科学的な証拠は一貫して、握力がその人の全体的な健康状態を示す優れた指標であり、寿命を予測するのにも役立つことを示しています。たとえば40~69歳の約50万人のイギリス人を対象にした研究では、握力が5kg低い人は最長10年間の追跡調査中に死亡するリスクが約20%高くなることがわかりました。
また、研究者らは握力が男性で26kg未満、女性で16kg未満の「筋力が弱い」と判定された被験者では全体的な死亡リスクの上昇だけでなく、心臓発作や脳卒中などの心血管疾患、呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患、いくつかのがんによる死亡リスクが高いことも発見しました。
握力と健康状態の関係はあらゆる年齢層に当てはまりますが、高齢者においては特に死亡・心臓発作・脳卒中・転倒・骨折の予測因子となります。これは、加齢に伴う筋肉量および筋力減少であるサルコペニアの指標として、握力が優れているためと考えられます。そのため、一部の研究者らは握力を体温・脈拍・呼吸数・血圧といった従来の健康指標と並ぶ、「新たなバイタルサイン」と見なすべきだと提唱しています。
なお、若年層では高齢者に比べると、握力は寿命を予測する指標として有効ではないとのこと。その理由は、多くの若者が生理機能のピークに近い状態にあるためです。若年層では健康状態の個人差が比較的小さくなり、測定誤差や偶然の変動の影響を受けやすく、握力の違いが将来の健康状態の差として現れにくいとバレー氏は説明しました。

科学的に見ると、握力が健康状態や寿命の予測因子として優れているというのは事実ですが、全体的な健康状態を改善せずに握力だけを鍛えても、健康状態が改善したり寿命が延びたりするという証拠はありません。
一体なぜこのような主張が広まってしまったのかという疑問について、バレー氏は相関関係と因果関係が混同されてしまったからだと指摘。確かに握力と健康状態は相関関係にありますが、握力が健康状態を形作るという因果関係は証明されていません。それにもかかわらず、一部の健康インフルエンサーは行きすぎた解釈を行い、「握力を鍛えると長生きできる」といった説を唱えてしまうというわけです。
バレー氏によると、健康インフルエンサーの中には握力は健康の原因ではなく、あくまで代理指標であると科学的に説明しているにもかかわらず、矛盾したことに動画の中で握力の鍛え方をレクチャーしている場合もあるとのこと。これは握力と健康の関係が因果関係ではないというメッセージを損なうものだと指摘しています。
バレー氏は「問題のひとつは、インフルエンサーやジャーナリストが科学的な説明だけでは不十分だと感じ、実践的な健康アドバイスや解決策を提供しなければならないと考える点にあります。これは行きすぎた行為につながり、証拠が示す範囲を超えたアドバイスを与えてしまうことがあります」と述べました。
なお、試しにショート動画プラットフォームのTikTokで「握力 寿命」と検索してみるとこんな感じ。すべての動画をチェックしたわけではないものの、中には「握力を鍛えると長生きできる」といったメッセージを伝えるものもあります。

バレー氏は、確かに握力は健康状態や寿命を予測するのに役立つ手軽でわかりやすい指標であるものの、握力だけを向上させても健康状態が改善されたり、寿命が延びたりするわけではないと指摘。「健康と長寿をもたらす最も効果的な方法は、やはり誰もが知っているような『体を動かすこと』『バランスの取れた食事をすること』『十分な睡眠を取ること』『人とのつながりを保つこと』『ストレスをうまく管理すること』などの基本的なものです」と述べました。