政治的に多様な人々と関わることの意外なデメリットとは? – GIGAZINE


近年は各国で政治的二極化が進んでいると指摘されており、SNSなどで同じような政治的意見を持つ人だけで固まり、偏った信念がより強固になるエコーチェンバーが形成されることも懸念されています。一方、政治的に多様なネットワークを持っている人にも「意外なデメリット」が生じる可能性があると、学術誌のPolitical Research Quarterlyに掲載された論文で報告されました。

Political Network Diversity and Trust in Online Political Content – Paul B. Platzman, 2025
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/10659129251328247


Political diversity in your social circle might come with a surprising trade-off
https://www.psypost.org/political-diversity-in-your-social-circle-might-come-with-a-surprising-trade-off/

FacebookやXなどのソーシャルメディアは人々がニュースに触れる方法を一変させ、誤情報の拡散といった新たな課題が浮き彫りになっています。こうした背景から、アメリカ・コロンビア大学で博士号を取得したポール・プラッツマン氏は、「個人が持つ社会的ネットワークの政治的多様性」が、オンラインで目にする政治的コンテンツへの信頼にどのような影響を及ぼすのかを調査しました。

プラッツマン氏は、「この研究に先立って、私はアメリカ人の社会的ネットワークの構成が、彼らの政治的態度や信念、そして行動にどのような影響を与えるかに興味を持っていました。研究者たちはすでに、個人のネットワーク属性と測定可能な政治的特性との間に、いくつもの重要な関係性を示してきました。しかし、個人の政治的ネットワークの多様性と、個人がオンラインで遭遇する政治的コンテンツをそのまま受け入れる可能性との関係を研究した人はいませんでした」と述べています。

まずプラッツマン氏は、2020年アメリカ全国選挙調査(ANES)で実施されたソーシャルメディア調査の全国データを分析しました。この調査では、3000人以上の参加者に個人的なネットワークとFacebookの友人ネットワークの政治的構成、そしてFacebookやTwitter(現X)で目にする政治的コンテンツをどれほど信頼しているかを尋ねました。

プラッツマン氏は参加者の回答に基づいて「ネットワーク多様性スコア」を算出し、多様性スコアの高さとソーシャルメディアコンテンツへの信頼度の高さとの関係を調べました。その結果、政治的に多様なネットワークを持つ人ほどFacebookやTwitterで目にする政治情報への信頼度が高いことが示されました。この関連性は党派性・イデオロギー・人口統計といったその他の要因を考慮してもみられたほか、時間経過によって参加者の多様性スコアが変わると、政治情報への信頼度も変化することが確認されました。


プラッツマン氏は、政治的コンテンツへの信頼度の高まりが正当なものかどうかを調べるため、さらなる追跡調査を行いました。追跡調査では、被験者となったアメリカに住む550人の成人に対し、事実と虚偽を織り交ぜた政治的な見出しと、実際のソーシャルメディアを模倣した画像やレイアウトを含む模擬的なFacebook投稿を見せました。被験者は各見出しの正確さを評価し、その投稿を共有するかどうかを回答しました。

また、被験者は見出しを見る前に、政治的ネットワークに関する質問に答えました。具体的には、「政治についてどれほどの頻度で話すか」「会話の中でどれほど意見の相違や多様性を感じたか」といった点が調査され、プラッツマン氏は被験者の政治的ネットワークの多様性を評価しました。

実験の結果、政治的に多様なネットワークに属している人々は見出しを信じる傾向や、コンテンツを共有すると回答する傾向が強くみられました。問題は、これらの傾向はコンテンツが事実なのか虚偽なのかに左右されなかったという点でした。つまり、政治的に多様なネットワークに属している人々は真偽を見抜く目が養われるわけではなく、オンラインで遭遇する政治的コンテンツを真偽にかかわらず信じてしまいやすいというわけです。

さらにプラッツマン氏は、政治的に多様なネットワークが「正確性の向上を目的とした介入」にどう反応するのかを探るため、2000人以上の被験者を対象にした追跡調査を実施しました。調査では以前の実験同様、被験者に模擬Facebookコンテンツの正確さと共有する可能性を評価してもらいましたが、今回は一部の見出しに「ファクトチェックラベル」が付与され、一部の被験者にはオンライン上に虚偽情報が存在することを警告するメッセージが表示されました。

実験の結果、ファクトチェックラベルや警告メッセージは、被験者がコンテンツの真偽を判断する方法に影響を及ぼしました。しかし、ネットワーク多様性が高い人は判断力を高めるための介入に対し、ネットワーク多様性が低い人と同程度にしか反応しなかったと報告されています。


プラッツマン氏は、「政治的に多様なネットワークを持つことは、オンラインコンテンツにおける事実と虚構を見分ける上で、本質的に有益でも有害でもありません。そのため、ファクトチェックラベルやその他の正確性向上のための介入策を展開しようとするメディアやテクノロジープラットフォームは、誤情報への信頼を最も効果的に減らす可能性があるユーザーに対し、これらの介入措置の配信を最適化するべきです。その際、事実に基づくコンテンツへの信頼を減らしたり、疑わしいコンテンツに対する不当な信頼を生じさせたりしないようにする必要があります」と主張しました。

なお、今回の研究では、政治的ネットワークの多様性に関する指標は自己申告に基づいており、社会環境を必ずしも正確に反映していない可能性があります。また、実験ではソーシャルメディアへの投稿を模倣したコンテンツが使われていましたが、現実世界のオンライン環境でも同様の結果になるかどうかは不明です。

それでも、心理学系メディアのPsyPostは、「この研究は人々がどのようにオンライン上で情報と関わっているのかという、これまでほとんど見過ごされてきた要因に新たな光を当てています。社会的なつながりにおける政治的多様性は、分極化や偏見を緩和する手段として捉えられることが多いものの、意図せぬリスクを伴うこともあります。オンラインコンテンツにおいては、多様な意見に囲まれていることは人々の洞察力を高めるのではなく、ただ信頼度を高めるだけなのかもしれません」と述べました。

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