リスク。 いわゆる「大きな賭け」です。コストも不確実性も高いため、取り組むには慎重な判断が必要です。事業のフェーズとしてPMFを目指す段階では避け、リソースに余裕がある、あるいは市場を一変させるためにあえて大きなリスクを取るべき戦略的局面でのみ選択肢となる領域です。
ロードマップへの活用
従来の「コスト vs インパクト」だけで優先順位を決めると、単純なROI(投資対効果)の計算に陥りがちです。しかし、そこに「リスク」という観点を加えることで、「今、自分たちはどの象限に注力すべきか?」という、より戦略的な視点からロードマップを整理できます。
今回、私たちはこのアウトプットをそのまま使うのではなく、すでに検討していたロードマップをさらに強化する目的でこの Opportunity Assessment を活用させていただきました。

実際に、次のロードマップを策定するタイミングでこの考え方を取り入れてみたところ、「コスト vs インパクト」という無味乾燥な視点だけでジャッジしてしまったり、あるいはリソースの空き具合を勝手に加味した属人的な優先度判断となってしまっていたところが、より論理的に整理できたと感じます。
「事業全体の状況を鑑みて、今我々が取り組むべきは『Innovation filers』の領域だ。その中でインパクトの大きいものから着手しよう」
「並行して、『Low hanging fruit』からコストが小さくインパクトのあるものをいくつかピックアップして、クイックに価値を届けよう」
といった形で、意思決定の質が格段に上がったと感じています。また、このフレームワークに基づいて策定されたロードマップは、ステークホルダーへの説明や、開発を推進する上でのチームの納得感を高めることにも繋がると期待しています。
まとめ
AWSがこのようなプログラムを提供できるのは、巨大なクラウドインフラを展開し、その上で無数の事業者やサービスを支援してきた膨大な知見があるからこそでしょう。
非常に有益な活動であり、多くの示探を得ることができました。今後もこのような機会があれば、積極的に参加していきたいと考えています。
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