近年は気候変動による農業へのダメージや、大国の軍事侵攻による貿易の阻害といった要因により、食料品価格が世界的に上昇傾向にあります。そんな中でマサチューセッツ工科大学(MIT)やタフツ大学などの研究チームが、「2050年には食料品・水・エネルギーといった資源へのアクセスがどうなるのか」を予測しました。
MITのエネルギー研究者であるジェニファー・モリス氏らの研究チームは、生活に不可欠な食料・水・エネルギーといった資源へのアクセスが、将来的にどのようなものになるのかを予測する研究を実施しました。以前からこれらの資源安全保障についてはさまざまな研究が行われてきましたが、ほとんどの分析はグローバルな観点に基づいており、世界の異なる地域や所得による違いを具体的に探求したものは少ないとのこと。
今回の研究ではより詳細かつ包括的な分析を行うため、Global Change Analysis Model(GCAM:地球変動分析モデル)という大規模なコンピューターモデルを使用しました。GCAMはエネルギー・水・土地・社会経済・地球エコシステムが将来のさまざまな不確実性に対応し、どのように変化するのかをモデル化したものです。GCAMでは世界を32の地政学的地域に分割し、各地域内では所得分布に基づいて10のサブグループに分類されています。
研究チームは、人口・GDP・所得分配・炭素強度(特定の経済活動や産業プロセスあたりの二酸化炭素排出量)・土地利用・農業貿易・エネルギー消費シナリオ・水利用予測など、資源の利用可能性に関する12の主要な変数を用いて、3735種類の異なるシナリオについてシミュレーションを実行。2050年までに起こり得る、資源の利用可能性の変動について分析しました。
分析の結果、2050年における食料・水・エネルギーの利用可能性には大きな地域差があることがわかりました。2050年にはサハラ以南のアフリカで食料安全保障が最も深刻である一方、アジア・東ヨーロッパ・中東の一部地域では、特に低所得層でエネルギー安全保障が深刻になる可能性が示されました。さらに同じ地域内でも、資源の安全保障には所得による違いが大きいことがわかっています。
3735の仮想シナリオで得られた中央値に基づくと、2050年には収入のうち食費に充てなくてはいけない割合が、西アフリカの所得下位10%の最貧困層では48.4%、東アフリカの最貧困層では42.5%、南部アフリカの最貧困層では49.6%に達しました。
これらの結果は、バイオ作物や植林といった脱炭素化対策のために土地が利用され、食料価格が高騰することによって生じると指摘されています。食料価格を押し上げている気候変動対策自体が、資源の安全保障に影響を与えてしまうという事実は、問題と解決策のバランスを取ることがいかに難しいかを物語っています。
一方で資源の利用可能性は、同じ地域であっても所得による違いが大きいことも示されています。たとえば南部アフリカでは、2050年には最貧困層が収入の49.6%を食費に充てなくてはいけない可能性があるのに対し、最富裕層は収入のわずか5.5%を食費に充てるだけで済む可能性があるとのこと。
以下の地図は、2050年の時点で「収入のうち食費に充てなくてはいけない可能性がある割合」を表したもの。(a)は各地域の下位10%の最貧困層、(b)は各地域の上位10%の最富裕層を表しており、青色が濃いほど収入に占める食費の割合が50%に近いことを示しています。特にアフリカやアジア、オセアニアなどの最貧困層は収入の多くを食費に充てなくてはなりませんが、最富裕層ではその負担がほとんどないことがわかります。

以下の地図は、2050年の時点で「収入のうち住宅で使うエネルギー費に充てなくてはいけない可能性がある割合」を表したもの。(c)は各地域の下位10%の最貧困層、(d)は各地域の上位10%の最富裕層を表しており、緑色が濃いほど収入に占めるエネルギー費の割合が30%に近いことを示しています。特に東ヨーロッパや中東では最貧困層の負担が大きい一方、やはり最富裕層の負担は小さいことがわかります。

以下の地図は、2050年の時点における「物理的水不足の深刻度」を表したもので、赤色が濃いほど水不足が深刻なことを表しています。特に南アジアや中東では、水不足が深刻なことがうかがえます。

モリス氏は、「収入の半分を占めるような支出は、人生全体を不安定にする可能性があります。なぜなら、他の重要なニーズや基本的な生活必需品に充てる資源がほとんど残らないからです」と述べ、食費の割合が増えることの問題点を指摘しています。
論文の筆頭著者であり、テュレーン大学の環境工学者であるギジュ・キム氏は、「この研究は将来の食料・エネルギー・水の安全保障の危機を引き起こす、単一の要因は存在しないことを示しています。収入は重要ですが、地域情勢・土地利用・エネルギーシステム・水資源の利用可能性・消費者行動といった要素すべてが、人々が直面するリスクを左右します」と述べました。
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