ラクダやラマなどのラクダ科動物が産生する「ナノボディ」というタンパク質が、アルツハイマー病や統合失調症といった脳の疾患を治療するのに役立つ可能性があると、フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究チームが報告しました。
Nanobodies: a new paradigm for brain disorder therapies: Trends in Pharmacological Sciences
https://www.cell.com/trends/pharmacological-sciences/fulltext/S0165-6147(25)00228-7
Camels and Llamas could hold the key to treating future brain disorders – Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/camels-and-llamas-could-hold-the-key-to-treating-future-brain-disorders
A Unique Protein in Camels And Llamas May Protect The Brain From Alzheimer’s : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/a-unique-protein-in-camels-and-llamas-may-protect-the-brain-from-alzheimers
抗体は体内に侵入したウイルスや細菌などに結合し、免疫細胞が排除・対応するように仕向ける役割を持っています。ヒトが持っている最も一般的な抗体は免疫グロブリンGと呼ばれ、2本の重鎖と2本の軽鎖から構成されており、分子量は約150kDa(キロダルトン)です。
一方、ラクダやラマなどのラクダ科動物はヒトよりも小さな抗体を自然に産生しており、2本の重鎖と2本の軽鎖からなる一般的な抗体だけでなく、重鎖のみの抗体も産生することがわかっています。この重鎖のみの抗体は「ナノボディ」と呼ばれ、分子量は約12~15kDaとヒトが産生する抗体の約10分の1の大きさです。
ナノボディは小さくて目立たない構造であるため、ウイルスの防御システムをかいくぐって無力化することが可能です。すでに、季節性インフルエンザやノロウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの治療に、ラクダ科動物由来のナノボディが役立つ可能性が示されています。
これまでナノボディは、アルツハイマー病や統合失調症といった脳疾患の治療には使えないと思われていました。その理由は、脳に到達する前に腎臓で血流から排除されたり、血液と脳の間の物質移動を制御する血液脳関門を通過できなかったりすると考えられていたためです。
しかし、近年の研究ではこれらの課題が克服され、動物モデルの実験では人工ナノボディが血液脳関門を通過し、アルツハイマー病に関連するタウタンパク質やアミロイドβタンパク質を標的にして排除できることが示されています。
科学者らはナノボディを人間に投与する前に、薬剤の安定性や血液脳関門を通過する仕組み、脳内にとどまる期間といった点を評価する必要があります。また、長期保管と輸送に耐えられる臨床グレードの安定した製剤開発も重要とのこと。
論文の共著者で、CNRSの神経薬理学者であるフィリップ・ロンダード氏は、「ラクダ科動物のナノボディは、脳疾患に対する生物学的治療の新たな時代を切り開き、治療法に関する私たちの考え方に革命をもたらします。従来の抗体と低分子化合物の中間に位置する、新たなクラスの薬剤を形成できると考えています」とコメントしました。
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