人間が子どもを産まなくなったら絶滅までにどれくらい時間がかかるのか? – GIGAZINE


近年は世界各国で出生率の減少が問題となっており、日本では2024年に生まれた子どもの数が約68万6000人と、統計を取り出して初めて70万人を下回りました。「もし人間がまったく子どもを産まなくなったら、絶滅までにどれくらい時間がかかるのか?」という疑問に対し、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の人類学名誉教授であるマイケル・リトル氏が回答しています。

If people stopped having babies, how long would it be before humans were all gone?
https://theconversation.com/if-people-stopped-having-babies-how-long-would-it-be-before-humans-were-all-gone-255811


まずリトル氏は、端的に「100年以上生きる人はほとんどいません。ですから、もし誰も子どもを産まなくなったら、おそらく100年以内に地球上から人類は消えるでしょう」と指摘しています。しかし、たとえすべての出生が突然止まったとしても、人口減少はゆっくりと進行していくとのこと。

人口減少は高齢者の死亡によって進んでいき、やがて若者世代が中年や高齢者となっても、後の若者世代が誕生することはありません。そのため、最終的には社会を動かすのに必要不可欠な仕事を担う人間が足りなくなり、世界中の社会分野が急速に崩壊していくだろうとリトル氏は考えています。

崩壊する分野には食料生産や医療の提供、電気や水道などのインフラストラクチャー、そして人間全体が必要とするあらゆる活動が含まれます。そのため、養うべき人口が減っても人々の生活は苦しくなり、食料も不足するとみられます。

リトル氏は、「人間の行動や生物学、文化の研究にキャリアを費やしてきた人類学教授として、この状況は決して好ましくないと認めざるを得ません。最終的に文明は崩壊するでしょう。食料、清潔な水、処方薬、そして現在私たちが簡単に購入できる生存に必要なあらゆるものが不足するため、100年どころか70~80年以内に生存者はほとんどいなくなるでしょう」と述べました。


とはいえ、世界的な大惨事でもない限り、世界中の人間が出産できなくなってしまう可能性は極めて低いといえます。たとえば、SF作家のカート・ヴォネガットは「ガラパゴスの箱舟」という小説で、感染力が強い病気によって生殖年齢の人間全員が不妊になるというシナリオを描きました。

また、テレビドラマや映画にもなったマーガレット・アトウッドの「侍女の物語」は、出生率が急減した世界において妊娠可能な女性が「侍女」という子どもを産む道具とされるというシナリオを描いています。映画「トゥモロー・ワールド」の原作であるP・D・ジェイムズの「人類の子供たち」も、人間が繁殖能力を失い18年にわたり子どもが生まれない世界を舞台としています。これらの作品はいずれも、人々の苦しみや混乱がまん延する世界を描いています。


一方で1960年代~1970年代には、地球の人口が多すぎることによって問題が起きるのではないかと懸念されていました。記事作成時点でも世界の人口は増加傾向にありますが、そのペースは鈍化しています。

人口動態を研究する専門家によると、世界人口は記事作成時点の約80億人から、2080年代には100億人に達してピークを迎えるとのこと。しかし、少子高齢化に伴って出生率を死亡率が上回ることで、徐々に世界の人口は減っていくと予測されています。

リトル氏は、若者は社会の原動力となって新しいアイデアを実現したり、社会で用いられるあらゆるものを生産したりするため、若者と高齢者の間で適切なバランスが取られていることが重要だと指摘。また、体や認知能力の衰えた高齢者は食事や着替えといった基本的な活動でも若者の手助けが必要なため、高齢者と若者のバランスが悪すぎると双方に不利益が生じます。

出生率の減少の一部は、若者世代が両親の世代と比較して少ない子どもを産む選択をしていることや、男性の精子数が低下していることに起因します。国単位の人口減少は移民の受け入れによってある程度軽減できますが、これは政治的・文化的な要因によって阻まれる可能性があります。

男性の「精子の数」が過去40年間で全世界的に半減しており減少ペースは21世紀に入り加速していることが判明 – GIGAZINE


リトル氏は、かつて現生人類(ホモ・サピエンス)と同じ時代に生存していたネアンデルタール人が絶滅してしまったのは、ホモ・サピエンスの方が繁殖に成功していたためだと指摘。もしホモ・サピエンスが絶滅することがあれば、地球上で別の動物が繁栄する機会が生まれるかもしれないとの見方を示しています。

とはいえ、やはりリトル氏は人類学者として、芸術や科学を含む人間の文化が失われるのは寂しいことだと主張しています。リトル氏は、地球上で人間が長く生き続けるためにも、気候変動の抑制や戦争の回避、生物多様性の維持に努めるべきだと呼びかけました。

この記事のタイトルとURLをコピーする


ソース元はコチラ

この記事は役に立ちましたか?

もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

関連記事