人類は数千年にわたり数え切れないほどの戦争を繰り返しており、記事作成時点でもロシアによるウクライナ侵攻 、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃 など、さまざまな戦争が行われています。科学系メディアのLive Scienceが、「人類の歴史において戦争のない時期はあったのか」という問いについて、さまざまな専門家の声をまとめています。
2022年に発表された論文 では、人類が遊牧的な狩猟採集民として生活していた人類史初期においては、戦争はまれであったか存在しなかったと解説されています。
アメリカのジョージ・メイソン大学で歴史学名誉教授を務め、『Peace in World History(世界史における平和) 』の著者であるピーター・スターンズ氏もこの考えに同意しています。スターンズ氏はLive Scienceへのメールで、「農業が生まれる以前の狩猟採集文化においては、戦争はほとんど、あるいはまったくありませんでした」と述べています。
この考えは考古学的記録にも基づいています。世界各地で発掘された古代の人骨を調査した研究者らは、治癒していない刺し傷・切り傷・鈍器による外傷などを負った人々が集団墓地に埋葬された証拠を探してきました。これらの特徴的な遺体は、戦争が起きた証拠になるためです。
しかし、紀元前8000年より前の人骨からは、戦争による負傷の証拠はほとんど見つかっていないとのこと。その後、人類が遊牧生活から定住生活への移行を始めると、次第に戦争を示唆する負傷が増えていくそうです。
農業以前の社会に戦争がなかったという主張は、人間が致命的な暴力をふるわなかったという意味ではありません。2016年には、ケニアのナタルク遺跡で発掘された約1万年前のものとされる27体の遺骨 が、集団虐殺によって死亡したものであるとの研究結果が発表されました。また、スーダンのジェベル・サハバ遺跡では、集団間の暴力を示す約1万3000年前の遺骨 が発掘されています。
しかし、こうした対人暴力は研究者が考える「戦争の定義」とは相いれないため、一般的には戦争だと見なされません。スタンフォード大学の歴史学者で、『War! What Is It Good For?: Conflict and the Progress of Civilization from Primates to Robots(戦争!それは良いものか?:霊長類からロボットに至るまでの紛争と文明の進歩) 』の著者であるイアン・モリス氏も同様の主張をしています。
モリス氏は、「戦争を特定の暴力のカテゴリとして捉える研究者は一般に、戦争とは政府によって組織された暴力、あるいは一定数以上の人々を殺害する集団的暴力であると定義します。先史時代の社会に正式な政府はほとんどなく、狩猟採集民の集団が数十人を超えることもほとんどありませんでした。したがって戦争を政府によって運営される紛争、あるいは100人以上を殺害する紛争と定義するならば、定義上は初期の先史時代に戦争は存在しなかったことになります」と述べました。
オーストラリアのマッコーリー大学で歴史考古学の名誉教授を務めるデヴィッド・クリスチャン氏も、モリス氏の主張に賛同しています。クリスチャン氏は、「人類の歴史の大部分においてコミュニティは非常に小規模だったため、暴力と戦争を同一視できるかどうかは定かではありません。人間は常に暴力を振るう能力を持っていたと言えます。そして、コミュニティが大きくなるにつれて、その暴力は『戦争』と表現したくなるような形を取り始めたのです」とコメントしています。
大きな王国や帝国が出現するにつれて、戦争はより頻繁に起こるようになりました。主要国間の平和が保たれた時期に着目した(PDFファイル)博士論文 を執筆し、記事作成時点ではアラバマ空軍大学の助教を務めるジャレッド・マッキーニー氏は、歴史を通じて戦争は常態化していたと指摘。マッキーニー氏は、約200年にわたりローマ帝国 の平和が保たれたパクス・ロマーナ のような時期も、大抵の場合はひとつの強力な集団がその他の集団を屈服させていたことを意味すると主張しました。
しかし、戦争にはコストや危険が伴うため、互いに同程度の力を持つ敵国や隣国が協調し、戦争を回避する時期が続く例外もありました。たとえば紀元前1400~1200年頃にかけて、古代中東の大国であったエジプト とヒッタイト は、長期間にわたり大規模な戦争がない期間を2度経験しました。これは、2国の王が互いを対等な存在であると認め、領土や政治的な対立を戦争ではなく正式な条約によって解決したためです。
歴史の大半で戦争を繰り広げてきたローマ帝国とペルシア帝国 も、紀元前387~501年にかけてほぼ戦闘を停止しました。歴史家は長期にわたり戦争が起きなかった理由について、「両国とも深刻な外部の脅威に直面し、戦闘を行う余裕がなくなった」「互いを敵ではなく対等な存在として認める『兄弟愛』の言語が発達した」など、さまざまな説を挙げています。
中国の宋 は1000~1200年頃にかけて、好戦的な隣国である遼 や金 に定期的な金銭の支払いを行って平和を維持しました。これは一見するとより強力な国に屈服しているようにも見えますが、宋が貿易で得ていた収入に比べればわずかな金額だったとのこと。
また、中国・朝鮮・日本の間では1600~1850年頃にかけて長期的な平和が保たれていました。ヨーロッパ諸国は数世紀にわたり戦争を通じて権力や領土を争いあっていましたが、必ずしも戦争が自然な状態ではない地域もあったというわけです。
北アメリカでも、長年にわたり争いを繰り広げていた諸部族がイロコイ連邦 という集団を作り、1450~1777年まで平和を築いたとされています。また、マッキーニー氏は南米でも1935年以降、主権国家の間で大規模な戦争が起きていないと指摘しています。
マッキ-ニー氏は、「戦争は歴史的にみれば『普通』の出来事です。しかし、パターンには例外がみられます」と結論付けました。
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