実際には音がしていないのに音が聞こえるように錯覚してしまう耳鳴りに苦しむ人は、高齢化やストレスの増加、薬物乱用などによって増加傾向にあるとのこと。慢性的に発生する耳鳴りの治療に、マジックマッシュルームの幻覚成分であるシロシビンが役立つとする複数の研究結果についてまとめた論文が、学術誌のHearing Researchに掲載されました。
従来の耳鳴り治療では抗うつ薬や抗けいれん薬、血管拡張剤などが用いられていますが、これらの効果は限定的であり、重大な副作用があるとのこと。そのため、より効果的な治療法の開発が必要とされています。
そんな中、マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分のシロシビンが、慢性的な耳鳴りの治療に役立つ可能性があると複数の研究で指摘されています。シロシビンは近年、うつ病やアルコール依存症、拒食症などの治療に役立つ可能性があるとして注目されている成分です。
依然として耳鳴りの決定的な原因はよくわかっていないものの、睡眠や気分調節に関わる神経伝達物質のセロトニンとの関連が示唆されています。シロシビンはセロトニンと類似した物質であり、主としてセロトニン受容体である5-HT2A受容体に作用することがわかっています。
注目するべき研究結果として、カナダの研究者らがマウスにシロシビンを投与し、その後に聞いた音がマウスの脳に及ぼす影響を調べた2024年の論文が挙げられています。この論文は未査読ではあるものの、シロシビンが耳鳴りに関連するものと同じ経路に作用することを示しています。
カナダの研究チームが行った実験では、シロシビンを投与されたマウスでは脳が聞き慣れた音を背景雑音として記憶し、注意を払わなくなる「habituation(慣れ)」という現象が抑制されることが示されました。
シロシビンを投与されたマウスはあらゆる音をまるで初めて聞くかのように聞き続け、低強度の音に対する感受性も高いままでした。一方、対照群として生理食塩水を投与されたマウスでは脳が繰り返される音を遮断し、聞き慣れた音への注意力が低下したとのこと。耳鳴りに関するこれまでの研究では、慢性的な耳鳴りの症状を持つ人では脳が幻聴を新しい重要な音として認識し続けてしまい、幻聴を無視することを学習できないことがわかっています。

今回のレビュー論文を記した中国の研究チームは、脳内でシロシビンと耳鳴りが重なるいくつかのメカニズムについても調査しました。そのひとつが、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸と、抑制性の神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)です。
これまでの研究では、耳鳴りは脳内の興奮/鎮静システムのバランスが乱れることと関連付けられてきました。脳を落ち着かせるGABAの不足がによって興奮状態が蓄積し、聴覚に関連する神経細胞が実際の音による刺激がなくても発火してしまい、脳がその発火を実際の音として解釈してしまうというわけです。
シロシビンはグルタミン酸の増加を引き起こし、これがGABAの放出を促すことで、この経路にも影響を与えるとのこと。これにより過剰反応する脳のシステムがリセットされ、耳鳴り患者が幻聴にとらわれるのを防ぐ可能性があると研究チームは主張しています。
以下は研究チームが作成した、シロシビンとグルタミン酸やGABAの放出経路、そして耳鳴りとの関連性を示した図です。

今回のレビュー論文は、耳鳴りとシロシビンに関連するこれまでの研究結果をまとめたものであり、研究チームは今後もこの分野の研究を進めることを推奨しています。研究チームは論文の中で、「これらの研究を通してシロシビンの治療効果をより深く理解することができ、新たな治療プロトコルの開発や、耳鳴り患者へのより効果的な治療選択肢を提供するための科学的根拠が得られます」と述べました。
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