一般人による銃所持が広く認められているアメリカでは、銃乱射事件が多発しており、1日に1~2件のペースで銃乱射事件が起きています。長らく、銃乱射事件への恐怖心は人々を銃規制支持に向かわせると考えられてきましたが、新たな研究では必ずしもそうではないとの結果が示されました。
Fear of Mass Shootings and Gun Control Sentiment: A Study of Emerging Adults in Contemporary America – Turanovic – 2025 – Social Science Quarterly – Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ssqu.70087
For young Republicans and men, fear of mass shootings fuels opposition to gun control
https://www.psypost.org/for-young-republicans-and-men-fear-of-mass-shootings-fuels-opposition-to-gun-control/
アメリカでは銃乱射事件が頻繁に起きていますが、特に若い世代で銃乱射事件の現場に遭遇した割合が高いことがわかっています。また、18歳~29歳の「massacre generation(虐殺の世代)」と呼ばれる年齢層は、学校での銃乱射事件や大量殺人のメディア報道が絶えなかった時期に生まれ育っており、特に銃乱射事件への恐怖と不安が強いといわれています。
アメリカの若者は「銃乱射事件世代」と呼ばれている、15人に1人が「銃乱射事件」の現場に居合わせたことがあるとの調査結果で – GIGAZINE
一般に、銃乱射事件への恐怖心が高いほど銃規制を支持する傾向が強まると考えられているため、若者世代が政治的権力を握るようになるにつれて、銃規制に向けた動きが進むのではないかと期待されています。そこで、コロラド大学ボルダー校の社会学准教授であるジュリアン・トゥラノヴィッチ氏らの研究チームは、全米の若者たちを対象にした調査を行いました。
調査では全米50州に住む18~29歳の若者1674人を対象に、「銃の所有を増やすことで安全性が高まると思うか」「大学のキャンパスで銃を持ち歩くことを許可するべきか」など、銃器へのアクセスに関するアンケートを実施。これにより、被験者の銃規制に対する態度を測定したとのこと。
また、学校やショッピングモール、大規模なイベントといったシチュエーションで銃乱射事件が発生することをどの程度心配しているかを尋ね、銃乱射事件への恐怖心についても評価しました。政治的所属や性別、人種、学歴といったその他の要因も考慮して、研究チームは統計分析を行いました。
調査の結果、被験者の60%以上が銃乱射事件による生活への影響を懸念しており、若年層において銃乱射事件への恐怖がまん延していることが示されました。そして、銃乱射事件への恐怖心の高まりと銃規制支持の間には、ある程度の関連性がみられることも確認されました。しかし、詳しく内容を分析していくと、より複雑なパターンが現れたとのこと。
政治的アイデンティティ別にデータを分析したところ、共和党員または保守派と自認する若者においては、銃乱射事件への恐怖心の高まりが銃規制への支持率の低下と関連していました。これらの人々では、銃乱射事件への恐怖が政府による銃規制を求めるのではなく、「銃を持った善人」による自衛への信念を強める可能性があることが示唆されています。
また、性別による違いも確認されました。銃乱射事件への恐怖心が低い男女では銃規制への見解が似通っていたものの、恐怖心が高まるにつれて女性では銃規制への支持が強まる一方、男性では銃規制に反対する傾向が強まりました。これは、「男らしさ」を家族の保護者あるいは養育者と結びつける文化的観念を反映している可能性があります。この観念の中では、銃器の所有が家族の安全を守る手段とみなされています。
地域によっても微妙な差がみられ、多くの地域では銃乱射事件への恐怖心が強まるほど銃規制への支持も強まりましたが、アメリカ北東部では逆のパターンがみられました。研究チームは、すでに北東部ではアメリカで最も厳しい銃規制法が試行されているにもかかわらず、この地域では依然として大規模な銃乱射事件が起きているため、住民らが銃規制の効果を疑問視しているのではないかと推測しました。
なお、人種や民族、学歴といった要素は、銃乱射事件への恐怖心と銃規制との関連に有意な変化をもたらしませんでした。トゥラノヴィッチ氏は、「この世代の人々は、集団暴力に対する強い恐怖と不安を抱えて生きています。しかし、こうした共通の恐怖が、銃規制に対する彼らの態度を統一しているわけではないことがわかりました。実際のところ、彼らをむしろ両極化させているのです」と述べました。
今回の研究結果はあくまで関連性を示したものであり、銃乱射事件への恐怖心が銃規制への態度を変化させるのか、それとも銃規制への態度が恐怖心に影響するのかは不明です。また、被験者の集団は多様であったものの、アメリカの若年層全体を完全に反映したものではありません。今後の研究では、個人を長期にわたって追跡調査することで、特に地域社会で銃乱射事件を経験した後に考え方がどのように変化するかをより深く理解できる可能性があります。
心理学系メディアのPsyPostは、「この研究は結局のところ、銃規制法の政治的な将来が、一部の人々が想定するほど単純ではないことを示唆しています。大量の銃乱射事件の影響下で育ったという共通の認識が、解決策に関するコンセンサスを自動的に生み出すわけではありません」と述べました。
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